第二十三話:異世界では噂は思ったより広がる
「さてと、いいクエストねーかな〜?」
俺は仲間達と共にクエスト板を見ていた。
王都から帰ってきて丸二週間。
新しく仲間になったティーアの分まで稼ぐためにも、そろそろ大型クエストに出たいところだ。
「これなんかどうですか?ゴーレムの群れの討伐。人数も増えましたし、いけるんじゃないですか?」
「いいや愚策だな。いくら攻防に長けたティーアが仲間になったとは言え、防御力が極めて高いゴーレムの相手は私達では部が悪すぎる。」
「じゃあこれなんかどうかしら?報酬金もいいわよ!」
こんな感じで、さっきからクエストを見漁っているんだが、なかなか良さそうなのが見つからない。
なんだか少し懐かしい物を感じながら、俺もクエスト板に目を張り巡らせた。
すると、一つの興味深いクエストが目に入って来た。
「なあ、これはどうだ?」
俺は思わずそれを指差してそう言った。
俺の指さす先には、こう書かれていた。
「クエスト:ドラゴン出現の噂の確認
難易度:星9/星10
報酬:金貨1500枚」
その文字を見て、仲間達の顔が青ざめていくのがわかった。
先に沈黙を破ったのはユルビンだった。
「いやいや何考えてるんですか!?ドラゴンですよ!ドラゴン!僕達では勝てっこないですよ!」
確かに、ユルビンの言い分には一理ある。
ドラゴンと言えばゲームでの『最強』の象徴みたいなものだし、おそらくそれはこの世界でも言える事だろう。駆け出し冒険者の俺達には到底倒せる敵ではない。
しかし、俺にはわかっていた。
このクエストは、恐らく俺達にしか受けられない事が。
俺はゆっくりと息を吸い込んでから、ユルビンに言葉を返した。
「いや、よく見ろユルビン。『ドラゴン出現の噂の確認』って書いてあるだろ?詳細によると、最近この辺の山岳地帯でドラゴンが出現するようになったと言う噂があるらしい。このクエストはその噂の真偽を確かめるだけの物なんだ。
「あ、それなら私も聞いた事あるかも。山岳地帯に行って夜寝ようとすると、何かが羽ばたく音と唸り声が聞こえるって他の冒険者が言っていたわ。もしかしてそれがドラゴンなの?」
ティーアの問いに対して、俺は頷き言葉を返した。
「それはわからないけど、それを確認するのがこのクエストみたいだ。」
俺がそう言うと、ティーアはなんだか乗り気だったが、ユルビンとヴェリスはそうでもなかった。
「でも、それでもなんだか不安ですね。仮にドラゴンに出くわしたらどうするつもりですか?さっきも言いましたけど、僕達では勝てっこないですよ。」
「そうだ。それに、噂の真偽がわからないと言うのにやけに難易度が高いのも気になる。本当に受ける気か?」
二人のぐうの音も出ない正論に対して、俺は落ち着いて自分の理屈をぶつけた。
「確かに、二人の言い分はわかる。だけど、多分このクエストは俺達にしか出来ないと思うんだ。考えてみろ。ヴェリスの言う通り、情報取集だけのクエストならこれだけ難易度が高いはずがない。つまり、これはドラゴンと出くわす前提のクエストなんだ。そして、このギルドにはドラゴンに挑めるような冒険者はほとんどいない。となると、このクエストは討伐以外の方法で解決出来るはずなんだ。俺の得意とする『交渉』って言う方法でね。」
「つまり、このクエストはマナブが受ける事を見越してクエスト板に掲示されたと言うのか?」
ヴェリスがそう聞くと、俺は頷き話を続けた。
「ああ、多分な。ザカラヤス王子によると、俺達はだいぶ噂になってるみたいだ。王都での件もあるし、恐らくこのギルド周辺ではだいぶ名が知れるようになっただろう。となると、俺達が受けるって言うのが前提のクエストが出て来てもおかしくないだろ?第一、情報取集も言語に長けている俺がやったほうが捗るだろ?ドラゴンが出て来たら俺が責任を持って交渉する。だから受けてみないか、これ?」
俺がそう言い終えると、今度はユルビンが疑問をぶつけて来た。
「しかし、いくらマナブとは言え、本当にドラゴンと交渉なんてできるんですかね?」
これに対して俺は、思わず微笑んで言葉を返した。
「そこらへんは安心しな!こう見えても俺、デュラハンとヴァンパイアを説得したんだぜ?正直両方とも結構ギリだったけど、今回のドラゴンに関しては聞いた感じ人には害を及ぼしてないみたいだし、比較的楽だと思うよ。案外物分かりのいいやつかもしれないしな!」
自信満々で発したこの言葉は、仲間たちの中の何かを変えたようだった。
「まあ確かに、マナブの実力は僕が一番知ってますし…わかりました!マナブを信じてみます!」
「私は何であれ、皆についていく。他にいく場所があるわけではないからな。だが気性が荒いドラゴンが出て来ても私は知らないぞ?」
「私は最初から賛成よ!万が一の時は私がみんなを守るから!それが聖騎士の役目だからね!」
仲間たちの言葉を聞いて、よりやる気が湧いて来た。
やはり、仲間というものは素晴らしい。
俺は皆の方を向き、大きな声で言った。
「よし!そんじゃあドラゴン探しに行きますか!」
俺達はクエスト申請を済ませ、山岳地帯目指して出発した。
ドラゴン探し、開始である。




