第十八話:異世界では自信は恐怖より強い
「どう言う事ですか!?」
ザカラヤスは慌てて駆け込んだ兵士にそう聞いた。
まあ無理もない、正直俺も同じ事を聞きたい所だ。
すると、兵士は物凄い早口、現状を説明し始めた。
「正門からいきなり、人型のモンスターが現れまして、すぐに我々で対処しようとしたのですが、そのモンスターはとてつもなく強く、我々では歯が立ちませんでした。モンスターはそのまま城内へと侵攻を進め、こちらへと向かっています!重傷者は多数いますが、今は王子の身の安全が優先です!既に王と姫達は城外へ避難しました!なので王子も早く!モンスターは今冒険者達が食い止めているので、今のうちに!」
「しかし-」
ザカラヤスが返事をする前に、俺は二人の間に割って入り、兵士に問いかけた。
「冒険者って、ユルビンとヴェリスの事か!?」
「は、はい。今、中庭で交戦中です。」
兵士がそう言い終えると、俺は中庭目掛けて走り出した。
去り際に、俺はザカラヤスに言葉を投げかけた。
「王子!ここは俺達に任せてください!王子は早く安全な場所へ!」
そう言い残し、俺は足を早めた。
ザカラヤスも何か言った気がしたが、今はどうでもよかった。
今はとにかく、仲間達の元へ行かなくては。
王都の兵士が倒せなかった敵を、あの二人だけで倒せるのか?
もしかすると、もう既に…
いや、そんなはずがない。あの二人に限って、そんなはずがない。
俺はさらに足を早め、中庭へと向かった。仲間達の無事を祈りながら。
城内を丸ごと駆け回った気分になった後、俺はようやく中庭についた。
中庭に着くなり、こちらに駆け寄ってくる相棒の姿が見えた。
「マナブ!遅いですよ」
俺は安堵の息をついた。
「ユルビン!無事だったか!」
「はい!先に戦っていた兵士達も、僕が回復させたので無事です!意識は戻っていませんが、命に別状はないはずです!」
「そうか…ヴェリスは?」
「こっちだ。」
声の元へと振り向くと、そこにはくるしそうに手を合わせているヴェリスがいた。
「ヴェリス!大丈夫か!?」
ヴェリスは軽く苦笑をしてから、こちらを向き口を開けた。
「ああ、今モンスターをネイチャーズプリズンで拘束しているんだが、正直そろそろキツくなってきた…」
ヴェリスの少し前を見ると、そこには蔓状の植物に完全に覆われた何かがいた。
これが、王都へ攻め込んできたモンスター。
俺は剣を抜き、戦闘態勢に入った。
「どうしましょうか、マナブ?」
相棒の問いかけに、俺はゆっくりと答えた。
「今はとにかく、王子が避難するまでの時間稼ぎをする必要がある。何もこいつを倒す必要はない、とにかく足止めができればいいんだ。だから、ヴェリスにはこのままできるだけ長くネイチャーズプリズンを使い続けてもらう。限界がきたら、拘束を解いて俺が話しかけてみる。説得に失敗したら、そのまま戦闘に入るしかない。部の悪い戦いだが、こうなったらやるしかない。」
俺がそう説明すると、ユルビンとヴェリスは頷き、言葉を返した。
「わかりました。王族の人間を守るためでしたら、やるしかないですよね!」
「了解した。私ももう少し踏ん張ってみる!」
仲間達の言葉を聞いて、俺は軽く微笑んだ。
やはり、仲間とは素晴らしいものだ。
しかし、喜んでいる暇はなかった。
ネイチャーズプリズンに囚われていたモンスターが、何やら震え始め、紫色に光り出した。
その途端、ヴェリスの顔色が変わった。
「な、なんだ!?急に力が強く…!こ、このままでは…!」
次の瞬間、中庭は紫色の光と物凄い爆発音に包まれた。
目を開けると、そこには吹っ飛ばされたヴェリスと、見覚えのあるモンスターの姿があった。
漆黒の鎧に、淡く光る大剣。そして何より、自身の手に持った頭と首元から上がるどす黒い煙。
俺の目の前には、あの時のデュラハンがいた。
あの時と同じ疑問が、頭の中を駆け巡る。
なぜ、デュラハンがここに?
しかし、俺はその疑問をまるで気にかけていなかった。
なぜなら、俺は全く別のことしか考えられなかったからだ。
頭の中で、何かが繋がった。
点が線になった瞬間である。
俺はゆっくりと、デュラハンの方へと歩み始めた。
「はあ〜…小癪な…まさかここでエルフに出くわすとはな、我もついていないものだ。」
相変わらず背筋を凍らせるその声を聞き、俺は改めて覚悟を決めた。
そして、ゆっくりと口を開けた。
「久しぶりだな、デュラハン。」
俺の声を聞いたデュラハンは、こちらへと振り向き、俺と目を合わせた。
「ほう、あの時の人間か。ふん、これもまた、運命というものか…言っておくが、あの時のようにはいかぬぞ。」
「ああ、わかっている。こっちも無理に説得するつもりは無い。」
「ならば話は早い。そこを通せ、わが仇が待っている。」
俺は鋭く息を吸い込み、言葉を返した。
「悪いが、それはできない。」
数秒の凍てつくような沈黙の後、デュラハンは大剣を構えた。
「ならば、わかっているな?」
俺も、同じように剣を構えた。
「ああ、もちろん。言葉が無理なら、剣で語るしか無い。」
「ほほう、お前のような度胸のある男は久しぶりだ。その度胸に敬意を表して、全力で行くとしよう。」
俺は改めて一つ息を吸い、デュラハンに問いかけた。
「最後に一つだけ、聞いてもいいか?」
「ん?なんだ?」
「お前の名前はなんだ?」
すると、デュラハンは少し黙り込んでから、いきなり大声で笑い始めた。
「ハハハ!名前などとうの昔に捨てたわ!主に裏切られ、この国から追放された瞬間にな!」
俺は、確信した。
そして、笑みを浮かべ、大きな声で宣言した。
「決めたぜデュラハン、いや、バルティーア!俺はお前にかけられた呪いを解き、お前を俺の三人目の仲間にする!」
謎の自信に満ち溢れた俺の頭には、一つの考えしかなかった。
この人を、絶対に救い出す。
だだ、それだけだった。




