第十一話:異世界では三人は二人より強し
それは突然に起きた。
俺とユルビンがクエスト板の前で次のクエストを選んでいると、ギルドの扉が開く音がした。
扉の方に振り向くと、そこには一人の女性がいた。
一つのポニーテールにまとめた、腰までたなびく長い緑色の髪。
動きやすそうなものの、やけに露出が多い服。
その隙間から見える純白な汚れひとつ無い、美しい肌。
俺は今にでも彼女に見惚れそうだった。
いや、実際俺は数秒見惚れていた。
しかし、妙なことに気がついた。
彼女はやけに痩せ細っており、なんだか足つきもフラフラしていた。
俺が心配して声をかけようとすると、彼女のふらつきは大きく増した。
『バタン!』
彼女は大きな音をたて、倒れてしまった。
俺は慌てて彼女に駆け寄り、ユルビンにも声をかけた。
「だ、大丈夫ですか!?おい、ユルビン!この人に回復魔法を頼む!」
「は、はい!」
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「う、う〜ん…」
治療を開始してから一時間、彼女はやっと目を覚ました。
俺は思わず彼女に声をかけた。
「お、起きたか!よかった〜。すみません、うちの相棒が基本的な回復魔法しか使えないから、少し回復が遅れたんですけど…」
「少し腑に落ちませんが、まあ事実ですね…」
そう言う俺とユルビンを見て、彼女は少し困惑した顔をし、その口を開けた。
「あんた達は…?」
『ギュルル!』
大きな腹鳴りが、彼女の声を遮る。
頬を赤らめる彼女に対し、俺は声をかけた。
「もしかして、お腹が空いているんですか?良ければ、これどうぞ。」
俺は彼女に買っておいたパンと水を差し出した。すると彼女はものすごい勢いでそれを俺の手から奪い、貪り食い始めた。
「ありがとうモグモグ恩にモグモグ着るモグモグ。」
「た、食べるか喋るかどちらかにしてくれませんか?」
「ああ、すまんゴクリ。改めてありがとう、恩にきる。」
よく見ると、やはり彼女の体はかなり痩せ細っていた。もうすぐで骨が見えそうで、正直少し不気味だった。
「もしかして、ずっと何も食べていなかったんですか?」
「あ、ああ…少し事情があってだな。」
そう言い、彼女は黙り込んでしまった。
しばらくして、沈黙を破るようにユルビンが口を開いた。
「あの、その格好から見るにあなたレンジャーですよね?狩とか得意なあの。食料に困る事は基本的に無いと思いますが…まあ、そこらへんは深く詮索しません。しかし、もしあなたがこの先食料や生活に困る事があったら、僕も一人の冒険者として、見過ごすわけにはいきません。なので、良ければ僕たちのパーティに入りませんか?」
思いも寄らないユルビンの提案に、俺も彼女は呆気に取られていた。
しかし、考えてみれば悪い話ではない。
レンジャーといえば狩人だ。弓を使う遠距離のスペシャリストで、高い素早さを利用した立ち回りで敵を翻弄する結構強い職業だ。
強くて綺麗な女の子がパーティに入ってくれるなんて、願ったり叶ったりだ。
俺はすぐにでも彼女をパーティに迎え入れたかったが、彼女は複雑な表情をしていた。
「…いいのか?お前は、私が何者かわかっているんだろ?私をパーティに入れても、ろくな事など–」
なんの話をしているんだ?さっき言っていた「事情」が何か関係あるのか?
俺が言葉を作り出せる前に、ユルビンが彼女の言葉を遮る。
「そんな事、どうだっていいんですよ。僕も結構事情があってここにいるんですから、そう言う人が増えても特に問題はありません。ですよね、マナブ?」
俺は慌てて返事をする。
「お、おう!むしろこのパーティは遠距離が得意な人は大歓迎ですよ!」
すると彼女は、少し考え込んだ後に、口を開けた。
「…わかった。その申し入れ、ありがたく受け取っておこう。」
俺は立ち上がり、彼女に手を差し伸べた。
「じゃあ決まりですね!俺はマナブ、あっちはユルビンっていいます。改めてよろしくお願いします。」
俺がそう言うと、彼女は俺の手を握り、言葉を返した。
「ああ。私の名前は『ヴェリス・ヴェニラ』。一応、ここより東の国、『モリシア』を収める貴族の娘だ。改めて、よろしく頼む。」
俺達は硬い握手を交わした。
「おう!って、貴族って事は、お嬢様って事ですか?」
俺がそう言うと、ヴェリスは困った顔をし、返事をした。
「あ、ああ。でもまあ、今はそんな身分じゃないし、特別に扱わなくてもいいぞ。気軽に接してくれ。」
それを聞いた俺はにっこりと笑い、口を開けた。
「じゃあ、お言葉に甘えて。よろしくな、ヴェリス!。」
「ああ、よろしく頼む。」
俺、堂本学の二人目の仲間、ヴェリス・ヴェニラがパーティに加入した。




