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『言語勇者』 〜 異世界ではペンは剣より強し   作者: 柊 真
第4章:異世界では交渉は差別より強し
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第三十七話:異世界では怒りは憎しみより激しい

 俺は宿の正面玄関を通り、外で待っている相棒の方へと歩き始めた。


 「ヴェリスの様子はどうですか?」


 「今ティーアが面倒を見ている。回復は済んだから肉体的な傷はもう大丈夫みたいだけど、メンタルの方は結構やられているみたいだ…」


 「まあ無理もないですよね。仮にも自分の弟である人にあんな事されてしまったら…」


 俺達は顔を合わせて、これからの事を考えた。


 あの事件の後、どうやらロルドリンは父にチクったようで、俺達は彼の館への呼び出しを食らっていた。

 ヴェリスにあんなことをしておいて父親の後ろに隠れるとは、どこまでも卑怯な奴だ。

 やはり、彼を許す事は出来なさそうだ。


 しばらくの沈黙の後、俺はゆっくりと口を開けた。


 「なんか悪いな、お前まで巻き込んじまって。」


 するとユルビンは小さく微笑み、言葉を返してきた。


 「いいんですよ。僕も彼等にバインドを打ったので、マナブと同罪ですよ。それに、ヴェリスは僕の仲間でもあります。黙っていられるわけがないじゃないですか。ティーアも同じ事を思っていると思いますよ。だから彼女の分も、ヴェリスの仇を討ちに行きましょう。それが仲間と言う物でしょう?」


 相棒のそのたくましい言葉を聞いて、俺は改めて覚悟を決めた。


 彼の言う通りだ。

 何としても、ヴェリスを打たなくては。

 たとえそれがこの国を敵に回すことになっても。


 それが俺を孤独から救い出してくれた仲間と言うものだ。


 俺たちは顔を合わせて頷いた。


 いざ、エルバルルの屋敷へ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「ほう。よく来たな、言語勇者よ。」


 会議室に入るや否や、エルバルルは威圧するような声で俺達に言葉を投げかけてきた。


 俺は部屋を見回した。


 そこにはエルバルル以外に貴族らしきエルフが数人、そしてロルドリンとその取り巻きがすでに座っていた。


 相変わらずロルドリンは憎たらしい笑顔でこちらの方を見ていた。


 俺とユルビンはそんなエルフ親子の威圧に動じず、静かに用意された席に着いた。


 「さて…なんと言えばいいか…」


 重い空気が室内を包む中、エルバルルはその口を開け、話し始めた。


 「言語勇者ドウモトマナブ。正直君にはがっかりだよ。せっかく私達が君に活躍のチャンスを与えたと言うのに、その恩を仇で返すとは…ヴェニラ家の者に手を挙げるなど言語道断。通常なら実刑に値する罪だが…君の今までの活躍に免じて罰金刑で済ましておいてやる。私からの慈悲だ、感謝するんだな。」


 彼のその言葉を聞いて、俺の中の何かが吹っ切れた。


 何を言っているんだこいつは?

 この状況を理解しているのか?

 なんでこんなにも偉そうにしていられるんだ?


 気づいたら俺は立ち上がっていた。

 

 ここまできたらどうなったっていい。


 俺は深く息を吸い込み、大きな声で叫んだ。


 「ふざけるなぁ!!!」


 沈黙と衝撃に包まれる会議室。

 その場にいた全員の注目が俺に集まる。

 俺はそれを気にも止めず、話を続けた。


 「俺達を勝手にこの街に呼んで、勝手に娘のトラウマを掘り起こして、勝手に戦争に協力しろって頼んでおいて、『君にはがっかり』だとぉ!?ふざけるんじゃねえ!第一、あんたは怒る相手を間違えている!考えてみろ!お前の息子は仮にも自分の姉である人物を襲ったんだぞ!それを叱るのが親だろうが!なのにあんたはそれを気にもせず、彼がほんの少し傷ついたからって俺を罰そうとしている!あんたなんか父親失格だ!」


 「おま-」


 「黙れぇ!!!」


 俺はエルバルルに反論をする隙も与えず、そのまま話を続けた。


 「それに!昨日から言おうと思っていたが、あんたのやり方はそもそも間違っている!ドワーフの話を聞こうともせず、戦争に行く気満々なのに『無駄な兵士は使いたくない』だぁ?!そんなのただ楽をしたいだけじゃないか!あっちの言い分はわからないが、解決策を見出そうともせずに戦争に行くなんて愚か者のする事だ!恥を知るがいい!」


 「貴様ぁ!!!」


 エルバルルの怒鳴り声が会議室内に響き渡る。


 流石に黙ってはいられなかったのか、彼は鬼の形相で俺に怒鳴り続けた。


 「私をここまで侮辱したのは貴様が初めてだ!慈悲をかけてやろうと思ったが、どうやらその必要はないみたいだな!今から貴様らを処刑してやる!覚悟しろ!」


 「その前に!」


 俺は改めて大きな声で叫んだ。


 さあ、ここからが本番だ。


 「俺に三日間だけくれ!俺がこの戦争を止めてやるよ!俺が『得意とする』交渉の力でな!」


 俺がそう言うと、エルバルルはさらに怒り狂ったように怒鳴り始めた。


 「なぜ貴様にそんな時間をやらなくてはいけないんだ!」


 俺はすかさず彼に言葉を返した。


 「無駄な兵士は使いたくないんだろう?戦争がなければ兵士を使う必要はない。悪い話ではないだろう?」


 「ぐっ…」


 流石に黙り込むしかなかったエルバルルに対して、俺は言葉を投げかけ続けた。


 「勘違いするな。これは要求ではなく交渉だ。俺がこの戦争を止める代わりにあんたは俺達を生かす。もし俺が戦争を止めるのに失敗したら、俺を煮るなり焼くなり好きにするがいい。さあ、どうだ?こんなチャンス、二度と無いと思うぞ。」


 静まり返る会議室。


 長い沈黙の後、エルバルルはゆっくりとその口を開けて、言葉を返してきた。


 「…わかった。その交渉、乗るとしよう。」


 俺は安堵の息をついた。


 交渉成立である。



 

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