2/5
2.
蒸気機関都市。
蒸気の力が全てを支配する都市。
半径三百キロメートル、高さ百メートルの円形の台地。上面の面積は二十八万平方キロメートルを超える。
その台地上面は、都市構造物……鉄・真鍮・石・ガラス・煉瓦の建造物と、石畳の街路で、隙間なく覆われている。
世界にたった三つだけ残された都市の名は〈エンジンナム〉〈エンジントン〉そして〈エンジンバラ〉
張り巡らされたパイプを高温・高圧の蒸気が伝い、部屋を温め、シリンダーに流れ込み、昼夜を問わずピストンを押し下げ、クランクを介して歯車を回す。
回転する力は、物体を動かし、伸ばし、押し潰し、物体は形を変え、部品となり、産み出された部品は組み立てられ、商品になり、蒸気を吐く機械仕掛けの馬車で運ばれ、店先に並ぶ。
商品は買われ、使われ、やがて壊れ、ゴミとなり、回収され、坩堝で溶かされて、再び原料となる。
『都市』という巨大な一個の構造体の、機械仕掛けの、生命活動。
人間も、その一部に過ぎない。