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帰れなかった勇者の新・異世界生活  作者: 乙三
西都への旅編
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76.西都イルザーフ2



 『赤い馬』の拠点に一晩止めてもらう事になったので、サジュアに頭を突付かれながらも彼らの後に付いて行くが、なぜか冒険者組合の隣の建物に入っていく。



「ようこそ、俺らの拠点へ」

「え? 組合の隣なんですか?」

「そうよ、驚いた? ジャントラが場所の事を言わなかったから、きっと驚かしたいんだろうなと思って黙っていたのよ」


 まあ、職場の近くに住むのは当然の選択肢だが……冒険者の職場ってそのつど変わるから意味があるのか?



「まあ、そう言うこった。とは言え、ここは組合の持ち物で、その三階の一画を借りてるだけなんだけどな。俺らは街を離れる事も多いから、治安やら防犯やらを考えるとこういう場所の方が都合良いんだよ」

「ちなみに、ここを借りられるのは三等級以上の冒険者だから、ルクスはまだ無理ね」


 なるほど、仕事を済ませて街に戻ってきたら『空き巣に入られていました』じゃな。

 かと言って、所持品を全部預けたり持って歩く訳にも行かないだろうし、組合が管理して住んでいるのが高位の冒険者となれば、迂闊には手を出す人はそうはいないだろう。


 そんな説明を聞きながらも三階に到着し、その一室に招かれる。


 

「まあ、そこまで広くは無いが……ああ、荷物はその辺に降ろしてゆっくりしてくれ」

「ありがとうございます。えーっと、おじゃまします…………あ、硝子(ガラス)窓!」

「最初に出る感想がそれかよ。まあ、珍しい物ではあるが」


 おお、ガラスだよ。

 実家はもちろん、これまで通ってきた街や村でも、窓をはじめビンやコップなどのガラス製品は無かったので失念していた。

 西都には職人も居るんだろうか……工房とかもあるなら見学したいなあ。



「ルクスが硝子にうっとりしているのは放って置くとして……さて、どうする?」

「夜は外で食べるとして、それまでどうするかって事よね?」


 今は昼を少し過ぎた辺りだから、晩飯時の日没までにはまだまだ時間があるのでジャントラの提案も頷ける。

 いつでも出来ると言ったが、皆に案内をお願いして街を軽く散策するのもありかもしれないな。


 ――なんて考えは甘かったようです。



 「それじゃ、ちょっと下に行くか」なんてジャントラの言葉を皮切りに、何故か冒険者組合の裏手にある訓練場に移動し、これまた何故か模擬戦をする運びとなった……。

 そんな殺伐とした雰囲気は微塵も無かったじゃないか……理解不能だ……。



「ルクス、得物は? さすがに訓練用の鉈は無いんだよな」

「……あの、なんでこんな事に?」

「ん? んー、強いて言えば二年での成長を見てみたいって所か。教育係も途中だったし気になってたんだよ。まあ、あの時参加してなかったギントが仲間外れ扱いで文句言ってきたとか、イナルがルクスの実力を暴こうとしているとか、サジュアがルクスを負傷させて看病しようとしているとか……そんなのは些細な事だろ。で、得物はどうする?」


 ……まともなのはジャントラだけか。まあ、こういう歓迎の仕方は嫌いじゃ無いから良いんだけどさ。

 それに対人戦はもっと経験しておきたいから丁度良い機会だ。

 しかし、他の冒険者の目もあるから、そこそこ戦って見せて負ければ良いかな。



「……それじゃ、短めの片手剣を二振りお願いします」

「へえ、二刀流か。面白くなりそうだな。……そんじゃまずは俺からだ」


 ジャントラは片手剣と丸盾か。

 普段はフレンドリーに接してくれるが、これでも二等級の冒険者だから油断しないようにしないとな。



「ああそうだ、わざと負けようとしたら下着姿でサジュアに引き渡すからな。全力で掛かって来いよ」

 

 ……負けられない理由が出来た様だ。



 ジャントラの戦い方はオーソドックスな物だったが、途中からそれが一変した。

 盾を前に突き出し、俺の視界を奪った上で盾の影から剣を差し込んでくる。

 恩恵や技能(スキル)のお陰で難なく対処できるが、それでも視界が潰されるのはこちらの攻撃もし辛くなるし非常に厄介だ。

 それに盾の影から来る剣に意識を向けていると、そのまま盾で殴り掛かっても来るからまったく気が抜けない――。



「おっしゃ、この位で終わりにすっか」


 盾での打撃の衝撃を殺すのに軽く後ろに跳び、二人の距離が出来た所でジャントラが終わりを告げる。

 ジャントラの攻撃は凌げたが、こちらの攻撃も防がれたりいなされたりと、結局当たらなかったな。

 隙だと思ったら罠だったり、引くと見せかけて前に出てきたり、決着は付かなかったけど学ぶ事は非常に多く有意義な時間だった。


 で、お次はギントだ。

 盾を巧みに使ったジャントラと似た装備と戦い方だが、上背はもちろん体格もジャントラより大きいので一撃が重く、ただの横薙ぎも普通に防ぐだけで身体を浮かされる。

 ただ、その体格のせいか動作はジャントラと比べると遅く、危うい部分もあったが何とか直撃だけは喰らわずに済んでいる。

 と言うか、十二歳の子供に向けて良い斬撃じゃ無いだろ、これ。


 その後、何度か攻守を交代した後にジャントラが模擬戦を止める。ギントとも決着つかずの引き分けか。

 反撃される事も考えて慎重になりすぎているのか、最後の最後で詰められない……やはり対人戦は難しいな。


 これで終わりかと思ったが、どうやらサジュアも参加するようだ。

 こういうのには「面倒臭いよー」ってなると思っていたんだけどな。

 しかし、俺と同じ片手剣の二刀流か。確か、サジュアの得物は片手斧の二刀流だったはずだから、彼女の方が慣れたスタイルかもしれない……勉強させてもらおう。



 どうやら彼女の戦闘スタイルは速度重視のようで、ギントの様な斬撃の重みは無い物の、早く鋭い為に受けた剣が弾かれる。

 受け止める事も出来なくは無いが、そうするとこちらの足も止まるので左右から来る攻撃の対処が間に合わなくなりそうだ。

 ウサギの獣人特有の物なのか、全身のバネを生かした刺突攻撃は非常に厄介だが、動きが直線的になるので狙うならそこだろう……と、後ろに下がりながら右から来る横なぎを受け止め、足を止めた俺に対してサジュアは狙い通りに突きを――。


 その突きをぎりぎりで避けて懐に入り、サジュアの勢いそのままに背負って投げる。

 背中から地面に落ち、「かはっ」っという声がサジュアから漏れるとほぼ同時に、模擬戦の終わりを告げるジャントラの声が聞こえた。

 まあ、サジュアを投げる為に両手に持っていた剣は手放しちゃったし、無手でも戦えるとは思うが自信が無いので、正直、止めてくれて助かったよ……。



「大丈夫ですか?」


 地面に叩きつけなかったのでそこまでダメージは無いと思うが、サジュアは未だに寝たままなので、心配になって声を掛けてみたが……。



「うわーん、負けたあー! ルクス強すぎだよおー」


 と、くるっと身を起こして腰にまとわり付いてくる。

 ……なんだ、やっぱり元気なんじゃないか。



「いやいや、まさかサジュアが負けるとはなあ。それに、ルクスもあんな技を隠しているとは思わなかったぜ」

「ほんとな。んじゃ、今日の晩飯はサジュア持ちという事で」

「えー! ジャントラとキントだって、途中からほとんど本気だったのにまともに当てられなかったじゃないかー」


 最後は剣を手放したし、一番危なかったのはサジュアとの戦闘だったんだけどな。

 しかし、最後の背負い投げ……中高と柔道部に入っていて良かった。

 当時はあまり人気も無く、ぱっとしない部だったけどまさかこんな所で活きるとは。



「でも、そんなに力を見せつけて、隠しておかなくて良かったの?」


 そんなイナルの言葉で我に帰り辺りを見渡すと、そこそこのギャラリーが模擬戦を見学していた。

 ……そうだった、ギャラリーが居たんだった。集中してたし、模擬戦が楽しかったからすっかり頭から抜け落ちていた。

 不味い、これは不味いな……何とか誤魔化さないと――。



「…………は、花を持たせていただきありがとうございました。とても勉強になりました!」


 ギャラリーにも聞こえるように少し大きめの声でそう言いつつ、少し大袈裟にお辞儀をする。

 …………どうだ?

 少し経つと、「やっぱり手加減してたんだよ」とか「弟子でも取ったんだろ?」なんて声が微かに聞こえたので成功したようだ。

 ふう、これで『赤い馬』の評判が落ちる事は無いだろうし、俺も平穏も保たれるだろう。



「あら、演技の方も巧くなった様ね」

「うわあー、なんだこれー」


 イナルの嬉しくない賞賛に次いで、サジュアがお返しとばかりにいつぞやの失態の真似をする……勘弁してください――。



 サジュアの後にイナルも魔法を交えた模擬戦をする予定だったようだが、場がそんな雰囲気ではなくなったので、彼らの部屋に戻ってきた。

 俺の異常な強さに関しては追々と言う事で納得してもらったので、代わりと言ってはあれだが、お土産として一人一壷の蜂蜜を進呈しておく……西都ではそこそこ高価な物らしく大変喜ばれたが、このタイミングでお土産とか汚いよなあ、俺。


 その後の夕食はジャントラ、ギント、サジュアの三人の割勘でご馳走になり、寝床はジャントラとギントの部屋の一角を使わせてもらう事になった。

 ……自由な一人旅が続いていたので他人と寝食を共にするのは久々だったが、なんだかこういうのも良いな――。


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