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帰れなかった勇者の新・異世界生活  作者: 乙三
西都への旅編
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69.ミミト8


 ヘスティと模擬戦を開始して数分、ひとまずは受けに徹しているが、一連の流れから彼女はがんがんと攻めるタイプの様だ。

 ……というか、ぶっちゃけると防御を知らない戦い方だ。


 気付いているのかいないのか、たまに入れる視線などのフェイントにもお構い無しに突っ込んでくるし、急所の守りはお世辞にも上手いとは言えない。

 なんというか、凄くアンバランスなんだよな。

 攻撃は速く鋭いものの、パターン化されていて至極読みやすく防ぎやすいし……もう受け続けても学ぶ事は無いかもしれない。

 それに受けに徹したお陰で手加減の程も分かったし、今度はこちらから攻めてみようと思う。



 まずは今の流れを断ち切る為に、彼女の初撃の跳躍に合わせて突きを出し、出鼻を挫く事にする。

 片手持ちで半身に構えている分、両手持ちの彼女よりもリーチは俺の方が長く攻撃も先に当たるので、恐らく彼女が取る行動は二通り。

 一つは減速しつつ防御して方向転換……まあ、これが普通だろう。

 もう一つは剣なり籠手なりで突きを逸らしつつ、そのままの勢いに任せた体当たりだ。


 でも、これまでの攻防から考えると、彼女が防御や引いたり避けたりする可能性は低いんだよな。

 さすがに無策で突っ込んでくる事は無いだろうけど……まあ、お手並み拝見だ。


 そんな事を考えながらも攻撃を受け流していると、再び両者の間隔が開き、彼女はぐっと身を屈める。

 それに合わせてこちらも地面を軽く蹴り、突きを出しながら前に出る……さて、どうなるかな。


 と、彼女の様子を窺うと、これまで柔軟でしなやかだったヘスティの身体は強張り、微かに驚いた表情のあと、ぎゅっと目を瞑った。

  …………。

 いや、諦めちゃ駄目でしょうよ。

 反撃される事を想定してなかったのか? ……はあ、なんか色々と考えていたのがアホらしくなってきた。


 とはいえ、このままにしておけば顔から地面に着地するだろうし、さすがにそれは放ってはおけない。

 なので、剣を手放して彼女の胴体に手を回して受け止めてやる。



「うぐっ……って、……あ、あれ?」

「ヘスティさん、ここまでですね」

「私、突きで刺されたんじゃ」

「さすがに途中で止めましたよ。それと、驚いたり怖かったりしたとしても、目を瞑っちゃ危ないですよ?」

「……ごめんなさい」


 俺の肩に担がれた状態だったが、正気に戻った様なので降ろすついでに一応注意だけはしておく。

 最後こそ残念な幕引きとなったが、体の使い方や対人戦での手加減の具合とか、色々と学べる点もあったのでよしとするか――。


 

「ルクシアール、怪我は無い?」

「大丈夫だよ、お婆ちゃん」

「しかしこれほど剣の扱いが上手いとは。これで独学なのか?」

「ヘスティの攻撃をいなす技量、こりゃ想像以上じゃ。どうじゃ、ダルギア領へ来んか」


 借りた剣を返して祖父母や伯爵主従の元へと戻ったが、ギャラリーが居た事をすっかりと忘れていた。

 お陰で、一方的に攻撃をいなした様な印象を与えてしまった様だ。

 祖父母や伯爵の存在を覚えていたら、もっと手加減というか、苦戦や拮抗する場面も用意したのにな。

 

 後に聞いた話によると、初撃や連撃の威力から誰も手合わせしてくれなくなり、最近ではヘスティ一人で鍛錬する事が多くなっているらしい。

 そりゃ地中に埋められた丸太相手じゃ打ち返しても来ないよな。

 まあ、これで防御の重要性も再認識しただろうし、次に手合わせする機会があれば少しは楽しめるだろう。


 昼からは全員でお茶を飲みながら、俺の両親や兄姉の話を。

 昨日もざっくりとは話したけど、共通の話題なんてこれ位しか無いしな。

 それでも娘や孫の話は面白いようで、俺の話が区切りを向える毎に昔はこうだったと話は逸れるが、それもまた良い時間潰しとなった。



 夕食を食べ終えると、今度は俺の話に。

 明日ここを発つ予定だが、それを引き止める祖母と、そんな祖母を窘める祖父。

 祖母の留まって欲しいという気持ちは素直に嬉しいしが、あまり厄介になるのも気が引けるし、期日のある予定があるとどうしても落ち着かないんだよな。


 一方、伯爵とヘスティは引き止めも追い立てもせず中立の様だが、隙あらばダルギア領への勧誘を差し込んでくる。

 成人後の話なので可能性としてはゼロではないが、現領主にコネがある訳でもないので難しいだろうし、どこぞの領で囲われるのも今の所は遠慮したい。

 まあ、伯爵はヘスティを嗾けるだけなので、そこまで本気では無いのだろう。


 

 ――翌朝、窓を開けると薄曇りながらも雨は止んでいた。

 多少地面は湿っているが、ぬかるんでいる訳でもないのでこれ位なら出立に問題無いな。



「お爺ちゃん、お婆ちゃん、お世話になりました」


 朝食のあと、一人部屋に戻って身支度を整え、皆が寛いでいる一階の玄関ホールへと赴いた。

 伯爵達も同じく出立しようとしていたらしいが、腰の調子が良くないそうなので、もう数日逗留する事にしたらしい。

 腰痛はほんとに動けないからなあ……まだまだ心配しなくても大丈夫だろうけど、俺も気をつけよう。



「なに、予定が無ければもっと居て欲しかったくらいだ。なあユリアンナ」

「ええ、本当に。すぐには無理でも、学校を出たらまた遊びに来てちょうだいね」

「もちろんです。シュラード卿とヘスティさんも、色々とありがとうございました」

「わしは何もしとらんが、良き巡り合わせであったのう」

「私も精進しますので、また機会がありましたらお手合わせを」


 三年後、西都からの帰り道に寄るかは分からないが、成人して(しがらみ)がなくなったら転移魔法でいつでも来られるし、そうなったら両親も連れてきてあげよう。

 こうして祖父母との対面を無事に果たし、皆に見送られながら西都への移動を再開した。


 ミミト村を発ったその日の夜、日没を少し過ぎた辺りには街道沿いの街ヨクシアまで戻ってきていた。

 途中、道端に生えている草の採集を少ししたので予定より遅くなってしまったが、宿も取れたし一安心だ。

 前にヨクシアへ来た時は早朝で、店もまだ開いていなかったし素通りしただけだったけど、この時間帯は屋台なども出ていて活気に溢れている。

 とは言っても、街の規模自体は大きくはないのでそれなりだが。


 雑貨屋に鍛冶屋、それに服飾屋と覘いてみたが、目ぼしい物は何も無かった……夜という事でそう言う店も開いている様だけど、まだ俺には早いらしい。

 こういう所だけは成人からなんだよな。

 仕方ないので、宿の一階で夕食を済ませ、今日は早々に眠る事にした。


 翌朝、朝食を食べてすぐにヨクシアを発ち、隣街のニベルンを越え、今はネメレイという街までやってきていた。



「おはようございます……朝食ってまだ大丈夫ですか?」

「ああ、すぐに用意するから空いている席に座っときな」


 昨日、この街に着くと同時に降り出した雨が今朝も残っていたので、今日の出立は諦めてのんびり二度寝をしてしまった。

 時計が無いので朝食の時間帯なのか不安だったが……あ、肉の焼ける香ばしい匂いがしてきた。

 


「女将さん、もう一日部屋を取りたいんですが良いですか?」

「構わないよ、今と同じ部屋をそのまま使っとくれ」

 

 雨という事もあるが、このネメレイからはミストラ領、つまりは西都を治めるハイクラッテ公爵領となるので、少し街を見物しようと思っていた。

 シュラード卿には悪いが、サルベルからニルベンまでのダルギア領の街はどこも同じ様な感じで面白味に欠けていたもんな。

 まあ、観光地ではなく宿場なのだから当然なのだが、多少は特色を持った街づくりをしてもらいたい。



「はいよ、お待たせ」

「ありがとうございます。そうだ、この街に冒険者組合ってありますか?」

「ああ、街の中央広場の所にあるよ。なんだい登録かい?」

「いえ、登録は済んでいるので、何か良い仕事は無いかなと」

「その歳でねえ、……まあ、あんたらのお陰で安全に暮らせるし肉も食えるんだが、あんまり若いうちから親御さんに心配かけるんじゃないよ?」

「はい、気をつけます」


 と、笑顔で返したが、こういう風に思う人も居るんだなあ。

 確かに十二、三歳で森に入り、野生の動物を狩るなんてのは普通じゃないかもね。


 ともあれ、朝食を食べて部屋に戻り出掛ける準備だけはしておく。

 雨も小雨になってきたし、空も明るくなってきているので昼前には止むだろう――。


花粉がつらい。。。

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