第二十二話:異世界では奇術は剣術より便利
俺達は馬車に荷物を詰め終え、最後に一度だけ、輝く王都を目に焼き付けた。
長かったが、ようやくジュンコウを去る時が来た。
馬車に乗り込む前に、俺は見送りに来てくれた王子に言葉を投げかける。
「すみませんね、王子。やっぱり僕には外交官なんて性に合いません。このまま、冒険者として生かさせてもらいます。」
俺がそう言うと、ザカラヤスはフッと微笑み言葉を返した。
「ええ、わかってますよ。あの時のあなたを見て確信しました。あなたを一つの仕事の押さえつけるのはもったいないと。なのでこのまま、世界中の皆さんを助け続けてください。僕も応援していますよ。」
彼の言葉を聞いて、俺はザカラヤスに手を伸ばした。
「ありがとうございます、王子。お互い頑張りましょう。僕もあの時確信しましたよ、あなたは素晴らしい王になると。」
するとザカラヤスは俺の手を握り、俺と固い握手を交わした。
王子と庶民ではなく、二人の人間が理解しあった瞬間であった。
「マナブ!早くしないと置いていきますよ!」
相棒の声を聞いて、俺はザカラヤスの手を離した。
「では、俺はこれで。」
「はい。バルティーア様の事をよろしくお願いします。」
俺は彼の言葉に頷き、馬車に乗り始めた。
その扉を閉める前に、俺は最後に一言だけ王子に投げかけた。
「ああ、そう言えば、王子が言っていた『言語勇者』って名前。誰が言い始めたかは知りませんが、結構気に入りました。これからそう名乗らせてもらいます。」
そう言い、俺は馬車の扉を閉めた。
去り際の王子の顔を見ずとも、俺は彼が笑っているのがわかった。
やがて、彼の顔も、きらびやかな街が見えない所まで馬車は進んだ。
俺、言語勇者堂本学は、王都ジュンコウを後にした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
三日間の旅を経て、俺達はギルドに戻っていた。
ギルドのみんなも最初は俺達の旅の話に興味津々だったが、一日もすればすっかり元の生活に戻っていった。
俺達はやっといつもの日常に戻れたんだ。
一つの新要素を連れて。
「しかし本当にいい所でしたね、王都は!」
「本当にそれよ。王子も結構人がよくて助かったわ!」
俺は相棒と会話を弾ませていた。
久しぶりのギルドでのたわいもない会話。
こう言うのもやはりいいな。
「そう言えば、マナブあてに新しく王子からの手紙が来たんですよね?」
「ああ、俺たちへのお礼でね。本当に仕事が早い王子だぜ。」
俺はポケットからザカラヤスの手紙を取り出し、それを読み上げた。
「拝啓ドウモトマナブ様。この度は僕の命さえも救ってくださり、誠にありがとうございます。外交官の件はこちらからすれば大変残念な事ですが、それがあなたの為ではないと僕は気づかされました。これからも言語勇者ドウモトマナブの活躍を期待しております。ソンヴォン王国第一王子、ザカラヤス・ソンヴォンより。」
手紙の本文を読み上げると俺クスリと笑い、次の一文を読み上げた。
「追伸。バルティーア様の呪いを解いた方法は決して誰にも言わないでください。妹達にバレたら何を言われるのかわからないので。どうか、内密によろしくお願いします。」
俺は読み終えた手紙をポケットに戻し、相棒の顔を見た。
その顔は明らかに笑いをこらえてる顔だった。
正直、俺も笑いをこらえるのに必死だった。
「ま、まあ、王子も大変みたいだな。」
「そ、そうですね。なにせ、姫達は大変ヤンチャだと聞きますし…」
お互いに笑いをこらえながら、俺たちは言葉を投げ合った。
しかし、それはすぐに遮られてしまった。
「キャーーー!!!」
突然ギルドに響き渡る女性の悲鳴。
それと同時に、ギルドの奥からバルティーアがこちらに駆け寄ってきた。
「ちょっと!マナブ!ユルビン!聞いてよ!」
彼女は目に涙を浮かばせ、俺たちに訴えかけてきた。
俺は慌てて口を開けた。
「ど、どうしたんだ!?ヴェリスとギルドの入会手続きをしてたんじゃないのか?」
俺がそう問いかけると、彼女の後ろから呆れた顔をしたヴェリスが現れ、言葉を返した。
「そうなんだが、いきなりこいつが騒ぎ立ててな。」
「どうしたんですか?なりたかった職業にでもなれなかったんですか?」
ユルビンがそう問いかけると、バルティーアは鬼の形相で言葉を返した!
「違うわよ!ちゃんとパラディンにはなれたけど、それが問題なのよ!私何故かアンデッドのスキルが使えるようになっちゃたのよ!」
そう言うと、彼女はその場で泣き崩れた。
今になって改めて思うが、やはり彼女があのデュラハンだったとはとても思えない。
「つまり、スキル確認の時にデュラハンだった時のスキルが使えるって事がわかったんですよね?」
ユルビンがそう聞くと、彼女は弱く頷いた。
それを見て、俺は思わず浮かんでいた疑問を口にしてしまった。
「でも、それっていい事じゃないのか?アンデッドのスキルなんて普通習得できないし、むしろ戦力アップだと俺は思うんだが…」
俺がそう言い終えると、彼女は俺の胸ぐらを掴み、俺を前後に揺らしながら叫び始めた。
「いい事なわけないでしょ!私は聖騎士なのよ!?神様からの加護を授かった正義の味方よ!?それなのに宿敵のアンデッドのスキルが使えるなんて…ああ!今すぐにでも忘れてしまいたい!!!」
彼女の涙はより一層勢いを強め、彼女の顔を蝕んでいった。
確かに、これで彼女がこんなにもショックを受けている理由がわかった。
しかし、俺の知っている限り、スキルは一度覚えたら忘れる事は出来ない。
つまり、彼女は一生アンデッドのスキルを覚えたままだと言う事だ。
何も出来ないように見えるが、俺にはある一つの考えが浮かんでいた。
俺はゆっくりと息を吸い込んでから、それを彼女に提案した。
「それならさ、そのスキルを教えてくれないか?」
「へ?」
バルティーアが俺を見上げる。
「いやさ、俺ってファイターじゃん?いろんなスキルを覚えやすい職業だし、能力値も平均的だから色々と融通が利く。俺がそのスキルを覚えれば、バルティーアはそれを使わなくて済むしパーティ全体の戦力はアップする。一石二鳥ってやつだ。どうだ?」
俺がそう言い終えると、バルティーアは涙を吹きはらい、立ち上がってからその口を開けた。
「マナブはそれでいいの?」
俺は笑顔で言葉を返した。
「もちろん!それで少しもバルティーアの気が休まるなら、喜んでそうするよ。」
するとバルティーアは笑い、俺のかたに手を置いた。
「わかったわ。じゃあ早速教えるわね!」
俺は微笑み、もう一つだけ提案をした。
「おう!あと、これは俺の個人的な提案なんだが、バルティーアって名前、ちょっと厳ついし呼びづらいよな?デュラハンだった時との決別の意味も込めて、バルティーアじゃなくて『ティーア』って呼んでいいか?」
すると、バルティーアの頬は一気に赤くなった。
「その呼び方…マクスウェルと同じ…」
彼女がそう言うと、俺も一気に顔が赤くなった。
「あ、いや、そうだったのか!?悪い、じゃあやめようか…」
「いや、別にいいわ…」
「へ?」
沈黙が俺達を包む。
なんだかんだで俺は、アンデッドスキル一式を習得した。




