1.
それは『滅びの日』とも、『新生の日』とも呼ばれている。
たった三つの都市を残し、世界が滅亡した日だ。
三都市の外部に居た生き物たちは、みな一瞬で死滅した。木も草も、虫も動物も、人間も死に絶えた。
灰色の雲が空を覆った。
昼も夜も、切れ目なく覆い続けた。
青空も、太陽も、月も、星も、雲に遮られて地上からは見えなくなった。
世界から夏が消滅し、春と秋は嘗ての冬と同じくらい寒くなり、冬はさらに寒くなった。
三つの都市の住人だけが、無傷のまま生き延びた。
『滅亡の日』の少し前から、地上のあらゆる場所で、急激な地殻の変動が発生していた。
それは、きっと滅亡の予兆だったのだろう。
三都市それぞれを中心とした半径三百キロメートルの土地が、一夜にして高さ百メートルも隆起した。
この隆起した円形の土地が、のちに都市の『領土』となった。
生き残った都市の者らは、「土地の隆起が我々を守ったのだろう」と噂した。しかし、それを科学的に立証する術は未だ開発されていない。
三つの都市は、昼夜を問わず石炭を燃やし、湯を沸かし、蒸気を作り続けた。
蒸気を作り続ける事で、世界の寒冷化に抗った。
暖かな太陽と青空の時代が終わり……冷たい霧と雨と雪が、都市の放つ熱い蒸気とせめぎ合う時代が始まった。
人々は、その新たな時代を『蒸気歴』と名付けた。