第三十一話:異世界では幸せは暗い過去より素晴らしい
「あ、マナブ!ヴェリス!パイセリウスさん!無事だったんですね!」
洞窟に入ると、ユルビンが早足でこちらに駆け寄ってくる。
俺は軽く微笑み、彼に言葉を返した。
「ああ、なんとかな。それより、シューリンさんは?」
「私は無事だぞ。」
声の方へと振り向くと、そこには優しい笑顔で平和そうに彼女の腕の中で寝ている赤ちゃんを見つめているシューリンさんがいた。
俺は彼女のその姿を見て、幸福感でいっぱいになった。
俺は彼女を救えたんだ。
姉さんみたいな人が増えないで済んだんだ。
あの時とは、違う展開に持って行けたんだ。
もっと幸せな展開に。
俺は湧き上がる涙をこらえ、彼女の方へと歩み寄った。
「良かったですね、シューリンさん。」
「ああ。これも、君達のおかげだ。感謝するぞ。」
彼女がそう言うと、皆笑顔を浮かべ目の前の光景をただただ眺めた。
この幸せ極まりない光景を。
しばらくしての沈黙の間、あることに気づいたティーアがそれを破った。
「って、パイセリウスさん!どうしたんですかその傷!」
するとパイセリウスは苦笑いをし、言葉を返した。
「今更気づいたのか。まあ致命傷ではないが…良ければ回復してくれないか?」
「は、はい!もちろんですよ!」
「それなら私も頼む。まあ、私は魔力切れれだが…」
「ってヴェリスまで!もう、もっと早く言ってよ!」
ドタバタするティーアと笑いに包まれる洞窟内。
さっきまで黒竜と死闘を繰り広げていたなんて信じられないくらい幸せな空間。
俺は改めて、目の前の光景を目に焼き付けた。
俺は救えたんだ。
今度こそ、救えたんだ。
しばらくして、ヴェリスとパイセリウスの回復が終わった後、俺はふと浮かんだ疑問をシューリンに投げかけた。
「そういえば、その子の名前はどうするんですか?」
するとシューリンは軽く笑いを漏らし、言葉を返した。
「そうだな…この子は雄だから…私達を救ってくれた偉大なる言語勇者の名前をとって、マナブと名付けようともう。」
彼女の言葉を聞いて、俺んは一気に顔が赤くなるのがわかった。
俺は慌てて言葉を探した。
「え!?い、いやそんな大層な…って言うか本当にいいんですか?息子さんにそんな変な名前をつけて。」
「何を言う。先ほどの戦いの激しさはここからも聞こえていたぞ。パイセリウスがいたとはいえ、君なしでは勝てなかった戦いだ。逆境の先導者サウラーを打ち破った言語勇者ドウモトマナブ…そんな立派な人物の名前をつけられるなんて、この子も嬉しいともうぞ。」
畳み掛けるように彼女の口から飛び出す賞賛の言葉に、俺は困惑し、結果的に押し負けてしまった。
こう言うのには、さすがにまだ慣れないな…
「わかりました。そこまで言うなら、どうぞ僕の名前をお使いください。立派かどうかはわかりませんが…」
「ありがとう、感謝する。これほど立派な名前なら、お前も文句はないよな、パイセリウス?」
彼女の言葉を聞いたパイセリウスは何か言いたそうな顔をしていたが、最終的には微笑みその口を開けた。
「まあ、そうだな。甥の名前が人間の者とは少し癪に触るが…確かに、マナブがいなければ勝てない戦いだったのは確かだ。改めて感謝するぞ。」
「いや、だからそんな…」
照れ笑いをする俺を見て、再び笑いに包まれる洞窟内。
俺はしばしこの幸せな空間を堪能した。
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「本当に世話になったな。」
朝になり、俺達がギルドに戻る時が来た。
荷物を詰めている俺達にパイセリウスが投げかけたその子TB兄大使、俺達は各々の言葉を返した。
本当に、いろいろあった数日間だった。
だが結果的に、俺達はシューリンさんを救うことができた。
それだけでも、有益な数日間だったと言えるだろう。
やがて、俺達は荷造りを終え、洞窟を後にし始めた。
「では、また会う日まで。」
俺が別れの言葉をパイセリウスとシューリンに投げかけると、シューリンの口から思いげ毛ない言葉が返ってきた。
「時に、言語勇者よ。一つ聞きたい事があるんだが、いいか?」
「はい、なんですか?」
俺は彼女の言葉に妙な重みがあるのがわかった。
なにせ、彼女はコモン語ではなくドラゴンの言葉で俺に話しかけていたのだから。
つまり彼女が聞きたいのは、お以外の人間に聞かれたくない事。
俺は固唾を飲み込み、彼女の言葉の言葉に耳を傾けた。
「君は、もともとこの世界で生まれた人間ではないな?」
背筋が凍る。
何故?彼女がそれを知っているんだ?
何故?
その疑問に答えるかのように、彼女は話を続けた。
「実は父の友人に『空間の管理者』と言う二つ名を持つドラゴンがいてな。そいつの話によると、私達の世界以外にも世界が多数あると言う…最初から君の魔力が普通の人間と少し違ったからもしやとは思ったんだが…その反応から見ると図星のようだな?」
俺は深く息を吸い込み、言葉を返した。
「それが、どうかしましたか?」
「いや。ただ言っておいたほうがいいかと思ってな。もし自分の世界が恋しくなったら、彼女を当たるがいい。居場所はここよりはるか北にある『アスター山』だ。まあ、行くがどうかはお前の勝手だがな。」
彼女の言葉を聞き、俺の考えは一気にまとまった。
「ご心配してくださり、ありがとうございます。でも、俺は大丈夫ですよ。頼れる仲間達がいるので。」
俺の言葉を聞き、シューリンは優しい笑顔で言葉を返した。
「そうか。じゃあ、いずれ会う日まで。」
俺彼女に頷き、仲間達と一緒に洞窟を後にした。
何はともあれ、無事クエスト完了である。




