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第3話 最奥の部屋

 光で視界が奪われる。

 そして一瞬の浮遊感の後、数秒後に視界が回復する。


「何処だ…此処…」


 目の前に広がるのは瑞々しく生い茂った木々がある空間。

 奥には赤い屋根の木造の小屋。その手前には柵があり、畑の様な物が存在した。


(そう言えば此処に来る前…確かフロートダンジョンの最奥へ転移するって…いや、それにしてもまずあの声は何だったんだ?)


 頭が混乱する。

 先程までスライムに攻撃されて死にかけてた者が、ダンジョンの最奥に居る。

 ダンジョンの最奥とは、数多の冒険者が強大な魔物との死闘、試練を終えて辿り着ける場所。

 偶々、ダンジョンの鍵? で果物ナイフが地面に刺さったくらいで来れる場所ではない。

 増してや此処は既に攻略されたダンジョンだ。こんな事があるなんて聞いた事がない…。


「一先ず…っは、あの小屋に行くしかないよな…」


 実は自分は死んでいるのかと思う程の状況に、現実と夢の区別がつかないエデンは、何十秒も掛けて、痛めた身体をゆっくりと起き上がらせる。


 行動しなければ何も始まらない。

 此処が本当にフロートダンジョンの最奥なのか、何故自分は此処に来れたのか、諸々調べようとエデンは、奥にある小屋に向かった。




 小屋の前に立つ。


「……何だこれ」


 まず1番最初に気になったのが、その小屋の大きさだった。


「小さかったんだな…」


 近づいてみるとよく分かった。小屋までの距離は思ってたよりも短かったのだ。

 扉の高さはギリギリ入れるぐらいと言う、何とも誰が住むのかと疑うレベルだった。


 トントントン


 一応ノックをするが、何の返事もない。


「入るぞ…」


 ガチャ


 奥にはキッチンらしき物があり、窓際には綺麗に整えられたベッド、壁際にある本棚には沢山の本、テーブルには緑のクロスを置いて彩り良い。

 至って普通の部屋だった。

 強いて言うなら物が古く、埃が被っていると言うだけで、他に何も異常な点はない。


「誰かが住んでいた…けど、当分使われてないみたいだな…」


 小さな小屋だが立派な物だ。

 路地裏と比べたら天と地の差がある。


「他に何か…」


 エデンは辺りを見回す。

 キッチンの棚を開けてみたり、ベッドの下を覗き込んだり、テーブルクロスをめくったりするが何も無い。


「後は本だけど…文字読めない俺が見てもな…」


 本棚の本に手を伸ばす。




[俺は天才だった]

「っ!!?」


 突然頭の中に高い女の様な声が響く。

 思わず辺りを見回すが、誰かいる気配はない。


[だけど体格に恵まれなかった]

「…この本か?」


 本を手に取った瞬間、声が聞こえたと言う事はそうなんだろう。

 エデンは本を捲る。


 「うん。分からない」


 流石に声が聞こえるからと言って、文字が読める訳ではない。

 どんな仕組みで聞こえてくるかは分からないが、エデンは声に集中する。


[俺は昔から冒険者になりたかった。だが、身体が小さかった俺は、冒険者をやるには圧倒的に筋力が足りなかった]


 声の主の声が低くなる。


[大体の武器の総重量は5キロもあった。だから冒険者になるには、相当体格が良くなければなる事は出来なかった]


 今の武器は平均して2、3キロ。大分重かった様だ。この主も一緒の気持ちだったのか。

 エデンは声の主に親近感を持つ。それと同時に、何故そんな者の声がこのダンジョンの最奥と言われる所で聞けたのかと、疑問が浮かぶ。


[だが俺は、冒険者を諦めたくなかった。ありとあらゆる未踏の地や秘境を冒険し、名声を手に入れたかった]


 この人はこの人なりに譲れなかった物があった様だ。


[そこで俺はありとあらゆる物を試した。だが俺に合う武器はなかった。そこで俺は作った。俺の身体に合う武器を…。本棚の1番上の段、右から2つ目の本を手に取ってくれ]


(何だ? この人は誰かに何かを残す為に話しているのか?)


 まだまともな情報を得ていないエデンは、それに素直に従う。


「これか?」


 ガコンッ ガ ガガガガガ ドスーン…


 言われた本を取ると本棚が動き、地下へと続く階段が出て来た。


[最初の本は持って行かなくていい。今取った本を持ったまま地下へ行く事を勧める]


 そこまで指示するのに少し嫌気がさしたが、言う通りにする。


「これは…!!」


 降りた先は地上とは正反対とでも言える、実験場の様な所だった。

 見る限り、初めて見る様なばかり。

 銀色の硬い物質で出来た管が何本も辺りを通っている。グラスを細長く、小さくした容器も沢山ある。


[此処は俺の実験場だ。あまり不用意に触れるなよ、爆発しかねない]


 そう言う事は先に言ってくれ!

 すぐさま手を引っ込める。


[で、俺の自慢の武器がーーー真正面の机の上にある物だ]


 そこには銀色に鈍く輝く物があった。

 あまり大きくない。何処かで見たことがある様な形…となれば…。


[成長する果物ナイフ、だ]

「成長する…?」


 ただの果物ナイフじゃないのか? 此処に来るのに果物ナイフが鍵とか言ってたから、武器として少し予想がついていたが。


[成長は言い過ぎたな]


 少し皮肉めいて話す。


[ダンジョンをクリアしろ]

「ダンジョンを?」


 ダンジョンをクリアすれば、良い武器や素材が手に入ると聞いた事があるが…それが今と何の関係が…。


[俺は生まれながら力が無かった]

[お前は此処に偶々来れた訳ではない。果物ナイフで5年以上戦い続けた者にだけ、此処に来る権利があった]

[俺は構造を理解した]

[果物ナイフが置いてある横にプレゼントも置いてある。俺と同じ状況であったなら…喜ぶ筈だ]

[故郷から1番近いこのダンジョンには、人の捌き方を残した]

[ディンバラは根本から腐っていた。だからこそ、此処に人の捌き方を残した]

[これをどう使うかは後継者。お前次第だ]

[後継者がどれだけの偉業を残すか、今から楽しみにしている]


 声は何処か脈絡なく話し続けた。

 そしてその声は突然聞こえなくなる。

 

 一体これは何を伝えたかったのか。

 エデンは手に持っている本をパラパラと捲る。


(…どうするべきか…とりあえずは…)


 エデンは果物ナイフがある机へと向かった。


「…普通だな」


 不用意に触ってはいけないと言う事を聞き、触れずに観察する。

 自分の持っている果物ナイフとは種類や錆び付き度等が違う。何製とまでは分からないが、普通の果物ナイフと何ら変わりない。

 強いて言うならナイフ全体が同じ素材で出来ている事と、少しは刀身が長めな事、後は刃先が少し鋭い事ぐらいか?


 そして。


(これがあの人が言ってたプレゼントか? プレゼントって言うくらいだから流石に触っても良いよな…)


 その横には焦げ茶色の小さな袋が置いてあった。その口を縛る紐は真っ白に輝いている。

 エデンはその袋を手に取る。軽い。


「何だ? あそこまでしといて唯の袋だったら本当にっ…!!!」


 その小袋の口を開けると、それはエデンの鼻腔を強く刺激した。


「めっちゃ良い匂い!!」


 ぐうぅぅぅ〜


 鼻を小袋の口に付ける。

 それと同時に大きく腹が鳴る。

 エデンはもう食事を5日していない。もう限界だった。

 袋をひっくり返す。


 すると。


 バタバタバタバタ


「ほおぉぉぉ〜!!!」


 大量の調理された肉、瑞々しい野菜、果物が袋の中から雪崩の様に出て来る。

 それらは机の上から溢れるぐらい出た。


「はぐっ! っ!!」


 空腹に耐えられなかったエデンは、すぐ手元にあった肉に齧り付いた。

 そのあまりの美味しさに、身体の痛みを忘れ、無我夢中で食べ続ける。

 エデンがまともに食事をしたのは、人生でこれが初めてだった。




「……」


 エデンは机の前で床に寝転がり、ボーッとする。

 人生最悪の日でありながら、今まで感じられた事がない人生最高の日に、暫く浸る。


「まさか…こんな小さい袋に大量の食べ物が入ってるなんて…」


寝転がりながら、袋を掲げる。

こんな小さな袋に入るなんて…どう言う魔法を使ってるんだ?


「ま、いいか」


今はそんな仕組みを調べてもしょうがない。


「……腹も膨れたし…今は状況を少し整理しよう」


 気を取り直し、此処に来てからあった事を思い出す。

 ダンジョンの最奥に来て、本を触ったら声が聞こえた。

 その声に従うと、地下室へと続く階段が出て、机の上に、声の主が作ったと言っていた成長する? 果物ナイフ。

 その後に何か凄い言われて、果物ナイフの横の小袋から出た沢山の食料を食べた。


「…いや…整理出来ないだろ」


 何なんだこれは。

 まず本を触ったら声が聞こえて来たって、冷静に考えると、怖くないか? と頭を抱える。


「あと…成長する果物ナイフ…」


 机の上を見つめる。

 沢山の食べカスと一緒に、果物ナイフが置かれている。


「アレが何だって言うんだよ」


 肩をすくめる。

 だがしかしと、エデンは思い直す。

 机の上にある小袋からは大量の食料が出てきた。

 その事を踏まえると、実は物凄い物なのではないかと、考えも出来る。


「…ゴクッ」


 立ち上がると唾を飲み込み、机の上にある果物ナイフに手を伸ばす。


「……別に何もないよな?」

[所持者を確認]

「っ!!?」


 果物ナイフから転移時に聞こえて来た声が響く。


[ーーー認証しました]

[ロードしますーーー]

「認証? ろーど?」


 意味の分からない言葉が続けられた。

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