第三十話:異世界では奇術はドラゴンより強し
「スナイプ!」
俺はありったけの矢をサウラー目掛けて放ち続けた。
「だからそれは聞かないんだよ!」
その一本一本に対し、サウラーは俺に火の玉を返そうとする。
「どこを見ている!」
そしてその度にパイセリウスが彼に突っ込み、爪撃をくらわせる。
攻撃を繰り出し、避け、交わす。
ただひたすらその繰り返しだった。
サウラーも馬鹿の一つ覚えな攻撃しか繰り出さず、まんまとこのループにはまってくれた。
本当にこいつはそんなに強いのかと思っていると、ある事に気がついた。
さっきからサウラーは俺にしか攻撃しようとしていない。
普通に考えればより脅威なのはパイセリウスだが、奴はまるで彼を攻撃しようとしていない。
それどころか、一度も放ててない攻撃を繰り返し俺に当てようとしている。
一体なぜ?
まさか、こいつ-
俺がそう考えていると、いきなりサウラーは大きく羽ばたき、パイセリウスよりさらに高い上空に飛び上がり、大きな声で俺に言葉を投げかけた。
「聞け!ドウモトマナブ!お前が何を企んでいるか知らんが、それが愚策である事を今から教えてあげよう!俺様の名はサウラー!逆境の先導者サウラーだ!ダメージを受ければ受けるほど強くなる黒竜である俺様の攻撃を喰らうがいい!」
そう言うと彼は、その口から黒い稲妻を帯びた火の玉を俺目掛けて飛ばした。
「しまっ-」
パイセリウスはその攻撃を防ごうとしたが、時すでに遅し。
彼の傷だらけの体にその攻撃を受け止めるほどの強さと速さは残っていなかった。
火の玉はそのまま、俺に高速で近づいてくる。
俺は歯を食いしばった。
「くそ…っ!」
俺はその攻撃をもろに食らってしまった。
弾け飛ぶ火の粉。
轟く雷鳴。
着弾点を包む深い煙。
その全てが治ると、俺は傷一つない体で、サウラーを睨みつけた。
奴は大きくにやけた口を開け、俺に語りかけた。
「やはり無傷か…相当強い鎧みたいだったが、今ので消し飛んだみたいだな。俺様に魔力でできた鎧を隠そうだなて、お前も愚かなものだな。」
くそ、やっぱり気づいていたか。
アンデッドスキル、ソウルディフェンス。
ティーアに教えてもらったアンデッド系スキルの一つで、体力と引き換えにありとあらゆる攻撃を防ぐ鎧を作ると言うものだ。
一定のダメージを受ける消えるが、その性能は確かだ。
現に俺は今ドラゴンの攻撃を喰らって生きているんだからな。
しかし、一撃で破られるとは思わなかった。
また張り直すと言う手もあるが、正直体力が心配だ…
さて、どうする。
俺が決断できる前に、サウラーは再びその口を開けた。
「さて、お前の防御を消し去ったところで…パイセリウス、次はお前だ!」
そう言い、彼は稲妻を帯びた爪を掲げ、凄まじい速さでパイセリウスに突っ込んだ。
「ぐはっ!」
「そのまま地面でおとなしく寝てな!」
攻撃を受けたパイセリウスはその衝撃で地面の方へと吹っ飛んでしまった。
辺りに響く地響きとともに、彼の体は地に着いた。
俺はそれ見て、すぐさま彼の方へと走り出した。
もちろん、それをサウラーが見逃すはずがなかった。
「どこに行くつもりだ!」
巨大な火の玉が俺目掛けて飛んでくる。
その際、火の玉の光によって、辺りの木の下に大きな影ができた
俺はその影を踏み、スピードを上げながら走り続けた。
速く、速く、速く。
気づけば俺は、とっくに火の玉を避けていた。
「何!?速い!」
驚くサウラーの声を聞き、俺は思わずにやけてしまった。
アンデッドスキル、シャドーダッシュ。
影の上を走っていると、大幅にスピードが上がるスキルだ。
正直使う状況がないと思っていたが、まさかこんなところで役に立つとはな。
俺はそのまま走り続け、パイセリウスの目の前まで来た。
弱っている彼に対し、俺は力強く手を差し伸べ、叫んだ。
「パイセリウスさん!タッチです!」
俺の言葉を聞いたパイセリウスは、ゆっくりとその巨大な手の平を俺のと合わせ、言葉を返した。
「後は頼んだぞ、言語勇者!」
俺は深く頷き、右手に魔力を込めた。
「パワードレイン!」
アンデッドスキル、パワードレイン。
触れている相手の攻撃力を吸収し、自分の攻撃力を一時的に上げるスキル。
つまり、今俺の体にはパイセリウスの力が流れ込んでいる。
溢れんばかりの力。
最強の力。
ドラゴンの力。
俺は震える体を抑え、大きな声で叫んだ。
「ヴェリス!今だ!」
俺がそう言うと、遠くから合意の意を感じた気がした。
それと同時に、辺りに響き渡るヴェリスの声が聞こえた。
「ネイチャーズプリズン!」
彼女がそう言うと、サウラーは自分の置かれた状況を理解したのか、より高く飛ぼうとした。
だが、気づくのが遅かった。
周りの木々どころか、森全体が唸り、伸び上がり、サウラーを貫き拘束した。
「く、クッソ!お前らぁ!よくも!」
ゆっくりと上空から引きずり下ろされるサウラーと、素早く彼と距離を詰める俺。
俺は剣を抜いた。
この一撃に、全てかける。
俺ありったけの力で飛び上がり、剣を振り下ろした。
「これで終わりだぁ!」
振り下ろされた俺の剣は、ドラゴンにも勝る力でサウラーの頭を切り裂いた。
ゆっくりと彼の目から光がなくなるのを見て、俺は戦いが終わったのがわかった。
俺は震える体を地面に座らせ、出来るだけ落ち着かせた。
そして、耳を澄ました。
再び沈黙に包まれた森中に響く、たった一つの音に。
赤ちゃんの泣き声に。
俺は安堵の息をついた。
ドラゴン討伐およびシューリンさんの防衛、完了である。
毎日投稿途切れてしまって申し訳ございません。
お詫びに今日の17時ごろにもう一わ上げるので、お許しください。




