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秘密の計画

「はは、サーラ様はお優しいですね」


 別の次元で感情を昂らせる私とベラノヴァ団長に水を差すように、今まで黙っていたジルが笑った。


「ジル、君は黙っているんじゃなかったのか」


 ベラノヴァ団長は思いきり顔をしかめ、ため息をつく。


「予定を変えました。サーラ様がここまでお優しいとは思いもしませんでしたので。団長、僕から提案があります」

「何だ」

「僕は心が狭いので、陛下の私有である近衛騎士を呪い傷つけ、あまつさえ陛下の皇后候補を奪おうとしたベラノヴァ団長を許せないのですよ」


 どこまでもルカルディオ陛下が第一のジルらしい物言いだ。だけど交渉事に慣れてそうなジルが、こんなに反感を買いそうな言い方をするなんて違和感があった。


「それは君の感情だろう。だが、君に何かを命令される覚えはない。サーラが良いというなら、私は変わらず近衛騎士としてルカルディオ陛下をお守りするだけだ」


 案の定、ベラノヴァ団長は反発した。また睨み合いの火花を散らし始めたジルとベラノヴァ団長の顔を、私は交互に見た。この二人相性悪すぎる。


「ベラノヴァ団長のおっしゃる通りですが、やはり罪は罪。しばらくは厳しい環境に身を置いて頭を冷やす必要があると思いませんか?なに、一時的にです。任務を全うして頂けたらどうぞ帰還して下さい」

「私に何をやらせたいんだ?言ってみろ」

「私も聞きたいです」


 どうも私を立てて、ジルは悪役になろうとしてるんだろうか。先に言ってくれたら良かったのにと思いつつ私もジルの話の続きを促す。


「……ではお話します。ちなみに外へは決して漏らさないで下さいね。任務の内容は、カルタローネ領に集約されつつある火薬の調査です」

「カルタローネ領というと、皇太后派か?」

「はい、これは皇太后派との争いですから、陛下は成功を強くお望みです」


 かなりきな臭くなってきた話に、私はふざけてるつもりでもなく肩をすくめる。皇太后派が火薬を集めてるということは、反乱でも起こす気かと考えざるを得ない。


 ルカルディオ陛下と皇太后陛下は、実の親子でありながら敵対関係にある。そして火薬というのは、魔法と組み合わせるとものすごい破壊力になるので、成分を問わず厳しい規制がある危険物だ。


 カルタローネ領というと帝都からずっと南にある、自然の美しい保養地でもあった。確かルカルディオ陛下のお祖父様に当たるカルタローネ公爵が納めている。しかし皇太后陛下のお父様なので、結局皇太后派なのだろう。ベラノヴァ団長は顎に手を当てた。


「そんな場所へ、私ひとりで行けというのか」

「ベラノヴァ団長の実力を買ってのことです。もちろんほかに数名用意した者をつけますが、統率力のある団長が中心になって頂けるとありがたいですね」


 ジルは表情を変えず淡々と話を進める。それにしてもやばい内容だ。話を外へ漏らすなと言われたが、私はこれを聞いていていいのかすら心配になる。


「まだ近衛騎士を表立って動かせませんから、陛下と共に悩んでいました。そこに、今日のベラノヴァ団長とサーラ様の決闘です。これは、ベラノヴァ団長にしばらく休んで頂く理由づけとして丁度良いと思いました」


 ベラノヴァ団長のこめかみに青筋が浮いたが、ジルは動じることもなく話し続ける。私の方が身が縮む思いだった。


「だって団長ともあろう方が新人に負けるなんて恥ずかしくて、しばらく出て来られませんよ。お抱え医師に偽の診断書でも書かせて帝都を離れ、遠くの別荘に行っても誰も疑いません」


 ジルはまた微笑と真顔の中間のような表情をしている。お仕事モードの顔なのかもしれない。ベラノヴァ団長が目を細めた。


「君は私に屈辱を味合わせたいようだな。それが君の考える処罰か?」

「とんでもございません、任務が成功した暁には団長こそ英雄となりましょう」

「そうか……頭を冷やしてこの罪を償うには丁度良い危険な任務だな。君は、人の使い方を良く知っている。君が何者なのかは知らないが」


 観念したかのようにベラノヴァ団長が薄く笑った。合わせるかのように、ほんの一瞬だけジルは笑みを深める。ジルは、先帝陛下の息子でルカルディオ陛下の弟だって、私は心の中で叫んでいた。


 話がまとまり、団長はひとりベラノヴァ邸に戻った。団長の父君、ベラノヴァ侯爵にだけには話を通した方が良いだろうとして、ジルが許可を出したからだ。


 私とジルはうちから馬車を出して王宮へと戻ることになった。乗り込むとすぐにまた遮音の魔法をかけ直すジルに、私は迷いながら声をかける。


「ベラノヴァ団長のこと、ジルに汚れ役をさせちゃってごめんなさい。私の決断、甘かったですね」

「ううん、全て僕の計画通りだよ」


 ジルはフフンと得意げに笑った。それが素の表情っぽいので安心する。ジルは二人きりだと敬語も使う気はないようだ。


「そうなの?」

「サーラがろくな罰を与えないなんて予想してたよ。驚いた風なのは演技。まあサーラの言説は見事だった、感心した。あれで君はベラノヴァ団長という強い駒を手にした」

「駒だなんて……。それに、計画があるなら私に先に話しててくれても良かったのに」


 文句を言うつもりじゃないけど、ジルの自分をわざとを悪く見せるようなやり方は、申し訳ない気持ちになってしまう。ルカルディオ陛下と何かを進めるときもそんなやり方をしてるんだろうか。


「じゃあ団長の忠誠を得たと言っておく。これは大きな意味がある。ベラノヴァ団長は、サーラが皇后になったときには命に代えても君を守ってくれるだろうね」

「そっ……」


 そんな危険性があるのか、というのとそもそも皇后になると決まった訳じゃない、という2つの声が心の中から浮かんできて私は噎せた。


「ん? 大丈夫だよ、僕がちゃーんと皇后まで導いてあげるから」

「ちょっ……」

「僕って優しいよね。ああ、心配しなくてもサーラとルカは両思いだよ。あはは言っちゃった」


 ジルが次々ととんでもない発言をするので、私は噎せ続けた。期待しちゃうから根拠もなく両思いとか言わないでほしい。なんとか正常な呼吸を取り戻して、私は息をつく。


「……ジルは確かに優しいです。ルカルディオ陛下が大好きなのに私に協力してくれて。私だったら、例えばサーシャが誰かと結婚するとしたら、すぐには受け入れられなくて嫉妬しちゃいそう」

「そう?大好きな人の幸せを願うのは当然だよ。サーラだって、そのときが来たらわかるよ」

「ジルって大人」

「まあサーラより歳上だし」

「え?」


 私はびっくりしてジルの顔を改めて観察した。目がぱっちり大きくて、いつも笑ってるみたいな口元が猫っぽいから歳下かと思っていた。私の中で、サーシャとはまた別の弟的存在になっていた。


「歳上だったんですね、すみません」

「ああいいよ、二人のときは気楽に話して。ルカと結婚したら僕のお姉様になるしね」

「だっ、だから、陛下と結婚出来るかどうかなんてわからないし……陛下は女性嫌いだってあるし」

「うん、早くサーラの本当の姿で会って欲しいよね。それで、サーシャはどうだったの?君たちが戻るのっていつ?」

「あ、それはええと……」


 無邪気に質問してくるジルに、私は言いづらいながらも今後の予定を説明した。


 私はまだ、本当の姿でルカルディオ陛下に会えない。でもサーシャが私の姿になってやり過ごすという突拍子もない計画は、うわあとかうげえとか、飾り気のないジルの感想を大量に引き出した。

今回ちょっと話がややこしいですが、これでベラノヴァ団長と第一の呪い編が大体終わりという感じです。


次回からはルカルディオ陛下がちゃんと出てきます。

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