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『言語勇者』 〜 異世界ではペンは剣より強し   作者: 柊 真
第4章:異世界では交渉は差別より強し
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第三十五話:異世界では仲間は家族より素晴らしい

 「あ、みんないたのか。」


 ヴェリスは俺たちに気づきそう言うと、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。


 俺は目が覚めたかのように、ようやく目の前の女性がヴェリスである事に気がつき、慌てて言葉を返した。


 「あ、ああ。ヴェリス、これって…一体…」


 俺がそう言うと、ヴェリスは可愛らしい笑顔を保ったまま、元気よくその口を開けた。


 「前にも言ったダロウ?動物が心の支えになってくれたって。この場所は子供の頃よく気所でね。動物達と遊ぶのが日課だったんだ。ファンテンと出会ったのもここだったし、私にとっては思い出深い場所なんだ。」


 するとティーアも目が覚めたかのように、ヴェリスに問いかけた。


 「って言う事は…ここにいる動物は全部ヴェリスの友達って事?」


 ヴェリスは頷くと嬉しそうに言葉を返した。


 「だいたいそんな感じだな。もちろん既に亡くなっている子も何匹かいるが…その分今日出会えた彼ら子供とかがいるから、そんなに寂しくはないかな…」


 彼女のその言葉を聞いて、俺は改めて彼女がどれだけ寂しい過去を過ごしてきたのか理解した。


 いくらこの動物達がいたとしても、彼女は幼少時代をずっと一人で過ごしたんだ。

 親の愛情も受けずに一人で。

 俺の孤独なんて、彼女が感じたものに比べればちっぽけなものだろう。


やはり、俺は彼女の心の拠り所であるこの場所を守るしかない。


 そのためには、彼女の父親との交渉に決着をつけなければいけない。


 俺は深く息を吸い込んだ。

 これは長い戦いになりそうだ。


 俺の今の気持ちに応えるかのように、突然軽い雨が降り始めた。


 「うわ!雨ですね…あの、一応宿には予約を入れておいたので、一旦そちらに戻りませんか?」


 ユルビンがそう言うと、俺達は全員頷き、来た道を戻り始めた。


 たわいのない話をしながら、雨で濡れていく道をひたすら歩いた。


 その道中で、突然ヴェリスが俺達に問いかけた。


 「みんなの親って、どんな感じなんだだ?」


 突然の質問に驚いたが、俺達は顔を合わせ、順に答えていった。


 「僕の親はとにかく魔法を勉強しろと口うるさかったですね…父も母もとにかく真面目で家を継ぐ後継者を育てるのに必死でした。恨むわけではないですけど、もうちょっと僕の事を見て欲しかったですね…まあ、もう追い出された身なのでどうしようもないですけどね。」


 「私は騎士の一家に生まれたから、幼い頃から剣の稽古をお父様につけてもらっていたわ。『騎士なら言葉ではなく剣で語れ。』それがお父様の教えだったの…お母様もそれに黙ってついていくような人で、ずっとお父様を側で支えていたわ。今思えば、あんな厳しい環境で育ったから、恋愛とかに憧れちゃったのかもね…でも後悔はしてないわ。あの人と過ごす時間は、本当に楽しかったもの…」


 ユルビンとティーアが話し終えると、ヴェリスは少し間を置いてから俺に問いかけた。


 「マナブはどうだったんだ?」


 俺は思わず口ごもってしまった。


 俺は正直そんなに両親の事についてちゃんと考えた事はないし、もう何年も実家には帰っていない。

 どうやって答えたらいいものか…

 まあ、正直の答えるしかないか。


 俺はゆっくりと口を開けた。


 「そうだな…父さんは無口な上に無愛想で、いつも何を考えてるかわかんない人だったし、逆に母さんは口うるさくて俺のやる事なす事全部に口出ししてきてな…でも、なんだかんだ言って二人で上手くやっていたし、正直すごくできた人間だと思うよ。最近は全然会えてないけど…できれば少しくらい顔出してやりたいかな…」


 自分でも気づいていなかった両親に対する思いを打ち明けると、ヴェリスは少し俯いてから言葉を返した。


 「そうか…私はそのような思い出はないから、正直羨ましいよ。父上には見向きもしてもらえなかったし、母上は世間から隠れるのに必死でろくに相手をしてもらえなかったからな…親から貰ったものはこの父上譲りの喋り方くらいだ。まあ、それも父上に『嫁に行くのに邪魔になる物』だとバカにされたがな…」


 そう言うと彼女は一旦歩みを止め、俺達の方を向いて話を続けた。


 「なんだか悪いな、こんな暗い話をしてしまって…だが、私が恵まれなかった幼少期を送ったのは確かな事実だ。だからこそ、みんなにはこう言える。ありがとう。こんな私を受け入れてくれて、本当に感謝する。恩に着るとしか言いようがない…昔は恵まれていなかったかもしれないが、今は素晴らしい仲間に恵まれている。本当にありがとう…」


 ヴェリスはそう言うと涙を流しながら、できる限りの笑顔をこちらに向けた。

 その表情からは、感謝以外の念は感じ取れなかった。


 俺達は少なからずも、彼女の救いになれているようだ。

 それだけでも、俺達も救われると言うものだ。


 俺達はヴェリスが泣き止むのを待ってから、再び宿を目指して歩き始めた。

 しばらくすればまたたわいのない話は始まり、先程の暗い空気は一気になくなった。


 そしてその軽くなった空気に応えるかのように、雨は徐々に止んでいった。


 完全に止む頃には、俺達は宿の中で眠りにつこうとしていた。


 俺は新たな決意を心に秘め、ゆっくりと目を閉じた。





 

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