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『言語勇者』 〜 異世界ではペンは剣より強し   作者: 柊 真
第3章:異世界ではドラゴンは想像より強し
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第二十八話:異世界では可能性はゼロよりある

 「貴様らどこへ行っていたんだ?」


 洞窟に戻るなり、パイセリウスがそう問いかける。


 「ああ、すみません。ちょっと取り乱してしまいました。」


 俺がそう言うと、パイセリウスは少し困惑したような顔をしたが、何も言い返さなかった。どうやら納得はしたようだ。


 「すみませんね、シューリンさん。では、回復を再開しますね。」


 「ああ、よろしく頼む。」


 ティーアがシューリンの回復を再び始めると、ユルビンもまた感知魔法を使い始めた。


 「どうなんだ?シューリンさんの傷は?」


 俺がそう問いかけると、ティーアは難しい顔で言葉を返した。


 「そうね…正直私もこんなの見た事ないわ。回復はできると思うけど、大分時間はかかるわ…赤ちゃんの事も配慮しなきゃいけないから尚更ね…」


 「そうか…」


 まあ、そらそうだろうな。

 ドラゴンがドラゴンから受けた傷だ、人間がそう簡単に回復させる事は出来ないはずだ。


 俺がそう納得していると、今度はパイセリウスが口を開けた。


 「しかし、できれば早くしてもらいたい。先程も言ったが我々は追われているんだ。一刻も早く傷が癒えたほうが-」


 突然パイセリウスが言葉を止める。

 みるみる内に青ざめていく彼の顔を見て、俺は嫌な予感しかしなかった。


 「どうしたんです-」


 「奴が近づいている。おいパラディン!回復はまだか!」


 いきなり声を荒げるに驚き、ティーアは慌てて声を返した。


 「い、いえ!まだまだかかると思います…」


 「仕方ない、姉様!このままこの場所から逃げるとしよう。さあ、早く!」


 そう言うとパイセリウスは強引にシューリンの腕を掴み、彼女を一気に引き起こした。


 「あ、ダメですよ!今は-」


 慌ててユルビンはそう言ったが、彼の言葉は遮られた。

 洞窟内に響きわたる、水のような音によって。


 俺は恐る恐るシューリンの足元を見て、恐れていた光景を目の当たりにした。


 「破水…してる…」


 思わず口にしてしまったその言葉は、辺りに重い沈黙を呼び起こした。


 流石にパイセリウスも、言葉も先程の勢いまでを失っていた。


 俺は必死に頭を回した。


 パイセリウスの話から察するに、シューリンの元カレであるサウラーが今この場所に近づいてるらしい。

 完全に逆恨みだが、彼は今だにシューリンを追っている。この状態で彼女に襲いかかったら確実にやばい。

 どうにかしなきゃいけない。だが相手はこの世界で最強の生物のドラゴン。俺達でなんとかできるものなのか…?


 いや、なんとかするしかない。


 彼女が姉さんと同じ運命を辿らないように。


 俺は必死に考えた。

 この状況を打破する方法を。

 シューリンを助ける方法を。


 しばらく考えた後、俺はゆっくりと口を開けた。


 「パイセリウスさん、そのサウラーって奴は強いんですか?」


 俺の突然の問いに驚いたのか、パイセリウスはしばらく口ごもっていたが、やがて言葉を返してくれた。


 「ああ、とてつもなく強い。正直我だけでは対処しきれないほどだ。せめて姉様が戦える体だったらチャンスはあるんだが…」


 その言葉を聞いて、俺は閃いてしまった。

 とてつもなくぶっ飛んだアイデアを。


 俺は高鳴る感情を抑え、さらにパイセリウスに問いかけた。


 「つまり、ドラゴン二体分の力があれば、あいつに勝てるってわけですよね?」


 「まあ、そうなるが、今の状態では我しかいないだろう。」


 彼の返事を聞いて、俺は確信した。

 

 サウラーに勝てる可能性があると。


 俺は意を決して、口を開けた。


 「ユルビン、ヴェリス。君達はこのままシューリンさんといて出産の手助けをしてくれ。ヴェリス。君は俺と外に来てくれ、準備して欲しい物がある。」


 俺がそう言うと、その場の全員が俺に視線を送った。

 ドラゴン達からは疑惑の視線を。

 仲間達からは理解の視線を。


 「わかったわ。ユルビン、引き続き感知魔法を頼むわ。」


 「はい!任せてください!」


 「で、用意して欲しい物とはなんだ?」


 次々と動き出す俺の仲間達を見て、パイセリウスは大きな声で俺に問いかけた。


 「おい、貴様ら何をするつもりだ?」


 彼の問いに対し俺は深く息を吸い込み、ありったけの自信でそれに答えた。


 「決まっているじゃないですか。そのサウラーって奴を倒すんですよ。」


 俺がそう言うと、パイセリウスは血相を変えて俺を掴み、体を揺すりながら叫び始めた。


 「貴様血迷ったか!我でも対処できないと言っただろうが!人間ごときが勝てる相手ではない!」


 まあ、彼がそう思うのは無理も無い。なにせ、普通だったら不可能な話だ。


 だが俺には他の誰にも無い言語の力、そして新たに仲間から得た奇術の力がある。


 だから俺は、揺るがぬ自信でパイセリウスに言葉を投げかけた。


 「わかっていますよ。確かに人間の力では不可能な事です。だけど、ドラゴン二体分の力があれば倒せるかもしれないんですよね?だったら俺に考えがあります。無茶だとは思いますが、少なかれどあいつを倒せる可能性があります。だから俺を信じてください。あなたのお姉さんのためにも。」


 俺がそう言うと、パイセリウスはしばらく黙り込み、苦しそうにしているシューリンの姿に目を配らせてから言葉を返した。


 「…わかった。貴様に賭けてみよう。姉様を救ってみせろ、言語勇者よ!」


 俺は深く頷いた。


 正真正銘のドラゴン討伐、開始である。


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