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『言語勇者』 〜 異世界ではペンは剣より強し   作者: 柊 真
第2章:異世界ではパーティは個人より強し
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第八話:異世界では万能は極めるよりも便利

 「さてと、どうしようか…」


 俺とユルビンはクエスト板の前に立っていた。

 一人じゃできなかったクエストも、今ではできる。

 だが、クエスト選びもやはり簡単なわけがなく、もうかれこれ三十分くらい長考しているままだ。


 「これなんかどうですか?」


 「いや、いくらなんでも難易度が高すぎる…」


 こうやってユルビンがクエストを見つけては、俺が却下するの繰り返し。

 全くもって進んでいないが、ここで間違った判断をしてしまうと命の危険すらある。それはヴァンパイア討伐の時に痛いほど思い知った。

 だからこそ、こうやってちゃんと考える必要がある。


 「あ、こう言うのはどうですか?」


 そういってユルビンが指差したクエスト依頼には、こう書かれていた。


 「クエスト:レインボースライム討伐

  難易度:星5/星10

  報酬:金貨100枚」


 「レインボースライム?」


 「はい。スライムの中でも結構レアな種類で、戦闘中に自身の魔法耐性を変え、できるだけ相手に弱点を突かせないようにする厄介なモンスターです。」


 なるほど。ゲームでよく見る自分の属性を変える系の敵か。


 「僕の魔法範囲を持ってしたら、恐らくですが弱点を突けない事は無いです。まあ、弱点を見抜ければの話ですが、そこらへんは高い観察力で評判のマナブさんにお任せすればなんとかなるかと。」


 これまたなるほど。知力が高いだけあって、ユルビンの作戦に隙は無い。

 って言うか、俺はいつの間に高い観察力で評判になっていたんだ?まさか変な噂でも回ってるのか?俺なんか変なことしたか?


 まあ、そんな事は正直今はどうでもいい。

 やっと、俺たちにもできそうなクエストが見つかったんだから。


 俺は笑顔でユルビンの方へと振り向いた。


 「よし、これにしよう!早速クエスト申請しにいくぞ、ユルビン!」


 「はい、行きましょうマナブさん!」


 俺とユルビンはクエスト申請を済ませて、早速レインボースライムが出ると言われている平原へと向かった。そう、俺がこの世界で目覚めた時にいた、あの平原へ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「いねーな、レインボースライム。」


 俺とユルビンがテイルシンの近くにある平原にきてから、一時間が経っていた。

 いまだに、レインボースライムを見つけられずにいた。

 って言うか、本当にこの平原にいるのかすら怪しく思えてきた。

 

 「ま、まあ、結構レアな種類のスライムですし…」


 ユルビンは肩を落とし、そう言った。


 俺はため息をつき、言葉を返した。


 「しょうがない、少し休憩するか。」


 俺達は近くの大きな岩の上の座り、持ってきたサンドイッチを頬張りながら雑談をし始めた。


 「そういえば、ユルビンはなんで冒険者をしているんだ?」


 俺がそう聞くと、ユルビンは少しくらい顔をして答えた。


 「実は僕の家族は、結構長く続くソーサラーの名家なんですよ。昔から魔法を研究し極める家柄で、僕も小さい頃から魔法の英才教育を受けてきたんですよ。しかし、最近になって様々な魔法を覚えるのにはまってしまい、家族からは『魔法を覚えるだけで極めようとしない、ファリンクス家の恥』と認識され、家を追い出されてしまったんですよ。だから冒険者をしているのは自身の生活のためでもあり、いずれ家族を見返すためでもあります。人の魔法道はそれぞれ違います。たとえ一つの魔法を極めなくとも、威力が低くても、多種多様な魔法でやっていける事を見せつけたいんですよ。」


 妙な沈黙が、俺たちを包んだ。


 なるほど、いろんな魔法が使えたのには、そんな理由があったのか。

 彼もまた、彼なりに悩んでいたんだな。

 少し、ユルビンに親近感を覚えた瞬間だった。


 この嫌な沈黙を破るべく、俺は口を開けた。


 「な、なんか悪い事したな。ごめんな、嫌な事思い出させて。」


 「いや、全然いいですよ!むしろマナブさんには感謝しています!こんな僕をパーティに入れてくださって、本当にありがとうございます!」


 「え、あ、こっちも一人で困っていたから、まあお互い様って事で。」


 家庭状況が複雑でも、こんなにも明るくいられるユルビンを少し尊敬しながら会話を続けた。しかし、ユルビンが予想外な事を聞いてきた。


 「そういえば、マナブさんこそなんで冒険者をしているんですか?ドウモトマナブってあまり聞かない名前ですし、もしかしてこちらの出身ではないんですか?」


 ヤバイ。

 異世界からきたなんて言ったら絶対信じてもらえないし、むしろ変人扱いされてしまう。

 そんなの、絶対に嫌だ。何故かはわからないが、ユルビンには変に思われたくない。


 ここはどうにかはぐらかすしかない。


 「あ、ああ。遠い遠い国の出身さ。冒険者をしているのもこっちでの生活を支えるためでね。それまでは戦闘とは無縁の人生だったから最初はどうなるかと思っていたけど、幸い最初のクエストは上手くいったし、今となっては君が仲間になってくれている。ありがたいことに、なんとかなりそうだよ。」


 「そうだったんですか…お互い、大変でしたね。」


 よし、なんとか信じてもらえたようだ。


 「そういえば、マナブさんの最初のクエストってヴァンパイア討伐だったんですよね?噂で聞きましたよ!剣もひかずにヴァンパイアを倒したって!どうやってやったんですか?その時の話、詳しく聞かせてくださいよ!」


 「ああ、あの時か?う〜んそうだな〜…あの時はどっちかと言うとヴァンパイア討伐というよりは−」


 俺の言葉を、凄まじい地響きが遮る。


 振り返ると、そこには俺より五倍くらいでかいであろう、虹色のスライムが飛び跳ねていた。


 レインボースライム、討伐開始である。

 



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