第二十四話:異世界ではドラゴンは思ったより近くにいる
「なるほど…ありがとうございます。」
「いやいや、せっかく来てくれた冒険者さんだ。これくらいは当たり前ですよ。」
俺は初老の男性に軽く礼をし、ユルビンの方へと戻った。
これで聞き込み十人目、そろそろいい感じに情報が集まった来た。
正直、こんな人気のなさそうな山岳地帯にこんなにも立派な村ががあるのが正直驚きだったが、情報取集が捗るのでよしとしよう。
「あ、マナブ。そちらはどうです?」
ユルビンがそう聞くと俺は軽くため息をつき言葉を返した。
「まあ、大体は皆同じことを言ってるみたいだ。羽の音や唸り声の他にも、複数の人間の声みたいなものも聞こえるみたいだ。これだけではドラゴンと断定出来ないが…そっちはどうだ?」
「こっちも大方同じですかね。何人か大きなドラゴンらしき影を目撃したと言う人もいましたが、いずれも直接ドラゴンを目撃したわけではないので、こちらも断定は難しいですね…」
ユルビンがそう言うと、俺は先程より大きなため息をついた。
俺達が集めた情報をまとめるとこうだ。
最近この村の近くでドラゴンらしき生き物が現れるようになったらしい。
直接的に目撃した人はいないが、この村の住民ほぼすべたがその生物に関するものを目撃している。
そして、その目撃情報はどれも夜での事だった。
だいぶ状況がわかったが、これでは流石にドラゴンかどうか断定するのは難しい。
「これはヴェリスとティーアの活躍に期待するしかないな…」
「呼んだか?」
声の元へと振り返ると、そこには少し難しい顔をしていたヴェリスと、何やらテンションの上がっているティーアがいた。
「うわ!いたのかよ。ビビらせんなよ!で?そっちはどうだった。」
俺が慌ててそう言うと、ヴェリスはゆっくりとその口を開けた。
「まあ、結論から言うとなんらかの巨大生物の痕跡は見つかった。そして、それを見る限りドラゴンだと言う可能性が高い。」
俺は固唾を飲み込んだ。
「それは本当なのか?」
ヴェリスは頷き、話を続けた。
「ああ。この村の周辺を一通り探索したんだが、それらしき痕跡はたくさんあった。巨大な足跡にそれが通ったらしき巨大な獣道。その獣道を辿ると、所々焦げ目がついた草木もあった。これから見るに、この村で噂になっている生物はドラゴンと見て間違い無いだろう。」
俺はゆっくりと息を吸い込み、考えをまとめてから口を開けた。
「さすがレンジャーと言ったところだな。ありがとうヴェリス。ご苦労様。」
「で?これからどうするつもりだ?クエストはもうこれでほぼ完了だが…」
確かにヴェリスの言う通り、これで噂の真偽はわかった。
厳密に言うとクエストのクリア条件は満たしている。
だが、俺は何故かここで終わらせてはいけない気がした。
「いや、まだだ。噂の真偽がわかったとは言え、まだ疑問は残っている。何故こんな辺境の村にドラゴンが現れたのか、その理由がわかるまで村人達も安心しないだろうし、クエスト完了とは言えないだろう。だからこのままドラゴンを追跡し、事の真相を聞き出す。聞いた感じやっぱり人には危害を加えていないみたいだし、話はある程度通じるはずだ。だから、できる範囲でいいから案内してくれるか?」
俺がそう言い終えると、ヴェリスは呆れた笑顔を浮かべ、言葉を返した。
「そう言うと思って、すでにルートは確保してある。安全確認もティーアにさせたし、今すぐにでも出発できるぞ。」
「その通り!私のスキルで周囲の悪意を感じ取ってみたんだけど、見た感じその痕跡もなかったから、多分マナブの言う通り話の通じる善意のあるドラゴンだと思う!私が保証するわ!」
ティーアも割り込んでそう言うと、俺は思わず口角が上がっていくのがわかった。
俺は息を吸い込み、大きな声で言い放った。
「よし!そうとなれば、ちょっくらドラゴン探しに行きますか!」
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「ふむ…ここで痕跡は止まっているみたいだ…」
ヴェリスは歩みを止め、俺たちの方を向いてそう言った。
捜索開始から二時間、俺達はだいぶ村から外れた場所に来ていた。
人影一つないような、山奥の森の中に。
「止まっている?どう言う事だ?」
俺がそう聞くとヴェリスはため息をつき、ゆっくりと言葉を返した。
「何故かここからドラゴンの痕跡が一つもないんだ。まるで突然消えたかのように…」
「多分だけど、ここから飛び立ったんじゃない?人に見つからないように、村から遠く離れたところで。」
ティーアのその言葉を聞いて、俺は考え始めた。
確かに、ティーアの言う通り、ここでドラゴンが飛び立ったと言う可能性は高い。
だがそうだとしたら、そのドラゴンは人目を忍んでいる事になる。
最強の生物であるドラゴンであろう者が何故?
「ファンテンの嗅覚で飛んだ方角を確かめる事は出来ないんですか?」
「う〜ん、無理だとは思わないが…どうだ、ファンテン?」
俺が考えるのをよそに、仲間達は色々と策を練っていた。
ファンテンをも交えたその試行錯誤は終わりそうにもなかった。
しかし、それはいきなり終わることになった。
俺たちの背後に、圧倒的存在感を放つ何かが現れると同時に。
俺達は途轍もない量の固唾を呑み込み、ゆっくりと後ろを見た。
そこには、俺達の何十倍もでかいであろう緑竜の姿があった。
「ここに何の用だ、人間?」
その轟くようなドスの効いた声に、俺たちは思わず固まってしまった。
ドラゴンとの交渉、開始である。




