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『言語勇者』 〜 異世界ではペンは剣より強し   作者: 柊 真
第4章:異世界では交渉は差別より強し
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第三十六話:異世界では仲間の過去は想像よりはるかに悲しい

 それは満月の輝く真夜中の事だった。


 トントントントントン。


 静まり返った宿の一部屋に響き渡る音。

 その音を聞いて俺は眠りから目を覚ましてしまった。


 「う〜ん…」


 俺はゆっくりと起き上がり、部屋を見回した。

 どうやらその音は窓際から来ているようだった。


 俺はその正体を確かめるべく、ベッドでて窓際まで歩み寄った。

 すると、少し妙な光景が目に入ってきた。


 必死に窓を叩くキツツキのような小鳥と、その窓の外からひたすら俺を見つめている真っ白な狐のような動物の光景。


 俺は思わず目を擦り、二度見をした。

 一瞬夢でも見ているのかと思ったが、目の前に広がる光景は間違いなく現実だった。


 そして俺は気づいた。


 この狐は、俺の事を呼んでいると。


 何故かはわからなかったが、決してそらされる事のないそのまっすぐな視線からはそういう意が感じ取られた。


 俺はゆっくりと窓を開け、そ〜っとそこに体を通した。

 この部屋が二階にあって助かった。でなければこうも簡単に飛び降りる事は出来なかっただろう。


 草が生い茂る地面に着地すると、俺は改めて狐と目を合わせた。

 

 よくよく見ると、俺はこの狐に見覚えがあった。


 この狐はヴェリスが呼んだ動物達の中にいた、少し妙だと思っていた狐だ。


 妙だと言っても決して見た目や振る舞いがおかしい訳ではなく、見る分にはただの白い狐だ。

 妙だと思ったのはその鳴き声だ。


 動物の言葉がわかる俺にとっては動物達の鳴き声は普通に人の言葉を聞くのと同じだが、この狐の鳴き声にはある違和感を覚えた。

 それは人間で言う方言のようなもの。

 この狐はまるで上京したばかりの田舎者が慣れない標準語で喋っているような鳴き声をしていた…特に気にはしていなかったが、もしかして何かあるのか?


 その疑問に答えるかのように狐はその口を開けた。


 「出てきてくれてありがとう。」


 狐はそう言うと飛び上がり、宙返りをした。

 そして空中で徐々にその姿を変えた。

 緑色の髪をたなびかせ、植物でできたドレスを身にまとった美しい女性に。


 これには流石に驚いたが、俺にはすぐにわかった。

 この女性が誰なのか。

 それは彼女の顔を見れば一目瞭然だった。


 娘によく似た凛々しく整った顔。


 俺の目の前にいる女性は間違いなくヴェリスの母だった。


 俺が呆気にとられているのを見て彼女は小さく微笑み、ゆっくりとその口を開けた。


 「驚かせちゃってごめんね。私の名前はペルン…あなたの仲間のヴェリスの母親よ。よろしくね。」


 彼女のその優しい声のおかげで、俺は少し落ち着きを取り戻した。

 俺は軽く息を吸い込んでから彼女に言葉を返した。


 「は、はい…こちらこそ…で、あの…何故ここに?」


 俺がそう聞くと彼女は少し間を置いてから、予想だにしない事を語り始めた。


 「いきなり押し掛けるようでごめんなさいね…でも、どうしても伝えたかったの。私ができなかった分まで、娘の面倒を見てくれてありがとう。あの子には辛い思いをさせてきたから…」


 俺は思わず彼女の言葉を遮り、言葉を発してしまった。


 「その気持ちはありがたいですけど、それだったら直接ヴェリスにあった方がいいんじゃないですか?もう何年も顔を合わせていないんですよね?ヴェリスも会いたがってると思いますよ。」


 俺がそう言うと、ペルンは悲しそうな顔をしてから、言葉を返した。


 「それはできないわ…私、死んでいるもの。」


 俺は一気に血の気がひいた。


 死んでいる?

 どう言う事だ?

 つまり俺の目の前にいる彼女は幽霊という事か?


 俺の頭の中を飛び交う質問に答えるかのように、彼女は話を続けた。


 「いきなり言われても驚くわよね、ごめんなさい…でも、事実だわ。私は一度死んだの。昔の私は、精神的に色々と限界だったの。あの人からは罵倒されるし、世間からは冷たい目で見られるし、娘とは会えないし…ヴェリスがこの街から逃げた時、限界を超えてしまったの。途方に暮れた挙句、森林の中に身を投げたの。ゆっくりと薄れていく意識の中で、私を呼ぶ声が聞こえたの。気がつくと、私の体は植物に包まれていて、何故か傷もなくなっていた…理由はわからないけど、私は一度死んでドゥルイッドとして生まれ変わったの。もしかすると、あの森にはそういう呪いがかかっていたのかも…」


 俺は必死に今彼女が話した事を整理しようとした。


 ドゥルイッド。ゲームなどでたまに見る職業兼種族で、森の精霊とかがその代表例だ。

 普通なら人間がなれるはずのない職業だが…やはり、彼女は何かの呪いでも受けたのか?

 いや、今それは大事ではない。


 今大事なのは、彼女とヴェリスと親子関係だ。


 俺は意を決して口を開けた。


 「それなら尚更彼女に会うべきじゃないですか?せっかく貰った第二の命ですよ。それなのに自分に娘に会わないでどうするんですか?」


 俺がそういうと彼女はすかさず、かつ感情的言葉を返してきた。


 「私も会いたいわよ!でも私が自殺したってヴェリスに知られたら…彼女は自分を攻めるに違いないわ!|もうあの子には辛い思いをさせたくないの…だから私はこのまま遠くから彼女から見守っているわ。その方がいいのよ…」


 俺は深く息を吸い込んだ。


 彼女の思いはわからなくもないが、本当にそれでいいのか?

 今すぐそばまで来ている実の娘に会わないままでいいのか?

 今までそばにいてあげられなかった娘に会わないままでもいいのか?


 いや、そんなのいいわけない。


 「しかし-」


 俺が反論しようとすると、後ろから甲高い声が聞こえてきた。


 「マナブ!マナブ!」


 俺は振り向いた。

 そこにいたのは傷を負いながらも必死にこちらの方に走ってくるファンテンだった。


 一体どうしたのかと聞こうとしたが、そうできる前に彼はその質問に答えてしまった。


 聞きたくもなかったような答えで。


 「ヴェリスが…ヴェリスが!」


 その言葉を聞いて、俺は思わず走り出した。


 ヨロヨロのファンテンを肩に乗せ、必死に彼に問いかけた。


 「どこだ!?」


 「商店街の方!早く…ヴェリスが!」


 小さな彼の道案内を頼りに、俺は必死にルクセルを駆け回った。

 

 やがて俺は、小さな路地裏の前に着いた


 そして、とんでもない光景を目にしてしまった。


 ロルドリンとその取り巻きであろうエルフの青年二人。

 彼等が手にしていた酒の瓶。

 そして壁に押し付けられた、傷だらけのヴェリス。


 俺は目の前が真っ白になった。


 考えるより前に体が動いた。


 気づけば、俺の拳はロルドリンの顔に深くめり込んでいた。


 凄まじい音ともに吹き飛ぶ彼を見て、俺は情けなんて感じなかった。


 彼の取り巻きは俺に襲いかかろうとしたが、すぐに止められてしまった。


 「バインド!」


 半透明の鎖が彼等三人を拘束する。


 後ろを振り向くと、そこには心配そうにこちらを見るユルビンとティーアがいた。


 ユルビンが拘束魔法を使い終えると、ティーアは急いでヴェリスの方へと駆け寄った。


 「ヴェリス!大丈夫!?」


 ヴェリスは弱い唸り声しか返す事しかできなかった。


 俺は改めてロルドリンの方を見た。


 こんなな状況でも、彼は俺を見下すような憎たらしい笑顔で見ていた。

 どうせ権力を使って俺を陥れるつもりだろう。

 

 そんな彼を見て、俺は確信した。


 俺はこいつを、絶対に許さない。






 

 

 

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