第三十二話:異世界では仲間は嫌な思いより強し
俺はギルドの訓練場に来ていた。
剣術、機動力、射的。
冒険者に必要な能力を鍛えるために必要な設備がズラリと並んだ施設。
初めて足を運んだが、結構便利な施設に見える。
周りで訓練に励んでいる冒険者達がその証拠だ。
そんな中俺はボウガンを取り出し、息を整え、ゆっくりと引き金を引いた。
「スナイプ。」
ボウガンから放たれた矢は、数十メートル先にある的の中心に見事命中した。
だが、俺の口からはため息しか出なかった。
やっぱり、足りない。
先日のサウラーとの戦いでわかった事。
それはやはり俺の戦闘能力が低すぎると言う事だ。
この世界に来た時から分かりきっていた事だが、流石にこのままではやばい。
言語力だけでなんとかなると思っていたが、今のところそれを裏付けるような事は起きていない。
むしろその逆を裏付けるような事しか起きていない。
ティーアと戦った時もサウラーと戦った時も、仲間達に頼りすぎたところもある。
協力するのはいい事だが、流石にずっと頼りっきりと言うのもダメだろう。
そのためにも、より強くなる必要がある。
俺はもう一度ボウガンを構え、スナイプを使い続けた。
しばらくすると、後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。
「あ、マナブ!ここに居たんですね。」
振り返ると、そこには相棒の姿があった。
それを見て、ある考えが俺の脳裏をよぎった。
「おお、ユルビン!ちょうどいい!ちょっと試したい物があるんだけど、手伝ってくれるか?」
俺がそう聞くと、ユルビンは少し困惑した顔で言葉を返した。
「え?ま、まあいいですけど。」
彼の言葉を聞き、俺はすかさず彼の肩に右手を置き、そこに魔力を込め始めた。
「よし!じゃあ、パワードレイン!」
驚いたユルビンの声と共に、彼の力が俺の右手を通して流れ込んで来た。
攻撃力の吸収が完了したのを確認してから、俺は改めてボウガンを構え矢を放った。
「からのスナイプ!」
放たれた矢は先程のように的の中心に命中しただけではなく、的自体を貫通した。
やっぱり、俺の考えは正しかったんだ。
「ちょっとマナブ!何するんですか!」
怒っているユルビンの声を聞いて、俺少し罪悪感を感じながら言葉を返した。
「あ、ああ悪い。ちょっと試したかったんだよ。パワードレインの功撃力上昇が遠距離攻撃に適応されるかな。」
「だったら言ってくださいよ!いきなりスキルを使うなんてどうかしていますよ!」
「あはは、そうだよな…ごめん。」
流石に焦りすぎたか。
いくら強くなりたいとは言え、いきなりこう言うことをするのは良くないよな。
「第一、なんでそんな事を試したかったんですか?」
俺はため息をつき、相棒に俺の心境を打ち明けた。
「いやな、なんか俺ってみんなに比べれば戦闘力低いだろ?だから俺も使えるスキル多さでなんとかできないかな〜って思ってな。ヴェリスによると、スナイプは使用者の素早さに応じて攻撃が必中になる距離の限界が違うんだ。素早さの高いヴェリスだと六十メートルとか余裕だろうが、平均的な素早さしかない俺だとせいぜい二十メートルが限界だ。だからその分攻撃力を上げれば少しは戦闘力のなさをカバーできると思ったんだ。いきなり巻き込んじゃってごめんな。」
するとユルビンはため息をつき、首を横に振ってから言葉を返した。
「別にいいですよ。マナブ気持ちはわからなくもないですし…でも、そんなに思い詰めることもないと思いますよ。マナブの本当の力は、そう言う物ではないと思いますし。」
相棒のその優しい言葉を聞き、俺は思わず微笑んでしまった。
「ああ、そうかもな。ありがとう、ユルビン。」
「いえいえ。あ!そう言えばヴェリスがマナブさんの事探してましたよ。なんだか大事な話があるらしいですよ。」
ヴェリスが大事な話?一体なんだろう…
まあ、とにかく彼女に直接聞いて方がいいだろう。
「わかった、今から行くよ。ありがとな!」
俺はそう言いユルビンと訓練場を後にした。
ギルド内に戻り辺りを見回すと、酒場のカウンター席に座っているヴェリスの姿が目に入った。
俺は彼女の方へと歩み寄り、狩野に言葉を投げかけた。
「ようヴェリス。大事な話があるんだって?」
「ああ、マナブ。実はな…」
彼女は難しい顔でそう言うと、懐から一通の手紙を取り出し、話を続けた。
「王都での一件で、私達のの名前が広まったのは知っているよな?」
「ああ。ザカラヤス王子もいいように言ってくれてるみたいだし。それがどうかしたのか?」
俺がそう聞くと、ヴェリスは大きなため息をつき、次の言葉を口にした。
「実は私の父の耳にもその話が入ったみたいでな。最初は興味がなかったみたいだが、先日のサウラーとの戦いで私がネイチャーズプリズンを使ったことが噂になり、私が君のパーティーに入っている事が彼にバレたんだ。それで私を呼び出す手紙が来てな…それもマナブを連れてこいと言う内容のな。正直行きたくはないが…あの男はしつこい。断ればおそらく付きまとってくるだろう。無理についてこいとは言わないが、少し面倒事につき割ってくれないか?」
俺は少し考えた。
ヴェリスの父、つまりモリシアと言う国を統べる貴族からの呼び出しか。
確かに断ればめんどくさそうだし、行くしかないようにも見えるが、ヴェリスが嫌な思いをするのも好ましくはない…
だとしたら、できることはたった一つ。
「わかった。行くならみんな一緒だ。俺達仲間だろ?ヴェリスだけに嫌な思いはさせないさ!ユルビンとティーアにも言っておくから、ヴェリスは心の準備でもしておけよ!」
俺がそう言うと、ヴェリスは優しく微笑み、静かに言葉を返した。
「ありがとう、恩にきる。」
俺は彼女に頷き、仲間たちを招集しに言った。
モリシアへの旅の開始である。




