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『言語勇者』 〜 異世界ではペンは剣より強し   作者: 柊 真
第1章:異世界ではペンは剣より強し
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第四話:異世界では自信はモンスターより危ない

 俺はテイルシンの外れにある、小さな集落に来ていた。

 ヴァンパイアからの被害を一番受けていると言う集落だ。そののどかな風景にはとても癒されたが、この風景がヴァンパイアによって脅かされてるんだと思うと、さすがの俺でもが怒りが湧いてくる。一刻も早くなんとかしなくては。


 俺は早速、情報収集を始めた。


 「あの、すみません。少しお話しを聞いてもよろしいですか?」


 俺は近くにいた、優しそうなおじいさんに声をかけた。


 「んあ?別に構わんが、お主冒険者かい?」


 「はい、そうです。ヴァンパイ討伐の件でこちらに来たんですが、何か知ってる事はないですか?」


 おじいさんは少し硬い表情をし、俺の問いかけに答えた。


 「ヴァンパイアのう…ああ、知っておるよ。最近ここら辺に出るようになったんだが、実に厄介でのう。ここはテイルシンにも通じる貿易所なんだが、ヴァンパイアが出るようになってからは商人達がやつを恐れてめっきり来なくなったんじゃよ。」


 なるほど、テイルシンにも間接的な被害があるわけだ。それならクエストの報酬金が高いのも頷ける。

 

 少し間を置いてから、おじいさんはさっきより暗い表情をして話を続けた。


 「それにじゃ…やつは夜な夜なこの集落やテイルシンの人々を襲っている。それも若い女性ばかりじゃ。やつは若い女性を襲い、ヴァンパイアに変化させ、自分の虜にさせているんじゃ。わしの孫娘も…最近やつに襲われた。」


 最後は吐き捨てるように、おじいさんはそう言った。彼の言葉からは怒りと悲しみがしみじみと伝わってくる。

 確かにひどい話だ。赤の他人である俺でさえ、怒りを覚えてくる。やはり、一刻も早くなんとかしなくては。


 「おじいさん、約束します。俺が必ずあのヴァンパイアを追い払い、あなたのお孫さんを救い出します。」


 俺はおじいさんの手を硬く握り、そう言い放った。

 おじいさんは戸惑いながらも、優しく微笑み、言葉を返した。


 「そうか。そうしてるくれると嬉しいが、くれぐれも気をつけなさい。やつはそう簡単に倒せる敵ではない。でなければ、わしらもここまでは苦しんでいない。」


 おじいさんは心配してくれてるようだったが、俺には自信しかなかった。


 「大丈夫ですよ。第一、倒すつもりではないのでそこらへんはご安心ください。」


 「ほう。ならどうやって…?」


 おじいさんの疑問に満ちた問いかけに、俺はありったけの自信を持って答えた。


 「なあに、ちょっと交渉しにいくだけですよ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「ほーう。これが噂の吸血鬼城か。」


 俺は大きな石ずくりのお城の門の前に立っていた。

 その城の繊細かつ大胆なデザインは否定のできようがないくらいに綺麗だったが、どこか禍々しい物を感じられずにいられなかった。ていうか、このお城全体が何か禍々しいオーラを発しているような気がした。まあ、「吸血鬼城」と言うくらいなんだから、禍々しくてナンボなのかもしれない。


 さっきのおじいさん曰く、このお城は結構昔からあるらしいんだが、廃墟になりかけていたところに、ヴァンパイアがやってきたらしい。ここを恐れて近づかなくなった商人達は、ここをわかりやすく「吸血鬼城」と名付けたそうだ。


 あの後もしばらく聞き込み調査を続けたが、手に入る情報は大体一緒だった。


 ここでは最近、ヴァンパイアが出現するようになった。

 そのヴァンパイアのせいであの集落からにテイルシンへの貿易はほぼ停止状態である。

 さらに言うと、そのヴァンパイアは夜な夜な若い女性を襲い、ヴァンパイアに変化させ、自分の虜にさせている。

 そのせいで、集落や近くの街の女性は夜中家を出られなくなっている。

 しかし、ヴァンパイアは太陽に弱いので、日中はこの吸血鬼城に引きこもってるらしい。


 ヴァンパイアが引きこもりとは少し笑えるが、やつのやっていることは断じて許せる行為ではない。

 これはもはや俺の生活だけの問題ではなくなってきた。このヴァンパイアは絶対に倒さなくてはならない。俺はそう決心した。


 そうと決まれば、ここでこれ以上時間を無駄にするわけにはいかない。

 俺は意を決して、吸血鬼城の門を開いた。


 その内装は、外装のデザインと同じくらい美しかったが、やはり何か禍々しい物を感じられずにいられなかった。


 湿り気が強く、苔が生えている石の壁。

 床に敷かれた真っ赤な長い絨毯。

 不規則に揺れ、まだらに火が灯されているシャンデリア。


 そこには確実に俺以外の「何か」がいる気がして、寒気が止まらなかった。

 だけど、ここで立ち止まるわけにはいかない。俺は恐る恐る、お城の奥へと足を進めた。


 しばらくすると、俺は大きくひらけた広間のような場所にきていた。

 そして、目の前にいる人物に尋常じゃない程の恐怖を覚えた。

 部屋のど真ん中に置かれてる玉座に鎮座していたのは、深紅のトレンチコートに身を包み、後期な振る舞いでワイングラスに入った赤い液体を啜っている、真っ白な肌の男性だった。

 確実に、こいつがヴァンパイアだ。その鋭くも落ち着いた眼光は、俺の背筋を凍らせる。彼はワイングラスの液体を飲み干し、俺に視線を向け、語りかけた。


 「貴様、そのような装備で我に挑むとは、愚かにも程があるぞ。」


 その声もまた、殺気にあふれていて、俺に恐怖の感情を植え付ける。


 落ち着け、俺。

 こいつが強いのはハナからわかっていた。それはどうしようもない。

 とにかく、交渉に持ち込むんだ。戦闘だけは絶対避けたい。

 俺は大きい深呼吸をし、口を開けた。


 「別に挑みにきたわけではない。交渉しにきただけだ。」


 「ほう。貴様アビサル語が話せるのか。」


 ヴァンパイアはそう言い、玉座から降りて俺の方へと歩いてきた。

 俺はできるだけ恐怖を隠し、話し続けた。


 「ああ。俺は言語に長けてるんでね。」


 「ほほう。対話ができる冒険者は初めてだ。これは興味深い。」


 ヴァンパイアは俺の目の前まで来ていた。近くで見ると、よりその不気味さが伝わってくる。奴の口からは、塩っぽい血の匂いがする。やがて、その口はまた開く。


 「おっとこれは失礼、自己紹介が遅れたな。我の名は『ナイトベール・デイズベイン』。高貴なるアンデッド、ヴァンパイアであり、この地の女性たちの意中の的だ。よろしく頼むよ、冒険者君。」


 「ああ、よろしく。俺の名前は学だ。堂本学だ。」


 「ほう。では、ドウモトマナブよ、先程言っていた交渉とは何の事だ?」


 よし、いいぞ。このまま交渉へと持ち込めば、なんとかなるはずだ。


 「簡単さ。これ以上この地のもの達に危害を加えないでほしい。」


 ナイトベールの表情は、一瞬にして真面目なものになる。彼は俺の顔に自身の顔を近ずけ、威嚇するように話し始めた。


 「なぜ、そうしてほしい?」


 「君がこのまま人々に危害を加え続けると、俺らにとっても君にとっても厄介なことになる。俺らは貿易通路を絶たれるし、君はやがて俺なんかより遥かに強い冒険者のヘイトを買ってしまうかもしれない。つまり、このままいけばお互いにメリットはないということだ。それに、高貴なるヴァンパイアが理由もなしに人を襲うとは思えない。何か深いわけがあるのであれば、俺がなんとかできるかもしれない。少なくとも協力わできるはずだ。だから頼む、この地の人々に危害を加えるのはやめてくれ。」


 俺がそう言い終えると、ナイトベールは考えるかのように背筋を伸ばし、目を閉じた。しばらくして、彼は俺の肩に右手を置き、目を閉じたまま話始めた。


 「わかった、ドウモトマナブよ。その交渉、乗ろうではないか。」


 嘘だろ。

 こんなにも上手くいくものなのか?

 こんなに簡単に討伐クエストって終わるものなのか?


 俺は歓喜のあまり、その場から走り出しそうだった。


 ナイトベールの次の言葉を聞くまでは。


 「しかし、我からも条件を付け足させてもらう。」


 彼はそう言うと、目をカッと見開いた。

 その目は紫色に光り、光は瞬時に彼の腕をたどり、俺を飲み込んだ。


 瞬間、激しい痛みが俺の体を襲う。

 しかし痛みはすぐに収まり、残るのは彼に対する恐怖のみ。


 ナイトベールはニヤリと笑い、口を開けた。


 「たった今、貴様に呪いをかけた。明日の正午までにこの呪いを解くことができなければ、貴様の身体はヴァンパイアへと変化し、精神もろとも我がしもべになってもらう。逆に、この呪いを解くことができれば、この地の者に危害を加えない事と、我が捕らえた乙女達を解放する事を約束しよう。貴様への慈悲として、先に答えだけは言っておこう。この呪いを解きたいのであれば、純粋無垢な乙女の首根っこに噛みつき、その血肉を啜れ。それ以外に、この呪いを解く方法はない」


 俺の歓喜の感情は、一気に絶望へと変わった。

 俺がバカだった。デュラハンを追い返したからって、調子に乗っていたんだ。

 こんなに簡単なわけがなっかた。いくら言語力の力を持ってしても、不可能な物は不可能なんだ。

 俺は何て浅はかだったんだ。いくら悔いても悔い足りない。

 くそ。くそくそくそくそくそ!


 そんな俺の姿を見て、ナイトベールは高笑いをし始めた。


 「フハハハハ!愚かだったな、人間よ!我がそう簡単に貴様の話なんかに乗ると思うか? 我は何百年も生きてきた高貴なるヴァンパイア!人間の欲求などには折れぬ!それに…貴様の言っていた我が人を襲う理由…そんなの簡単であろう?我にその力があるからだ!我の力を持ってすれば、無限に同胞を増やし、無限に女性を落とすことができる!その力を使わない理由がどこにある!?我の虜になった女性達もさぞ嬉しかろう!我に尽くせるのだからな!。フハハハハ!」


 その高笑いに吐き気が沸く。いや、これは絶望から沸いているのかもしれない。そんな俺を気にも止めず、彼は笑い、話し続けた。


 「さて、我はそろそろ戻らなければならない。我を欲して仕方がない乙女たちが待っているのでな。我が同胞となるか、それとも我と同じ罪を犯し自分の身を守るか…貴様の選択を楽しみにしているぞ、ドウモトマナブ!」


 彼がそう言うと、俺は吸血鬼城から放り出された。


 俺は絶望に飲まれ、しばらく立ち上がることもできなかった。


 初めてのクエストは、やはり簡単な物ではなかった。


 




 

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