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『言語勇者』 〜 異世界ではペンは剣より強し   作者: 柊 真
第2章:異世界ではパーティは個人より強し
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第七話:異世界では二人は一人は強し

 「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」


 俺は飲み屋のカウンター席に座り、ため息をついた。


 ヴァンパイア討伐から二カ月、俺はすっかりキルドに馴染んでいた。

 クエストの報酬金で新しい装備も買えたし、たまに普通の討伐クエストに行くようにもなった。

 美味い食べ物も食えて、寝床の心配も無いし、毎日新しい発見がある。


 これこそが、俺の求めた「退屈」じゃない生活。

 

 だけど、やはり「あの」問題が俺につきまとう。


 そう、お金だ。


 ヴァンパイア討伐の報酬金の金貨3000枚は確かに大金だったが、二カ月たった今では少ししか残っていない。流石に放っとくわけにもいかなかったし、何回か普通の討伐クエストにも出たが、やはり俺でかでは効率が悪すぎる。いくら新しい装備のおかげでやりやすくなったとはいえ、一人で出来る事には限度がある。よって、俺はある行動に出る事にした。


 パーティ募集だ。


 ゲームおよび異世界転生物では、主人公がパーティという名の仲間と共にモンスター達を倒していくのがお約束の一つである。

 一人で出来ない事があるなら、二人、三人と仲間を増やしていけばいい。報酬金は山分けになるかもしれないが、結果的に出来るクエストも増えるはずだから問題はないはずだ。


 という事で、俺は二週間前にパーティ募集を始めた。

 募集条件もできるだけ緩くした。

 報酬金も平等に山分けする事も確証した。


 なのに誰一人と俺とパーティを組みたがらない。


 まあ、このギルドはすでにパーティを組んでいる冒険者が多いし、二カ月も冒険者をやっているのに階級がコッパーのままの俺と誰も組みたがらないのは当たり前なのかもしれない。


 俺は再びため息をつき、自分の金で買った酒を口の中に放り込む。


 さて、どうしたものか。

 パーティ募集は一度したら一カ月はしなきゃいけないのがこのギルドの決まりだから、このまま待つという手もあるが、それだと先に金が底をつきそうだ。

 どうにか出来ないものなのか。


 「あ、あの〜…」


 俺がそう思っていると、後ろから声がした。


 「あなたが今パーティ募集をしている、ドウモトマナブさんですよね?」


 俺は声の主の方へと振り返った。

 そこに立っていたのは、白と緑色のローブを身にまとい、大きな魔道書を手に持つ、俺と同い年くらいの青年だった。

 俺は思わず立ち上がり、返事をした。


 「はい、そうですけど。」


 「よかったです!僕、『ユルビン・ファリンクス』っていいます、よければパーティに入れてください!」


 期待で胸がいっぱいになる。


 やっと出来た、一人目の仲間。

 これでクエストに出られない生活とはおさらばだ。


 俺は笑みを浮かべ、言葉を返した。


 「もちろん、歓迎します!っていうか、本当にうちでいいんですか?他にも強うそうな冒険者って結構いますし。」


 すると、ユルビンは少し恥ずかしそうな表情をし、返事をした。


 「い、いや〜実を言いますと、ドウモトさん以外に僕を受け入れてくれるパーティがいないんですよ。」


 「と、いうと?」


 俺がそう聞くと、ユルビンは俺に自信の冒険者証明書を差し出した。


 「こちらをご覧になれば、すぐにわかるかと思います…」


 ユルビンは相変わらず恥ずかしそうにそう言った。


 俺は彼の冒険者証明書を手に取り、読み始めた。

 そしてその内容に度肝を抜かれた。


 まず、ほとんどの能力値が俺と変わらず平均的なのにも関わらず、魔力と知力だけが異常なまでに高かった。

 階級が俺と同じコッパーだと信じられないくらい、能力値の違いを感じた。


 しかし、それ以上に度肝を抜かれたのが、彼の知っている魔法の数だった。

 攻撃系の魔法はもちろん、防御系、回復系、強化系、弱体系と、下手したらこの世界の全ての魔法を知っているんじゃないかと疑うほど、そのリストは長かった。


 俺は思わず開いた口を閉じられずに、喋り始めた。


 「いやいやいやいや、すごいじゃないですか!この能力値といい知ってる魔法の数といい、あなた天才か何かでしょう!?こんなすごい人材、どのパーティだって大歓迎ですよ!」


 ユルビンは少し照れ臭そうに、自身の証明書を指差した。


 「じ、実はそうでもないんですよ。ほら、習得している魔法の欄をよ〜くみてください。」


 ユルビンにそう言われ、俺は改めて彼の証明書に目を通した。

 すると、ある奇妙な事に気付いた。

 

 確かに彼は様々な魔法を習得していた。

 しかしそれはどれもレベル1、つまり一番基本的なものばかりだった。


 俺が少し困惑していると、ユルビンは口を開けた。


 「実は僕、魔法を勉強するのがものすごく好き何ですが、いろんな魔法を学びすぎてどれ一つとして極めていないんですよ…」


 ユルビンは照れ臭そうに頭の後ろをかき、少し苦しく笑った。


 なるほど、そういうことか。

 いくらいろんな魔法が使えるからと言って、それがどれも低威力なものだったら正直高レベルのパーティでは役に立たないだろう。

 しかし、俺にとってはそんな事どうだっていい。


 せっかくパーティ募集に答えてくれた彼を追い返すわけにはいかない。

 っていうか、追い返してしまうとこちらとしてもやばい。

 俺は笑顔で彼に語りかけた。


 「別にいいですよ、そんな事!魔法が使えない俺としては、ウィザードがパーティにいるだけで心強いです!先程言った通り、歓迎します!」


 ユルビンはパアッと明るくなり、言葉を返した。


 「はい!ありがとうございます!あと、僕はウィザードじゃなくて、ソーサラーです!」


 ソーサラー。賢者みたいなものか。

 まあ、魔法が使える職業という事には変わりはないだろう。

 

 俺はユルビンに手を差し出し、口を開けた。


 「じゃあ、改めてよろしくお願いします…っていうか、やっぱり敬語はやめません?一応同い年くらいみたいですし。」


 「え、あ、まあ、僕はこれが普通なので…でも、別にドウモトさんはやめても構いませんよ。」


 ユルビンはそう言い、俺の手を握った。


 「じゃあ、お言葉に甘えて。あと、マナブでいいぜ。」


 俺がそう言うと、ユルビンはより一層明るくなり、返事をした。


 「はい!では、よろしくお願いします、マナブさん!」


 「ああ、よろしくな、ユルビン!」


 俺たちは硬く握手を交わした。


 俺、堂本学の一人目の仲間、ユルビン・ファリンクスがパーティに加入した。





毎日投稿、途切れてしまって誠に申し訳ございません。

今回は新章スタートを記念して二本投稿しますのでどうにかそれで見逃してください。

二本目は今日の午後五時頃に上がりますのでそちらもぜひともお読みください!

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