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『言語勇者』 〜 異世界ではペンは剣より強し   作者: 柊 真
第2章:異世界ではパーティは個人より強し
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第十六話:異世界では王子は想像より接しやすい

 「ただいま到着いたしました。」


 馬車の運転手はそう言うと、馬車をゆっくりと止めた。俺達は三日の長旅を経て、ソンヴォン王国の王都、ジュンコウにやってきた。そこはテイルシンとは比べ物にならないほど、豪華できらびやかな街だった。至る所に金の装飾が施されており、見ているだけでも目がくらみそうだった。


 俺達が馬車から降りるや否や、黒いスーツ姿の男性が声をかけて来た。


 「ドウモトマナブ様とその御一行ですね?ようこそジュンコウへ。さあ、こちらへ。王子がお待ちです。」


 そう言うと彼はサッと振り向き、視界の奥にそびえ立つ城へと歩き始めた。


 俺達は顔を合わせ、少し戸惑いながらも彼の後をついて行った。


 「しっかし、すげー所だな、王都って。」


 「そうですね!噂には聞いていましたが、こんなにも綺麗な所だったなんて…」


 「こう言う場所は私も初めてだ。モリシアの都市もだいぶでかいとは思っていたが、ここまでのものは見た事がない…」


 初めての経験に会話が弾む俺達だったが、やはり脳裏にちらつくのは同じ疑問だった。


 「そう考えると、やっぱりおかしいよな。俺達がここにいるのって。」


 そう、なぜ俺達が王子に呼び出されたのか未だにわからなかった。この豪華な街並みは、俺達三人にはあまりにも不釣り合いだった。歩けば歩くほど、疑惑が強くなって行った。それはおそらく、ユルビンもヴェリスも同じだった。


 そんな俺達の不安をかき消すかのように、スーツ姿の男性は歩みを止め、俺達の方へと振り向き口を開けた。


 「ご安心ください。王子はあなた方に会うのを心待ちにしていますよ。私の言葉を信じられないのであれば、直接王子聞いてください。もう目の前ですよ?」


 俺は目の前にそびえ立つ大きな城を見上げた。金色に塗れた街の中心で輝く、眩い銀色の城。あのヴァンパイアがいた城とは大違いだ。この城の中に、俺達を呼び出した王子様がいる。俺は固唾を飲み込み、その門をくぐった。


 城の中もさぞかし綺麗だったのだろうが、俺の目にはまるで写っていなかった。尋常じゃない緊張感が俺に押し寄せて来た。理由は何であれ、俺は今からこの国の王子と面会する。この世界のルールなんて知らない一般市民の俺が、この国をいずれ統べる王子と。果たして上手く振る舞えるのだろうか?そんな事で頭がいっぱいになっていると、俺達は大広間へと案内された。そして、部屋の真ん中に立っている青年と目を合わせた。


 紅色のズボンと輝くような蒼いローブに身を包めた彼からは、妙なオーラが感じられた。威厳にも近いそれは、権力者特有の物なのだろう。間違いなく、彼が俺達をここに呼んだソンヴォン王国第一王子、ザカラヤスだった。


 彼は優しく微笑むと、体を優しく包み込むような声で喋り始めた。


 「ドウモトマナブ、ユルビン・ファリンクス、ヴェリス・ヴェニラ、この度はようこそおいでくださいました。僕がソンヴォン王国第一王子、ザカラヤス・ソンヴォンです。以後、お見知り置きを。」


 彼の声を聞いて、不思議と俺を圧迫していた緊張感がふわりと消えた。身分の差を感じさせない彼の立ち振る舞いに、気が楽になったのだろう。彼が何故この国のトップにいるのか、少しわかった気がした。


 俺は息を整え、ゆっくりと口を開けた。


 「こ、こちらこそよろしくお願いします。この度は、王都に読んでいただけた事、大変光栄に思っています。」


 ザカラヤスは軽く笑い、言葉を返した。


 「そんなに固くならくてもいいですよ。あなた方はゲストとしてここに呼んだのですから。僕とはもう少し気軽に接してください。」


 「そ、そうですか。ではお言葉に甘えて…早速、聞かせてもらいます。何故、俺達を王都に読んだんですか?」


 俺がそう聞くと、大広間は一瞬沈黙に包まれた。何かやばい事でも言ったのかと思っていると、ザカラヤスが喋り始めた。


 「そうですね、早速本題と行きましょうか。先程言った通り、僕はソンヴォン王国の第一王子です。いずれ父から王の座を譲り受け、この国を統べる事になる者です。正直、今の僕は王にはふさわしくないと思っています。何事に関しても、経験がなさ過ぎる…このままでは、この国の未来が不安です。そこで、ドウモトマナブ。あなたに協力して欲しいんです。」


 「俺にですか?」


 「はい。手紙にも書いた通り、あなた方の活躍の噂は私の耳にも届いております。武器を使わずにヴァンパイアを討伐し、全ての魔法を操るソーサラーと強力な魔力を秘めたレンジャーと共に、数々のクエストをこなして来た『言語勇者』!あなたには、僕には無い経験が沢山あるのです。その経験を、僕の元で活かして欲しいのです。」


 これには流石に驚いた。いつの間にそんな噂が流れていたんだ?っていうか、少し間違って伝わってる気もするが…それに誰だよ、『言語勇者』なんて名前考えたの。


 俺は頭の中を整理し、言葉を返した。


 「では、具体的には何を欲しいんですか?」


 するとザカラヤスは、さっきよりもすごい勢いで語り始めた。


 「僕が思うに、王に一番必要なのは、外交関係の良さです。たとえどんなに国民を幸せにできたとしても、隣国に攻め入られれば、全てが水の泡です。そこで、あなたの力が借りたいのです。あなたは、多種多様の言語を話せると聞いています。その能力を活かして、僕専属の外交官になって欲しいんです。あなたがいれば、たとえどの国と会議しようと、僕の思いを直接伝える事ができます。もちろん、給料は出します。どうですか?悪い話では無いと思いますが。」


 彼の提案を聞いて、俺は考え始めた。


 確かに、悪い話では無い。むしろ、一生に一度訪れるかどうかのものすごいチャンスだ。


 しかし何故だろう。

 全く心が踊らない。

 むしろ、少し落ち込んでいるようにも感じた。


 俺は深く息を吸い込み、ゆっくりと言葉を返した。


 「少し…考える時間をいただいてもよろしいでしょうか?」


 数秒の沈黙の後、ザカラヤスは口を開けた。


 「はい、構いませんよ。急な話でもありますし…ゆっくり考えてください。では、僕は他の用事があるので失礼します。僕が戻ってくるまで、自由に城内を歩き回ってもいいですよ。特別に許可します。」


 そう言い、ザカラヤスは大広間を後にした。


 俺は大きなため息をついた。


 どうやら王都での旅は、まだ始まったばかりのようだ。








役二ヶ月間もの失踪、誠に申し訳ございませんでした。

新型コロナウイルスの影響もあり、リアルが少し大変になっていましたが、やっと投稿を再開できるようになりました。

これからはみなさまの自宅待機に少しでも楽しみを増やすため、毎日投稿に励みます。

改めて、よろしくお願いします。

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