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かつては、蒸気機関都市に住む者の殆どが、工場で部品を作る労働者だった。
いつの頃からか、労働者たちは自分が毎日造っている部品の名称を家族名として名乗るようになった。
ボルト、ナット、車軸、歯車、車輪、連結装置……これらは部品名であると同時に、人の名になった。
『滅亡の日』から数百年が経過した頃、階層の分化が始まり、一部の労働者が上流階級を形成し『工業紳士』と呼ばれるようになった。
政治家、学者、医者、弁護士、大商家、そして工業紳士……彼らは総じて『紳士』と呼ばれた。
都市には、少数だが芸術家と呼ばれる者も居た。
画家、彫刻家、小説家、音楽家、舞踏家、劇作家、役者。
犯罪者も居た。
盗賊、路上売春婦、密造人、密売人、誘拐犯、人身売買犯。
そして、人ならざる物ども。