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『言語勇者』 〜 異世界ではペンは剣より強し   作者: 柊 真
第2章:異世界ではパーティは個人より強し
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第十九話:異世界では呪いは思ったより厄介

 俺は剣を構え、バルティーア目掛けて走り始めた。

 バルティーアもまた、同じように俺目掛けて走り始めた。

 

 しかし、俺は何も戦うつもりはなかった。


 俺は左手に魔力を込め、バルティーアとすれ違う寸前にそれを解き放った。


 「フラッシュ!」


 瞬間、中庭が眩い光に包まれる。

 バルティーアがそれに怯んでいる隙に、俺はユルビンの手を掴み、ヴェリスの元へと向かった。光が収まった頃には、俺達三人は石のオブジェの後ろに隠れていた。


 「貴様!どこへ行きやがった!」


 どうやらバルティーアはこちらを探しているようだ。ひとまず、ザカラヤスの所に行かれる心配はなさそうだ。


 俺が安心していると、横からユルビンが話しかけてきた。


 「ちょっとマナブ!どういうことですか!?あのモンスターを仲間にするなんて!?って言うより、あのモンスターと面識があったんですか!?」


 慌てた相棒の言葉を聞いて、俺はゆっくりと言葉を返した。


 「ああ、俺が初めてギルドに足を踏み入れた時に突然現れたやつでな。その時は俺がなんとか説得して追い返したんだが、今回はそうはいかないみたいだ。あいつの目的は、王族の人間。つまり、まだ避難が済んでいないザカラヤス王子だ。」


 「それはわかるんですが、なんで仲間にするなんて言ったんですか!?」


 俺はゆっくりと息を吸い込んでから、言葉を返した。


 「いいかユルビン、今から俺の言う事を落ち着いて聞け。ヴェリスもだ。あいつはソンヴォン王国に伝わる伝説に登場する近衛兵、バルティーア・ユリエの成れの果てだ。あいつは何百年も前に呪いをかけられ、デュラハンへとその姿を変えた。つまり、その呪いを解くことができればあいつは人間に戻り、事なきを得るはずだ。」


 「そんな事ができるんですか?」


 「ああ、できるさ。なにせ、俺も一度呪いをかけられた身だからな。解き方ならわかっている。」


 これには流石に驚いたようで、ユルビンはバルティーアに聞こえるかギリギリの音量で言葉を返してきた。


 「嘘でしょう!?いつの話ですかそれ!?」


 俺は慌ててユルビンの口を塞いだ。


 「シーっ!聞こえちゃうだろ!」


 「ふひはへん…」


 俺はため息をついた。


 「お前とヴェリスがパーティーに入る前だよ。ほら、俺がヴァンパイア討伐したってお前も知ってるだろ?あの時、俺はヴァンパイアに呪いをかけられたんだ。もしあの呪いを解いていなければ、俺は今頃ヴァンパイアになってる所だ。」


 「そうですか…でも、どうやって呪いを解いたんですか?」


 「ユルビンとヴェリスも魔法に長けているから知っているとは思うが、呪いはかける時、必ずそれを解く条件をつけなければいけないんだ。それを無理難題にする事もできるが、強いモンスターは余裕ぶって少し条件をゆるくする事もある。あの時俺にかけられた呪い解く条件は、『純粋無垢な乙女の首根っこに噛みつき、その血肉を啜る』事だったんだ。」


 俺のその言葉を聞いて、ユルビンとヴェリスが青ざめていくのがわかった。


 「マナブ…まさか…ギルドの女性達を…」


 「見損なったぞ、マナブ…」


 「バカ!そんな事してねーよ!俺がそんな事すると思うか!?」


 「じゃあどうやって呪いを解いたんですか?」


 俺はため息をついてから、説明し始めた。


 「いいか、さっき俺が呪いを解く条件を言った時、一度も『人間の』とは言わなかっただろ?そこがポイントなんだ。呪いは強力な力が使える分、解く条件などの言葉遣いに気をつけなきゃいけないんだ。でなければ、予想もつかない方法で呪いが解かれるかもしれないからな。俺の場合、雌豚の丸焼きを食べたら、呪いを解く事が出来た。」


 「つまり、同じ要領でバルティーア様にかけられた呪いを解く事ができると言う事ですか!」


 さすがユルビン、物分かりが早い。俺は頷き、言葉を返した。


 「ああ、そう言う事だ。確かバルティーアにかけられた呪いを解く条件は、『自身がもっとも信頼する者の首を手に取り、自身の首と交わす』事…パッと見隙はなさそうだが、必ずどこかに別の方法を見つけるヒントがあるはずだ…」



 「う〜ん…どうしたものですかね…」


 「首を交わすだけでいいなら、やつの動きを止めてから、やつの仇とやらをすれ違わせればいいんじゃないか?」


 ヴェリスのその提案を聞いて、俺は考え始めた。


 確かに、どこにも『首を切り落として』とは言われていない以上、ヴェリスの言うやり方で呪いは解けるはずだ。しかし、『首を手に取り』と言われているため、仮に動きを止めたとしても、誰かの首をあいつに委ねる必要がある。それはあまりにもリスクが高すぎる。何より、あいつの仇であるマクスウェル王はとうの昔に死んでいる。


 残念だが、この方法では呪いを解くことはできなさそうだ。何か別の方法を考えなければ…


 しかし、俺に考える時間も与えず、それは起きてしまった。


 「そこまでだ、モンスター!この僕が相手だ!」


 俺はその声に聞き覚えがあった。

 気高くありながら、優しさに満ち溢れた声。

 ザカラヤス王子の声。


 何故?


 何故避難しなかったのか。

 何故ここに戻ってきたのか。

 何故モンスターと戦おうとしていたのか。

 


 答えが見つからない疑問が、俺の頭の中を駆け巡る。


 焦っている俺を気にもせず、バルティーアはその口を開けた。


 「ほう…ようやく姿を現したか、マクスウェル!」


 その言葉を聞いて、俺の考えは一気にまとまった。

 一つの可能性を示して。


 俺は隠れていた石のオブジェの後ろから飛び出し、バルティーアの方へと走り始めた。

 彼はすでに、ザカラヤスと剣を交えていた。

 俺は足を早め、後ろから攻撃を仕掛けた。


 「喰らえ!」


 しかし、俺の剣は、ザカラヤスの物とともに弾かれてしまった。

 だが、俺は最初から攻撃を当てる気などなかった。


 「ユルビン!」


 俺の合図と共に、ユルビンがオブジェの後ろから飛び出す。

 

 「わかっています!」


 ユルビンは右手に魔力を込め、それを前へと突き出した。


 「バインド!」


 瞬間、ユルビンの手から飛び出した半透明の鎖がバルティーアを拘束する。

 すかさず俺はバルティーアの手を掴み、ザカラヤスの頭の上に置いた。


 「ちょっと顔借りますよ、王子!」


 俺の言葉を聞いてザカラヤスは戸惑っていたようだが、正直俺にとってそれはどうでもよかった。


 バルティーアは、ザカラヤスを自分の仇であるマクスウェル王と勘違いしている。

 つまり彼の中では、ザカラヤスが『自身がもっとも信頼する者』。

 ならば、ヴェリスの考えた方法で、呪いは解ける。


 俺はザカラヤスの顔とバルティーアの顔を素早くすれ違わせた。


 これで呪いが解ける。


 「小癪なぁ!」


 はずだった。


 凄まじい力でバルティーアは鎖を破り、その勢いで俺を吹っ飛ばした。

 そして、ザカラヤスの頭をガッチリと掴み、片手で持ち上げ、高笑いをした。


 「ハーッハッハ!これでやっと、我の念願が叶う!残念だったなマクスウェル!そして冒険者よ!」


 俺は自身の行動を激しく後悔した。


 そうする事しかできなかった。


  


   

   

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