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『言語勇者』 〜 異世界ではペンは剣より強し   作者: 柊 真
第4章:異世界では交渉は差別より強し
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第三十四話:異世界では笑顔は迷いより強し

 「では、君が得意と言う交渉を始めようじゃないか。」


 エルバルルはそう言うと、俺はを大きな会議室の中へと案内し、その奥にある大きな椅子に座した。


 俺は彼と向かい合うように、仲間達は俺を挟むように席についた。


 「で?何を交渉したいんですか?」


 俺がそう聞くとエルバルルは難しそうな顔でゆっくりと語り始めた。


 「この国より北に位置するケイスという国を知っているか?」


 俺は首を横に振った。するとエルバルルは軽くため息をつき、話を続けた。


 「下劣なドワーフ供が住まう国なんだが、私達は古くから奴らと敵対関係を持っている。今でも政治的関係は良好とは言えないだろう。そんな中、先日私達は奴らから宣戦布告を受けた。エルフが代々受け継いできたミスリル鉱山の所有権をよこさなければ、それをめぐり全面戦争を開始すると…正直迷惑この上ない事だ。」


 俺は彼の話を一旦整理した。


 ドワーフとはエルフと同様、ゲームなどでよく見かけるファンタジー物では定番の種族だ。

 低身長だがその筋力は凄まじく、よく斧を使って戦う描写を見る。

 そして、エルフと犬猿の仲であると言う描写もよく見る。


 まさかそれがこの世界では本当の事だったとは…

 果たしてこれは俺が介入していい事なのか?

 

 その疑問に答えるべく、俺はエルバルルに問いかけた。


 「はあ…それで、俺には何をして欲しいんですか?正直に言いますと、僕がなんとかできるような問題には聞こえないんですが…」


 俺の言葉を聞くと、エルバルルは少し間を置いてから再びその口を開けた。


 「ふん。では単刀直入に言おうではないか。言語勇者ドウモトマナブ。君には私達エルフの諜報員として働いて欲しい。ドワーフ供との距離を縮め、その過程で得た有益な情報を私達に流して欲しい…戦況を有利に進めるためにな。もちろん報酬も用意する。どうだ?悪くない話だろう?」


 重い沈黙が部屋を包む。


 俺に諜報員、つまりスパイをして欲しいと?

 そんなことやっていいのか?

 俺に全く関係ない他種族間の戦争を大きく左右するような事をやっていいのか?


 って言うか、いくら言語に長けてるからと言って俺にそんな事できるのか?


 考えたこともないような道徳問題が頭の中を駆け巡る。


 俺は考えがまとまらないまま、ゆっくりと口を開けた。


 「少し…考える時間を頂いてもいいですか?」


 するとエルバルルは一度目を閉じてから言葉を返した。


 「ああ、もちろん構わんぞ。だができれば早めの決断を願いたい。私達も無駄に兵士を使いたくないのでな…君が協力するかどうかで大きく戦術は変わる。なので時間は明日の朝までしか与えられん。それでもいいならこの会議は終わりだ。自由に街を観光でもしているといい。」


 そう言うと彼は立ち上がり、ゆっくりと会議室を去った。


 俺はただ目の前を見つめて、今の状況を整理するにに必死だった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「どうしたもんか…」



 俺は小さな川の上にかかった木造の橋の上にいた。

 川の中を泳ぐ小魚達を眺めながら、何をするべきか考えながら。


 本当に面倒なことに巻き込まれたな。


 ヴェリスを恨むわけではないが、こんな事になるんだったら正直ここには来たくなかった。

 だが、俺が来るって言った以上はなんとかするしかない。

 何とかこの先するべき行動を決めるしかないんだ。


 しかし何から始めたらいいのか…


 俺には戦争なんて縁のない話だし、ドワーフ達には何の恨みもない。

 こんな決断、簡単にできるわけない…


 俺は大きなため息をつき、ただひたすら小魚達を眺め続けた。


 すると、少し妙な事が起き始めた。


 全く違う方向に泳いでいた小魚達が、一気に整列して川上目掛けて泳ぎ始めた。

 俺は思わず、その小魚達の後をつけた。その道中に他の小動物が同じ方向を目指して走っているのが度々目に入った。


 十分程川を上ると、目の前にはものすごい光景が広がっていた。


 池の中にポツンと置かれた小さな島。

 その周りを泳ぐ魚、上空を旋回する小鳥、木製の橋をつたって群がる小動物。

 そしてその中心に立つ一人の女性。


 俺はただただその光景に見とれていた。

 その真ん中に立っている女性がヴェリスだと気づかずに。

 それほどその光景は美しいものだった。


 そしてそれは俺以外の目にも写っていたようだ。

 

 辺りを見回すと、俺の横にはユルビンとティーアが立っていた。

 どうやら彼らも、この場所に惹かれたようだ。


 まあ無理もない。

 この場所には、見る者を惹き付ける『何か』があった。


 そして俺はその正体に気づいた気がしていた。


 ヴェリスの顔に浮かんだ、純粋無垢な少女のような笑顔。

 辛い過去を忘れたかのような笑顔。

 彼女が今まで見せた中で一番いい笑顔。


 それが全てを物語っていた。


 ここは彼女にとって安全な場所。

 自分でいられる場所。

 家族と言う名の鎖に縛られずに済む、大切な場所。


 それがわかると、俺の迷いは一気に吹き飛んだ。


 やる事は、たった一つだ。

 最初からそうだったんだ。

 何故、気づかなかったんだろう。


 俺は心の中で決心した。


 ヴェリスの心の拠り所であるこの場所を、命をかけて守ると。

 


 




 




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