第十五話:異世界では都合は予想より良い
「う〜ん…」
俺はユルビンとヴェリスと一緒にテーブルを囲み、考えていた。
ヴェリスがパーティに加わってから三週間。戦力が増したのは確かだが、何か足りない気がしてきた。
スライムウォール事件の後も普通にクエストを受けてきた俺達だが、どのクエストも必要以上にエネルギーを消費するのが感じられた。三人になって効率はよくなったはずなのに、何故か前より疲労感が増えた。
試行錯誤の末、俺達はこれがパーティに何かが「足りない」からだと言う決断に至った。
そして今、それが何か考えているわけだ。
「やっぱり回復役かな?いくら敵が倒せても、こっちがダメージ受けすぎていたら意味ないからな。」
「それなら僕がいますけど?」
「いや、ユルビンの出せる回復量には限度があると言うか…」
「確かに、昨日負った傷もまだ完全に癒えていないぞ。」
「うっ、そ、そうですが…それは二人の防御力が低いからなんじゃないですか?そもそもダメージを受けなければ回復は必要ありません。」
確かに、ユルビンの言い分にも一理ある。俺達は今の所、素早さと遠距離攻撃重視のパーティだ。防御力が高い職業がいればある程度は楽になるだろう。
「つまりこのパーティに足りないのは回復役と防御力か…」
「ならば、パラディンをパーティに入れると言うのはどうだ?」
ヴェリスのその言葉を聞いて、俺は改めて深く考えた。
パラディン。すなわち聖騎士。
攻守ともに優れた能力を持ち、回復魔法も使える上位職業。ゲームなどでは主人公がなりがちな、誰もが憧れる職業。
確かにいい案には聞こえるが、一つ大きな問題がある。
「パラディンみたいな上位職業がこのパーティに入りたいと思うか?俺とユルビンはまだ階級がスチールだし、ヴェリスに関してはまだコッパーじゃないか。」
そう、階級差である。パラディンなんて俺達が募集しなくても仕事に困らないはずだし、困っていたとしても俺達なんかよりもっと階級が高いパーティを選ぶだろう。
「確かにそうだな…都合よくパラディンがそこら辺に転がってもいればいいのだが…」
ヴェリスの期待に応えたいものだが、そんな都合のいい事なんて起こるわけ…
ステラの言葉が俺の考えを遮る。
「ドウモトさ〜ん!ドウモトさん宛に手紙が届いてますよ!どうやら結構重要なものらしいですよ。もちろん、内容は読んでいませんけど。」
そう言った後、ステラは俺に手紙を手渡した。
俺は彼女に礼を言い、早速手紙の封を切りその内容を読み上げた。
「拝啓ドウモトマナブ様。あなた様のご活躍は私の耳にも届いております。是非とも、面会を願いたい。迎えは私からお送りしますので、移動手段にはご心配なく。お代も結構ですのでどうぞお気軽にお越しください。生身での対面を大変楽しみにして待っております…ソンヴォン王国第一王子、ザカラヤスより!?」
最後の一文を読んだ瞬間、その場がざわめいた。
ソンヴォン王国。
それは俺達がいるテイルシンを始めとした数多くの都市をその支配下に置く、この世界最大の王国らしい。その第一王子からの呼び出しとなると、相当すごい事なのだろう。俺でさえ、事の大きさに震えていた。
「嘘でしょう!?見せてください!」
ユルビンが俺の手から手紙を取り上げ、食い入るように見た。ヴェリスも覗くようにそれを見た。
みるみると二人の顔色が変わっていくのがはっきりと見えた。
「す、すごいじゃないですか!ソンヴォン王国の第一王子からの呼び出しなんて滅多に来る物じゃないですよ!」
「しかし、何故マナブに手紙など…それほどの功績を残したのか?」
確かに、俺はチート能力を持っているがそれは世に知られていないし、クエストではヴァンパイア討伐以外の大した功績を上げてはいない。ステータスも極々普通な冒険者の物だ。なのに何故…
まあ、それは今考えなくていいだろう。
何故なら、結構都合のいい事が起こったのだから。
いよいよ異世界物らしくなって来た。あわよくば、パーティに足りない『何か』が見つかるかもしれない。
俺は大きな期待を胸に、ユルビンとヴェリスの方を向き口を開けた。
「まあ、それは本人に聞けばいいさ。いつ迎えが来るかわからないし、今から荷造りをしておこう。どれだけ長くあっちに滞在するかわからないからな。すぐに準備するぞ!」
「はい!王都に行けるなんて夢見たいです!何を持って行きましょうか…」
「了解。言っておくが私は正装と呼べる物は持っていないぞ。失礼になるかもしれないが、この服装のままで行かせてもらう。」
「まあ、俺もそういうのは持っていないし、問題ないだろう。ユルビンもそこら辺気張らなくてもいいぞ。
「え、ああそうですか?せっかくいい布を買うつもりだったのに…」
俺達は来たりし長旅の準備を始めた。




