第二十話:思いは呪いより強い
「ハハハ!さあ、言い残す事はないか?愚かなる王よ!」
バルティーアはより一層手に力を込め、ザカラヤスを更に高く持ち上げた。
ザカラヤスも必死にもがいていたが、まるで抜け出せそうにもない。
ああ、俺はなんてことをしてしまったんだ。
このままでは、俺のせいでザカラヤスが死んでしまう。
何の罪もない、ただ孤独からの脱出を求めていたザカラヤスが。
俺は考えることもできず、ただ絶望に暮れていた。
何故だ?
何故呪いは解けなかったんだ?
あの方法で解けるはずだったなのに…もしかして、そもそもの情報が間違っていたのか?
何百年もの前の伝説だ、どこかで多少話が間違って伝わっててもおかしくはない。
だとしたら、もはや打つ手が無い。正確な呪いを解く条件を知っていなければ、その隙をつくのは不可能だ。今の俺には、出来る事がまるでない。
ただ、絶望の中で壊れていくしか。
だがザカラヤスは違った。
彼はバルティーアに掴まれてなお、自分の剣を震える手で握っていた。
ゆっくりと剣をあげ、それをバルティーアの鎧に突き立てて、彼は大きな声で叫んだ。
「僕をナメるな!僕はいずれ、民を導く王となる人間…お前なんかには負けてはいられない!」
そう言うとザカラヤスはありったけの力を足に込め、自分をバルティーアから引き離そうとした。
一見無駄に見えるこの行動だったが、彼の熱い思いに応えるもの達がいた。
「ティンダー!」
「ス、スナイプ…!」
俺の後ろから、火の玉と一本の矢が飛んでくる。
それらはバルティーアによりいとも容易く弾かれたが、その際にバルティーアは一瞬だけバランスを崩した。
その隙を見逃さず、ザカラヤスは一気に足の力を強くし、勢いよくバルティーアから飛び離れた。
転げ落ちながらも、彼は何とか立ち上がり剣を改めてバルティーアに向けた。
バルティーアもまた自分の大剣を手に取り、ザカラヤスに向けた。
「まだ抗うか、勝ち目など存在せぬのに…本当に愚かな王だな!」
バルティーアのその言葉に、ザカラヤスは勢いよく言葉を投げ返した。」
「うるさい!僕は王族に生まれた人間だ!好きでそう生まれた訳では無いが、そう生まれた以上は、その役割を全うするつもりだ!」
彼のその言葉のおかげで、俺は一気に目が覚めた気がした。
俺は一体何をしていたんだ?
一国の王子が。
俺を信じてくれた相棒が。
あんなにも弱っている仲間が。
こうして諦めずに抗っている。
俺だけ絶望なんかに暮れているわけにはいかない。
俺は剣を握り、ザカラヤスの方へと走り始めた。
「役割を全うする?笑わせるな!大切な人間一人を守れない者が、そんな事を言う資格はない!それでも役割を全うしたいと言うなら、このまま大人しく死ぬがいい!」
そう言うとバルティーアは物凄いスピードでザカラヤスとの距離を縮め、大剣を振り下ろした。
ザカラヤスももちろん、自身の剣で防御する。
鳴り響く金属音。
ぶつかりあう思い。
揺るがぬ覚悟。
交わる三本の剣。
俺はザカラヤスの横に立ち、彼と共にバルティーアの攻撃を食い止めていた。
俺は必死に腕に力を込めながら、ザカラヤスに言葉をかけた。
「ありがとうございます、王子。あなたのおかげで覚悟が決まりました。」
俺の言葉を聞き、ザカラヤスは少し微笑み、言葉を返した。
「それは何よりです。民を勇気付けるのも、王の役目ですから!」
彼の言葉を聞いて、俺は改めて確信した。
彼は素晴らしい王になる。
その未来を潰さない為にも、ここで何とかするしかない。
このままいけばいくら二人がかりだとは言え、いつかパワー負けしてしまう。バルティーアの攻撃も勢いを弱まる素ぶりがないし、シンキングタイムは少ない。早く何か呪いを解く方法を思いつかなくては。
俺は必死に記憶を辿った。
いくら間違って伝わったとしても、呪いを解くヒントは必ず伝説の中にあるはずだ。
考えろ、何かを見落としているはずだ。
首を交わすだけならヴェリスの思いついた方法で呪いは解けたはずだが、何故かダメだった。と言うことは、何かが足りないのか?語り継がれると同時に失われていった、大切な何かが…
ん?大切?
俺はあることに気がついた。
バルティーアは確かさっきザカラヤスに『大切な人間一人守れない者に、そんな事を言う資格はない』と言った。そしてバルティーアはザカラヤスをマクスウェル王と勘違いしている。それを踏まえて考えると、あのタペストリーに描かれているのは…まさか…!
そして俺は閃いた。
一つのとんでもない可能性を。
迷ってる暇はない。
俺は声を荒げ、仲間達に呼びかけた。
「ユルビン!ヴェリス!あともう一踏ん張り頼む!一瞬でもいいからこいつの動きを止めてくれ!」
俺の言葉を聞いて、バルティーアは体制を変えようとしたが、時すでに遅し。
「バインド!」
「ネイチャーズトラップ!」
半透明の鎖と、分厚い蔓がバルティーアを拘束する。
俺はすかさずバルティーアの頭をその手から奪いあげ、兜の下半分を取り外してからザカラヤスの方へと振り向き、左手を彼の肩に置いた。
「もう一回だけ、顔借りますよ王子!」
俺はそう叫び、バルティーアの顔を一気にザカラヤスの顔に近づけた。
そして、二人の唇をくっつかせた。
その瞬間、バルティーアの体は淡く光り始めた。
俺が持っていた頭も淡い光を放ちながら、体の方へとゆっくり浮遊していった。
やがて頭と体はくっつき、一つとなった騎士の体はより強く光始めた。
「ちょっとドウモトさん!どう言う事ですか!?何が起こってるんです!?」
俺は思わず尻餅をつき、安堵の息を漏らしてから、ザカラヤスの問いに答えた。
「俺たちは、最初から勘違いしていたんですよ。マクスウェル王とバルティーアの関係は主従でも親友でもなかったんです。あの二人は…」
その瞬間、中庭が眩い光に包まれた。
その光はどこか暖かく、懐かしい物を感じさせるような光だった。
光が治ると目の前に立っていたのは、白銀の鎧に身を包んだ美しいホワイトヘアーの女性だった。
「…恋人だったんですよ。」
俺がそう言い終えると、女性はこちらの存在に気づき、ゆっくりと問いかけた。
「こ、ここはどこ?あなた達は誰なの?」
俺はやしく微笑み、彼女に言葉を返した。
「おかえり、バルティーアさん。」
ザカラヤス王子の護衛完了である。




