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『言語勇者』 〜 異世界ではペンは剣より強し   作者: 柊 真
第4章:異世界では交渉は差別より強し
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第三十三話:異世界ではエルフは思った程高貴ではない

 「着いたぞ。」


 ヴェリスがそう言うと、馬車はゆっくりとスピードを落とし、やがて停止した。


 俺達はヴェリスの故郷モリシアの首都、ルクセイに来ていた。

 

 神秘的な森林の中に佇む美しい木造の建物の数々。

 その建物を行き来する長耳のエルフ達。

 そして何よりも魔力が満ち溢れているかのような澄み切った空気。


 その美しき異様な風景に俺完全に魅了されていた。


 だが、忘れてはいけない。


 ここはヴェリスにとって、決して懐かしい場所なんかじゃない。

 むしろ来なくてもいいなら来たくないような場所だ。

 

 ここは、彼女を縛る家族の鎖が結びついた先だ。


 変な地雷を踏まないように、慎重に行動しよう。


 俺を決心すると、仲間達と共に馬車を降りた。


 そして降りるや否や、俺達は大人数の鎧を着たエルフに出迎えられた。

 その先頭には、銀で装飾された青いローブに身を包む一人の男性がいた。


 彼からはザカラヤスと似た物を感じたが、ある事が決定的に違った。

 彼からはザカラヤスのような優しさを一切感じられなかった。


 となると、この人は…


 「久しぶりだな、父上。」


 ヴェリスのその言葉は俺の考えを確信に変えた。


 この人がヴェリスの父親。

 ヴェリスがハーフエルフだからって彼女と妻を捨て、自分の身分を守ったと言うクソ野郎。


 俺は沸き上がる怒りを必死に治め、彼の言葉を聞いた。


 「ああ、そうだなヴェリス。よく来た。そして、君が噂の言語勇者だな。私の名前はエルバルル・ヴェニラだ。はるばる遠くから来てくれた事、誠に感謝する。」


 俺は一息ついてから、彼に言葉を返した。


 「いえいえ、こちらこそお呼びいただきありがとうございます。失礼ですが、早速要件を聞かせてもらいませんか?」


 俺がそう言うと、エルバルルは眉間にしわを寄せた。


 「わかった。ここは場所が悪い、私の会議室で話し合うとしよう。」


 そう言うと彼はくるりと後ろを向き、早足で大きな屋敷のような建物目掛けて歩き始めた。

 彼の護衛であろう鎧を着たエルフ達は彼のあとをついていった。


 俺達はお互い目を合わせてから、全員で彼の後をついていった。


 すると、後ろから若い男性の声が聞こえてきた。


 「ほお〜。せっかく出迎えに来てあげたのに、挨拶もなしですか、姉上?」


 振り返ると、そこにはどこかヴェリスと似たエルフの青年が立っていた。

 ヴェリスと似ているといっても、それは顔立ちだけの話であり、他の特徴は全く違った。

 短い金髪に高貴そうな服装、そして人を見下したようなムカつく笑顔。


 彼を見ているだけで理由もない怒りが湧いてくる。


 俺は彼を無視しようとしたが、ヴェリスはいたって冷静に彼に言葉を返した。


 「何の用だ、ロルドリン?」


 すると青年は一気にこちらに近づき、ヴェリスの肩にその手を置いて口を開けた。


 「だから出迎えですよ〜。自分の姉の出迎えをしちゃいけないんですか?別いいでしょう、久しぶりなんですし。なんかダッサイ男捕まえたみたいですけど、本当にこいつが父上が探していた言語勇者なんですか?」


 流石に頭にきた俺は彼の手をヴェリスの肩から払い、強い口調で言葉を発した。


 「ダサい男で悪かったな。それより、あまり軽々しくウチのレンジャーに触れないでくれるか?


 俺がそう言うと、彼は一瞬怒ったような顔をしたが、すぐにまたムカつく笑顔に戻り、煽るような口調で言葉を返した。


 「ああ〜ごめんごめん。悪かったよ。人間って本当にくだらない事を気にするんだな…まあ俺には知ったこっちゃないが。それより君、言動には気をつけたほうがいいよ。俺って一応この国を治めるエルバルル・ヴェニラの息子なんだよ?気をつけないと場合によっては刑罰に値するかもよ…まあ、今のは許してあげるから安心しな。」


 彼のその言葉を聞いて、心底腹が立った。


 自分の権力を盾に好き勝手やるお調子者。

 俺が一番苦手なタイプだ。


 だが、ここはヴェリスの為にも下手な事をするわけにもいかない。


 俺は歯を食いしばりながら、ゆっくりと言葉を返した。


 「そうですか。ご注意ありがとうございます。では俺達はここで失礼します。あなたのお父様をこれ以上待たせるわけにはいかないので。」


 俺はそう言い捨て、早足で仲間達を連れてエルバルルが待っている館へと向かった。


 ロルドリンが見えなくなったところで、ヴェリスが俺に言葉をかけてきた。


 「さっきは弟が悪かったな。」


 俺はため息をつき、彼女に言葉を返した。


 「いや、別にいいよ。しょうがない事だし。って言うか、本当にあんな奴がヴェリスの弟なのか?」


 するとヴェリスは俺より大きなため息をつき、頷いた。


 「ああ。正確には父の再婚相手との子供だから半分しか血は分けていないがな。私がここを去った時はまだ子供だったが…まさかあんな減らず口を叩くような奴に育ったとはな…」


 彼女のその言葉からは、怒りのような後悔のような節がな感情が感じ取られた。


 俺は彼女の肩に手を置き、ゆっくりと口を開けた。


 「まあ、気にする事ないさ。さ!さっさと君の父さんの頼み事聞いて、ギルドに帰って美味いもんでも食おうぜ!」


 俺がそう言うと、ヴェリスは軽く微笑み、小さく頷いた。


 「ああ、そうだな。」


 どうやら彼女も覚悟が決まったようだ。


 俺達は、エルバルルの館に足を踏み入れた。

 












 

 


 

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