4.(第1話:空飛ぶ灰色の少年)
短く刈った灰色の髪の少年が、雲に覆われた灰色の空を飛ぶ。
来ているのは歩兵に似た服。これも灰色。
ご丁寧に、革ベルトや革手袋そして長靴までが、黒に近い濃い灰色に染められていた。
上着には背中の両肩甲骨のところに切れ込みがあった。外からは見えないが、シャツにも同じところに切れ込みがある。
わずかに露出している肌の色は、平均的な白人種のそれだ。
ほとんど黒と言って良い深い灰色の眉。瞳も深い灰色。目蓋と眼球の間には硬質透明の薄い瞬膜があり、空を飛ぶ時にはそれを閉じて眼球表面を保護する。
手には12・7×99mmボルト・アクション式狙撃銃。
鋼鉄製の銃身も機関部も、それを支える銃床も、着ている服と同じ灰色に塗装されていた。
灰色の服を着て、灰色の銃を持った、灰色の髪の少年が、灰色の空を飛ぶ。
ほぼ完全な保護色だ。空の色に紛れて飛ぶ少年を、地上の人間が発見することは不可能に近いだろう。
背中の肩甲骨から大きな翼が生えて、体の両側に広がっている……筈なのだが、その色は雲と完璧に同化していて、存在感が全く無い。
少年の名はグレゴリー・ウィングボルト。
本名がグレゴリーなら、その愛称は『グレッグ』だろうが、仲間からは『灰色』と呼ばれていた。
グレイ・ウィングボルト。
彼こそが、この物語の主人公。
少なくとも、主人公のうちの一人であることは、間違い無い。