第十二話:異世界では動物愛は食欲より強し
「スナイプ!!!」
ヴェリスはそう叫び、次から次へと敵を射抜いていった。
「喰らいやがれ!」
「ティンダー!」
そしてすかさず俺とユルビンも攻撃を繰り出す。
簡単な討伐クエストとは言え、流石に三人いるとサクサク進む。
俺達は武器をしまい、キルドの方へと歩き始めた。
黙って帰るのもあれだったから、やがて俺たちは雑談をし始めた。
「いや〜やっぱり三人いるだけでも大違いだ!改めてありがとな、ヴェリス!」
「別に大した事ではない。ただ助けてもらった恩を返しているだけだ。」
「しかし、あれ程狙撃が上手いのに食料が手に入らなかったのはやはり不思議ですね…詮索はしないと言いましたけど、どうしても気になります。」
ユルビンの問いかけに、ヴェリスは少し困った表情をし、間をおいてから答えた。
「ま、まあ、パーティを組んだ以上、隠すわけにもいかないな…実は私は…」
ヴェリスはもじもじしながら、何やらカバンを探り始めた。
そしてしばらくして、カバンからモコモコした何かを取り出した。
よく見るとそれは、小さな赤いレッサーパンダのような生き物だった。
「ど、動物が好きなんだ…昔辛い時に心の支えになってくれて…だから、食料にするために殺すというのはあまりにも…」
ヴェリスは恥ずかしそうにそう言った。
初めて出会った時も思ったが、やはり彼女は結構可愛い。
照れている顔を見ると、改めてそう思える。
俺は湧き上がるいやらしい感情を沈め、口を開けた。
「な、なるほど。ベジタリアンって事か。でも、ここら辺は結構食べれる雑草とかはあるんじゃねーの?」
「は、恥ずかしながらも、食用草の見分けには自信が無いんだ…」
ヴェリスはより一層頬を赤らめ、そう言った。
「狩りもしなければ食用草を見分けられないレンジャーですか…普通ならあり得ないですが、まあ、事情があるんですよね?」
「ああ、そうだ。詮索しないでもらえると嬉しい。」
「もちろんですよ。すでに詮索はしないとは言いましたし。」
「ありがとう、感謝する。」
ユルビンとヴェリスの会話を聞いて、俺は昨日の出来事を思い出した。
ヴェリスには何らかの事情がある。そしてユルビンはある程度その事情について知っているようだ。
「私が何者か知っているのだろう」。彼女は確かにそう言っていた。
つまり彼女は何かやばい事でもしているのか?いや、そうだとしたらユルビンがパーティ加入を許すはずが無い。
だとしたら何なんだ?彼女の「事情」とやらは?
まあ、今それを考えても頭が痛くなるだけだ。
今はただ、パーティに貢献してくれている彼女に感謝しよう。
俺は笑顔でヴェリスに問いかけた。
「なあ、この子の名前はなんて言うんだ?」
「ファンテン。エルフ語で『勇者』と言う意味だ。」
「へ〜。じゃ、よろしくなファンテン!」
俺はファンテンを撫でようとしたが、手を近づけるや否やファンテンは俺の手を引っ掻いてきた。
俺は思わず手を引き、奇声を上げた。
「いっっって!」
「ああ、すまない。この子は私以外には懐かないんだ。こら、ファンテン。この人は仲間だぞ。」
ファンテンは俺をがっちりと見ながら、唸り声をあげながら俺を威嚇していた。
まあ、こればかりはしょうがないだろう。
「き、気にすんな。俺も昔から動物には好かれないみたいだし…」
「ははっ、可愛いマスコットができましたね。」
「まあ、迷惑はかけないと思うから、この子の事もよろしく頼む」
和気藹々とした会話が、場の空気を和ませる。
なんども言うようだが、やはり友と言うものは素晴らしい。
しかし、そんな素晴らしい時間を脅かす連中が、俺達の前に現れる。
凄まじい地響きと共に、小さな丸っこい物体が無数に地面から湧き出てくる。
色鮮やかなそれには、やけに見覚えがあった。
そう、スライムだ。それもその群れだ。
ユルビンとヴェリスには聞こえていないだろうが、俺にははっきりど聞こえていた。
奴らの殺意に満ちた「声」が。
「へっ、こいつがレインボーをやったやつか?」
「ああ、間違いない。しかし弱そうだな〜。俺一人でも勝てるんじゃねーの?」
「って言うか、あのレンジャーの子可愛くねーか?倒したら持ち帰ってやろうぜ!」
なるほど。こいつらはこの間倒したレインボースライムの仲間なのか。そして、あいつの仇を討とうとしていると。って言うか、結構ゲスな発言をしているやつがいるのも見過ごせないが、今は作戦を立てる事に集中しよう。
俺は声を荒げて、ユルビンとヴェリスに声をかけた。
「ユルビン、ヴェリス!こいつらは俺達がこの間倒したレインボースライムの仲間だ!おそらくだが、敵討ちをしようとしている!いくらスライムとは言え、数ではあっちが圧倒的に有利だ!油断せずに行くぞ!」
「はい!」
「了解!」
俺達は武器を構え、戦闘態勢に入った。
スライムの群れの緊急討伐、開始である。




