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ルカルディオの自覚

本日2話更新しています。これと前話はルカルディオ視点です。

「どういうことだ?」

「ジルは私を使って、より陛下を幸せにしたいみたいです」

「は……?」


 ルカルディオは遠回しな表現を即座に理解した。ジルは、自分とサーラを結婚させようとしているのか。あまりに自分と似たり寄ったりの発想に、弟だなと感じた。


「いやあの、私が外国語ある程度できるから陛下のご負担を減らせる的な意味です。でもごめんなさい、陛下のいないところでこそこそと。ジルが絶対上手くいくって私をおだてるからその気になって調子に乗ってました」


 恥ずかしそうに言い訳をするサーラが気の毒になった。彼女の意思もあるだろうに、兄弟揃って何て失礼なことを考えてしまったのだろうとルカルディオは顔を赤らめる。


「それは、ジルが済まなかった……迷惑だっただろう。やめさせる」

「こちらの話ですから、陛下は何も言わないで下さい。それより、ジルにどこへでも行けなんて絶対言わないで下さいね。きっとすごく傷つきます」


 サーラはふう、と息継ぎをする。ルカルディオは心優しいサーラに対して申し訳なくて堪らなくなった。良く考えたら、サーラは弟を救うためにここに来ただけで、結婚相手を探しに来た訳ではない。ただルカルディオの身辺の事情に巻き込まれているだけだ。


「わかった。決して言わない」

「ジルはルカルディオ陛下が大好きなんですから。それは陛下が一番おわかりでしょう」

「わかってるはずだったんだが……」


 いつの間にか、ルカルディオは気持ちが和らいで冷静になっていた。どうしてジルが裏切るなんて不安に苛まれていたのだろう。なぜジルに直接聞けなかったのだろう。今日1日ずっと最悪の気分だったのに、サーラと話しているだけで魔法のように解れていた。


「お前は特別な魔法を使っているのか?」

「え? いいえ……」


 幻覚魔法のことと思ったサーラは、歯切れの悪い返事する。


「質問を変えよう。人をなだめるような、精神系の魔法が得意なのか?サーシャといると魔法のように気持ちが楽になる。私の女性嫌いも治してしまったし」

「私に精神魔法なんて使えませんよ、私の瞳を見ればわかるでしょう」


 サーラの美しい紫色の瞳をルカルディオは見た。この部分は成長したサーシャとサーラでも未だに全く同じと言っていいくらい似ている。子供のときに一度見て以来、ずっと追い求めてきた輝きだった。


「……きれいだ」

「そ、そうじゃなくて魔力が少ない証じゃないですか。珍しい色ではありますけど」

「そうだったな。そういえば、その体にかかっている幻覚魔法は他者に依頼したものなのか?」

「そうです……もうすぐやめますから」


 居心地悪そうに身動ぐサーラを、ルカルディオは微笑ましく見つめる。こうやって真綿で首を締めるように、少しずつ追い詰める関係を実は気に入っていた。一番性格が悪く、謀略に満ちているのはサーラでもなくジルでもなく、自分だなと思った。


 ルカルディオは、もう誰かに翻弄されるだけの小さな子供ではなかった。誰だって嘘をつく。そんなのごく普通の、当たり前のことだ。ひとつずつ確かめればいいだけのことを、なぜ出来なかったのか。


「サーシャ」

「はい」


 早く本当の名を呼びたかったが、ルカルディオはサーシャと呼んだ。サーラと呼び、彼女本来の姿を目に映し、腕の中に抱きしめて存在を確かめたい。


 ルカルディオは、彼女にかかっている魔法について早急に調べなければと思った。サーラの幻覚魔法が他者にかけてもらったものとして、これ程長く持続する原理がわからなかった。通常は1日、持って2日だ。


「ありがとう。サーシャといると、精神的に強くなれるような気がする」

「私も陛下のためなら、いくらでも強くなれますよ」


 サーラはにこっと笑った。胸を貫くように愛らしい。


「そうか」


 合わせてルカルディオも笑う。サーラの言葉が、特別な好意を表しているのかは聞けなかった。これ以上サーラを困らせてはいけないと理性でおさえつける。


「そろそろジルが帰ってくるだろうな」


 話題を変えるように、ルカルディオはバルコニーの方を見た。


「え? まさかジルはここに直接来るんですか?」

「多分そうだろう。私と最初に会ったときもそうだった。私が11歳で、ジルが9歳のときだ」

「待って下さい、この王宮の敷地には警備もいるし、防衛魔法もありますよね? 子供のジルがそれらをかいくぐって来たんですか?」


 サーラは、バルコニーのガラスに目を凝らす。月に照らされた闇が、滲んだように広がっているばかりだった。


「そうだ。母親の輝石の魔女の助けもあったと思うが、あいつひとりだった。警備ぬるいね、なんて言いながら来たよ」

「ジルが言いそうですね」

「変わってないんだ、あいつは」


 ルカルディオとサーラは揃ってくすくすと笑った。


「ジルを一目見てすぐわかったよ、父上から私に弟がいると聞いていたから。目がくりっと大きくて、かわいいやつだって。その通りだった。私たちはすぐに意気投合した」


 そのときのルカルディオには、信じられる人間が誰ひとりいなかった。父が亡くなり、母からは知りたくもない事実を伝えられ、捨てるように拒絶された。ジルが居なかったら、きっと正常ではいられなかっただろう。ジルが帰って来たら、今日の早合点を謝らなければならない。


「あの、前から気になってたんですけどジルの瞳って何が見えているんですか?」


 ルカルディオが昔を懐かしみながら、すっかり冷めたミルクを飲んでいるとサーラが控えめに質問をしてきた。


「詳しくは私にも教えてくれないが、ジルは人の心のうちの何かが見えているようだな」

「やっぱりそうなんですね……そうすると」


 サーラがブツブツと何か呟いた。女性的には、知られたくない事情もあるのだろうとルカルディオは予測した。


「悪用はしていないと思う。だが私の聖顕の瞳よりも価値のある能力だ。その分苦労も多いのだろう」

「最強の兄弟だと思いますよ」

「フォレスティ家の双子もなかなかのものだ」

「ただいま」


 いつの間にか音も無くバルコニーのガラス扉が開いていて、ジルが会話に参加していた。


「ジル、おかえり」


 サーラは驚いて竦み上がるが、ルカルディオは余裕の笑みでジルを迎えた。ジルは目的の満月草を胸のポケットに勲章のように飾り、少し遠い目付きでソファに並んで座る二人を見た。


「ふうん。何だか問題は解決したみたいだね? 良かったね、ルカ」

「ああ、すっかりこの通りだ」


 今夜は少し夜更かしをして、兄弟で話をしようとルカルディオは思った。

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