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王宮騎士たちの詰所

「うーん」


 朝の身支度をしながら、私は何度も角度を変えて鏡に映った自分の顔を確認する。私は輝石の魔女に幻覚の魔法をかけてもらっているので、他人からは弟のサーシャに見えるはずだ。


 でも自分で見る分には、鏡だろうと直接だろうと、変わらない私自身の姿だ。私とサーシャは指一本分くらいは身長差があるし、体の厚みなどの体格差は更にある。目で見えるものと実際が違うと、生活が不自由になってしまうからだろう。物にぶつかったり届かなかったり。それに、体を洗うときに困ってしまいそうだし。その辺、魔女は女の気持ちをわかってくれていると思う。


 ――それにしても、皇帝陛下に『かわいい』と言ってもらえるサーシャの顔って私よりもかわいいのかしら……。


 紫の瞳は、私とサーシャはそっくり同じだ。昔から今まで変わらない。ほかもかなり似ているけど、成長と共に眉骨や鼻の高さに男女差が出た。その辺が陛下からするとむしろかわいい、のかもしれない。かわいいの定義は人それぞれだ。


 私がサーシャの呪いを解いたあとに、復帰したサーシャがルカルディオ陛下に迫られたら可哀想だから、これからは距離を置こうと決意する。


「うん。今は何よりも、サーシャを呪いにかけた人物を突き止めることを優先しなきゃ」


 ルカルディオ陛下のことでモヤモヤなんてしていられない。私は頭の中で、陛下像を未決箱に入れて蓋をした。皇后候補にされてたなんてことも、今は考えない。



 ◆



 昼休みに、ついこの間までサーシャの配属先であった王宮騎士の詰所まで私は足を伸ばした。


 やっぱり、サーシャを妬んで呪いをかけた人物がいる可能性は捨てきれない。


 サーシャと仲が良かっただろう王宮騎士の同僚と、何て話したらいいかわからないけど突撃あるのみだ。


「や、やあみんな。元気?」


 サーシャって、同僚とどんな口調で話してたのか知らないので、めちゃくちゃぎこちなくなった。なんとなく汗臭い詰所に顔を出す。


「おっ! サーシャ! どうしたんだよ!」


 中では、5人程が談笑していた。そのうち二人はなぜか上半身裸でビキビキの筋肉を露にしている。ショックで顔が引き攣りそうになった。


「いや、みんなどうしてるかなと思ってさ……」


 上半身裸の男が親しげに近寄ってくるが、私は後退して接触を避ける。


「近衛騎士の制服を自慢しに来たのか? おっ? 俺の汗をつけるなって?」

「そうそう」

「生意気になりやがって。早速陛下に気に入られて、側仕えになったんだろ? えらい噂になってるぞ」

「おい、イザッコ、やめてやれよ」


 イザッコと呼ばれた彼は多分ふざけてか、拳を当てようとしてくる。だけど避けるのは容易なことだ。私は、並の令嬢教育としてダンスも詰め込まれ、足腰を鍛えてきた。幾重にも重ねた重いドレスとハイヒールで踊るのに比べたら、動きやすい今の服や靴は、重い足枷を外したよう。あまり広くない詰所なので、くるくるとイザッコの周りをターンする。


「なっ、避けるなよ!!」

「そんなこと言われても」


 適当に拳をかわしながら、私はみんなの顔を観察した。


 ――ただじゃれあいを眺めてるだけって感じ。今ここには怪しい人はいない。


「サーシャ、君は何か変わったのかな?」


 眺めていたうちの、きちんと服を着ている巻き毛の青年が、そう言った。


「な、何が?! そんな短期間で変わらないけど?!」

「ステップがずいぶん軽やかだ。前はもっと無駄が多かったのに、今はまるで春の妖精が舞い踊るかのようだよ。実に美しい」


 この巻き毛の彼は、詩人属性か。体力自慢が多い騎士の中にも少数派ながらこういうタイプがいる。


「あ、えっと、側仕えのバレッタ卿にご指導頂いてますから」


 拳やらをかわすのが面倒になってきたので、私はイザッコの足を引っかけた。転倒しかけたところを、肩と腰を支えてあげる。あんまり触りたくないけど。ダンスレッスンでは、男役もよくやったから慣れている。


「うっ……サーシャ、お前」


 イザッコは転ばされた羞恥によるものか、頬を染めた。


「なんかいい匂いするし、何なんだよ」

「はっ?!」

「目覚めそうだからやめろよ!!前からちょっとかわいかったけど、更にかわいくなって……どうなってるんだよお!!」


 イザッコは叫ぶと、服も着ないままどこかへと走って行った。


「なにあれ……」

「イザッコは前から、サーシャを構ってたじゃん」

「えっ?!」


 赤毛の人が何でもないように呟くけど、衝撃の事実だった。陛下が心配した通りに、サーシャは本当に騎士たちからモテていた。姉としてそんなの全然知らなかった。


「でも本当になんか、サーシャって前よりかわいくなってない? 陛下のお手つきになっちゃった?」

「何てことを!! ない! 絶対ない!!」

「えー……だって妙な雰囲気がする」


 思わず声を荒げる私に、赤毛の人はニヤニヤと笑いながら迫ってきた。むしろこういういじめかと思う。


「ちょっと、やめろよ」


 赤毛の人が顔を近付けて匂いを嗅ごうとしてきて、背筋がぞわっとした。本当に騎士の規範はどうなってるんだろう。休憩時間とはいえ清く正しくあるべきだと思う。


「嗅ぐだけだって。ほら、手は後ろに組んでるよ」

「おかしい、あり得ない、嫌だってば」


 目を見開いてまっすぐ歩いてくる気持ち悪さで、私は後ずさりしてしまった。退路がなくなって、私は冷たい壁に密着した。目前に赤毛の顔が迫る。


「そこの人たち!!見てないで止めようとか思わないの?」

「いや別に」

「別に」

「嫌なら殴れば。そいつ殴られて喜ぶやつだし」


 最低だなと私は王宮騎士たち全員に、最低評価を下した。もう突き飛ばして逃げよう――


「フォレスティ卿、ここに居たのか」


 突然、ここには居ないはずの声がした。バレッタ卿の声だった。バレッタ卿が詰所の入り口から顔を覗かせている。


「……卿らは、何をやっているんだ?」


 壁に追い詰められている私と、赤毛の騎士の様子を見てバレッタ卿は切れ長の瞳を更に細め、渋面を作る。バレッタ卿は近衛騎士一の実力を持ち、長く陛下の側仕えを務める有名人なので、一気に場の空気が引き締まった。上半身裸の男も慌てて服を着始める。


「私は何もしてませんよ」


 殴ったり突き飛ばす前で良かった。騎士同士の暴力はもちろん禁止されている。私が赤毛の騎士の肩を押すと、抵抗なく離れてくれた。


「バレッタ卿はどうして、ここに?」

「フォレスティ卿がまだ食事を摂っていないと食堂で聞いた。早く食べないと午後の務めに間に合わないぞ」

「そうですね、急ぎます」


 今は安心感のあるバレッタ卿に駆け寄って、王宮騎士の詰所を後にする。ろくな情報もなかったし、もうあいつらに近寄りたくない。


「あの。ありがとうございます、こんなところまで来てくれて」

「部下の健康管理も仕事のうちだ。ちゃんと食事を摂るように。フォレスティ卿は、最近痩せたとか言ってただろう」


 私には目もくれず、早足で歩くバレッタ卿に私はついていく。私が来た経路とは違う道だった。花壇を踏まないように跨ぎ、左右に木箱が積まれた細道を通るとすぐに食堂の外観が見える。


「あれ、ここ近道なんですね」

「何だ知らないのか? 王宮騎士だったなら全ての道を頭に入れてあるのでは?」

「……冗談ですよ、冗談」


 私はつい最近王宮に来たばかりだから、広い敷地の道を覚えるのも一苦労なのだけど。バレッタ卿が訝しげに私を睨んだ。


「それはいいとしても、フォレスティ卿は一体何の用事で、王宮騎士の詰所に行ったんだ?」

「えーと……」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「詩人属性か。」がめっちゃ面白かったです♪
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