第二十一話:異世界では四人は三人より強し
俺はジュンコウ城内の墓地にいた。
立派なお墓の前で、膝をついて拝んでいる女性を眺めながら。
その清らかな表情を見て、とても彼女が先ほどまで戦っていたデュラハンだとは思えなかった。
俺は意を決して、彼女の方へと歩んだ。
「お隣、いいですか?」
俺の言葉を聞いて彼女は少し驚き俺に問いかけた。
「あなたは…何でここに?」
俺は優しく微笑み、彼女の問いに答えた。
「ここで眠っているマクスウェル王のお陰であなたにかけられた呪いを解く事ができたので、きちんとお礼をしようかと思いまして。」
そう言い終えると、俺は彼女と同じように地面に膝をつけ、手を合わせ、マクスウェル王の墓を拝んだ。
ありったけの感謝の念を込めて。
「それって…どう言う事?」
彼女の問いを聞き、俺は彼女の方を向き言葉を返した。
「あなたとマクスウェル王の伝説が描かれたタペストリーには、マクスウェル王があなたの背中を押してモンスターとの戦いへ向かう場面の絵があったんですが、あれって本当はあなたの背中を押しているのではなく、あなたを引き止めようとしていたんですよね?それも恋人らしく、腰に手を回して。それで閃いたんですよ。もしかしたら…ってね。」
俺の答えを聞いてから、バルティーアは少し暗い顔をし、数秒黙り込んでからその口を開けた。
「ええ、そうよ。あの時私は、とにかくマクスウェルを守るのに必死で目の前が見えてなかったの。マクスウェルはずっと避難しようって言ってたのに…それでも彼は、私と一緒に戦場に来てくれた。でも案の定まけちゃって、危うく彼に呪いがかかりそうになって、色々とダメだったんだけどね。私が身代わりになったのも、その償いを込めての行動だったの。」
震える彼女の唇からは、何百年前の真実の物語が語られていた。
その言葉の隅々からは、後悔が感じられた。
しかし、彼女は話を続けた。
「『首が切り落とされてもなお貴様が最も愛してる人間と唇を交わす』。それが本当の呪いを解く条件だったの。でも薄れゆく意識の中で、私はそれが不可能に近いってわかったの。だって私の彼への愛は、みるみる内に憎しみに変わっていくのがわかったから…モンスターは愛を感じる事が出来ないって言うけど、私はそれを身を持って知ってしまった…そのせいでいろんな人に迷惑をかけてしまった…本当に、ごめんなさい…」
彼女は、溢れんばかりの涙をこらえながら真実の物語を語り終えた。
彼女のそんな様子を見て、俺は黙ってなんていられなかった。
「バルティーアさん、あなたの愛はちゃんと残っていましたよ。」
俺の言葉を聞いて、バルティーアはゆっくりと俺の方を向いた。
俺はそのまま続けた。
「あなたはザカラヤス王子に対して、『大切な人間一人守れない者に、そんな事を言う資格はない』と言いました。確かにこれは憎しみに溢れた言葉ですが、これこそがあなたの愛の証拠です。なにせ、あなたはマクスウェル王がまだ自分を『大切な人間』だと思っている事を信じていたからです。何より、あなたにかけられた呪いはザカラヤス王子とキスする事で解かれました。いくらマクスウェル王と勘違いしていたとは言え、これは相当の愛がないと不可能な事です。あなたは本気でザカラヤス王子がマクスウェル王だと信じ、そのままあなたが最も愛する者と唇を交わした。あなた達の愛は、呪いに勝ったんですよ。」
俺がそう言い終えると、彼女の涙は一気に溢れた。
優しい笑みと共に。
彼女を押さえつけていた何かがなくなったのがわかった。
しばらくの沈黙の後、やがて彼女はその口を開けた。
「ありがとう。そう言われるだけでも、だいぶ救われるわ…」
「いえいえ、俺はただ事実を言っただけです。」
俺がそう言い返したら、彼女は思いがけない事を言い始めた。
「それにしても、よくそれだけで呪いの解き方がわかったわね。」
俺は眉をひそめた。
確かに普通に考えればそうなってしまう。
だが、俺には理由があった。
まだ誰にも言えないような理由が。
俺は深く息を吸い込み、言葉を返した。
「ま、まあ、俺もそう言う場面を何度か見ているので…」
「そうなの?」
「は、はい。昔の話ですけどね…」
俺がそう言うとバルティーアは少し暗い顔をし、俯いて話し始めた。
「昔…ね。あなたから見れば、私は何百年も昔の人間なのよね?友達も、家族も、愛した人も、もうここにはいない…私これからどうすればいいんだろう…」
彼女のその言葉を聞いて、俺は立ち上がり改めて彼女の方を向いた。
「バルティーアさん、これは僕からの提案なんですが、よければ俺のパーティに入りませんか?」
俺がそう言うと、彼女は驚いた表情でこちらを見上げた。
「い、いいの?」
俺は満面の笑みで言葉を返した。
「はい、もちろん!ちょうど俺達もパラディンを探していた所なので。まだまだ底辺パーティですが、俺達で良ければ歓迎しますよ。」
俺がそう言い終えると彼女は立ち上がり、俺に手を差し伸べた。
「じゃあ、よろしくお願いするわ…そう言えば、まだお名前聞いていなかったわね。」
彼女がそう言うと、俺は彼女の手を取り言葉を返した。
「ドウモトマナブ。マナブでいいですよ。」
すると彼女は少し照れながら話し始めた。
「じゃあ私もバルティーアでいいわ。あと、敬語はやめてくれないかしら?なんだか年寄り扱いされてるみたいで、ちょっと嫌だから…」
俺は少し笑い、彼女の条件を呑み、彼女と固い握手を交わした。
「じゃあこちらこそよろしくな、バルティーア!」
「うん!」
俺、堂本学の三人目の仲間、バルティーア・ユリエがパーティに加わった。




