07.鍛冶屋
書くのは初めてですので、不備がありましたらお願いします。
買出し自体は二、三日に一度は来るらしい。
大人二人と子供四人の一家に、使用人が五人……合計十一人分の食料だから結構な量が消費されていそうだ。
リトナが言うには、村の様子や価格動向の調査も兼ねている様なので、一度に買い溜めはせず、小まめに補充するスタンスらしい。
黒パンが二個で小銅貨一枚、串焼き肉二本で小銅貨三枚、干し肉と謎の草を茶色いパンで挟んだサンドイッチ風のは小銅貨五枚……か。
父さんから貰った銅貨一枚が小銅貨五十枚分だから……銅貨三枚も持っている俺は大富豪だな! 豪遊できるじゃないかー。
いや、ウルト姉さん用に小銀貨も持っているから……これはもう大富豪とか、そんなレベルじゃないかもしれない。
「お腹空きました?」
買い物を終えたリトナが、小さな樽を両脇に抱えて荷馬車に戻ってくる。
「それもあるけど、食べ物の値段を見てたんだよ。結構安く買えるんだね」
「今は収穫期直後ですからねー、季節柄、生のお野菜とかは高いですが、小麦やお肉なんかは安く手に入りますね。去年の残りとか放出してるんですよ」
「なるほどね……うーん、もうちょっとだけ詳しく」
「えーっと、今期の収穫量が確定して冬に食べる物が確保できたので、収穫期前まで保存していた小麦や干し肉を売りに出しているんですよ。古い物を持っていなくても新しい食べ物があるんですから。それと、冬前にそれらをお金に換えて、冬支度に必要な物を買う為というのもありますね」
「なるほど……ありがとう。勉強になったよ」
「いえいえ、どういたしまして」
「それじゃあ、今高いのは冬支度に必要な薪とか……布とか?」
「そうですね。あと変わった物で言うと粘土とかですかね」
「粘土? そんな物、何に使うの?」
「…………その答えを聞く覚悟が、ルクシアール様にはおありですか?」
「な、なんだと!?」
…………
「さっきのお返しですっ」
くそ、可愛いじゃないか。
「まあ、冗談はさておき……そうですね、宿題という事でどうでしょう」
「聞いてばかりじゃあれだしね、そう言うなら少し自分で考えてみるよ」
「ええ、それで何か買いますか?」
「そうだね、自分で買い物するのは初めてだからやってみたいな」
と、荷馬車は店の店主に預かってもらい、リトナを連れて屋台巡りをする。
この世界なのか国なのか、はたまた地域か。食事は基本的に朝晩の二回で、昼は食べないのが当たり前だ。食べても軽食で、定食屋でランチをがっつりなんて事は無い。
なので、昼時にもなるとこうして屋台が賑わうそうだ。
それに、リトナの言っていた通り、食品は比較的安価だが衣類関係はけっこう高い。
下着や肌着などの生活必需品はそうでもないが、粗雑だが少し厚手のシャツとかになると、俺のお小遣いの銅貨三枚では心許ないレベルだ。
しかし、こう色々な食材を見ていると料理がしたくなってくる。買って一度も使っていない和包丁、今頃は召喚されなかった俺が使っているんだろうな……羨ましい。
「うーん、あっ、あれ食べよう!」
雑多な屋台群の中に、白いパンに挟まれたサンドイッチがあった。
大抵は黒かったり茶色かったり、堅く日持ち重視のパンが多いので、柔らかく日持ちしない白いパンは珍しい。これも収穫期直後だからなのだろうか。
「お姉さん、このカットイロットって言うのを二つ下さい」
「あいよ、って子供? お使いかい?」
「そんな所です」
「まだ小さいのに偉いねー、……ほら、二つで小銅貨二十二枚だ。けど、お姉さんなんて呼んでくれたから、おまけして小銅貨二十枚で良いよ」
「ありがとうございます。ではこれで」
「銅貨一枚だから……はいよ、小銅貨三十枚。どっちも落とすんじゃないよ」
おつりを受け取った後に、謎の葉っぱに載せられたカットイロットを受け取る。焼いた肉をその場で挟んでくれたから、暖かさが手に伝わる。
『カットゥイ』が挟むとか挟んだとかって意味で、『ロット』はパンだから、『パンで挟んだ物』って意味なんだろうな。
「はい、これリトナさんの分ね」
「お金は預かっていたので、支払いは私がしましたのに。それにこんな高価な……」
「良いんだよ、自分で買い物したかったんだから。ほら、冷めない内に食べちゃおう」
確かに小銅貨十一枚は高いよな。他の屋台で売っていた物で考えると、串焼き肉が六本に黒パンが四個手に入る価格だ。でもそれに見合う美味しさだと思う……リトナも一心不乱に食べているしね。
柔らかい白パンに、焼かれた肉から出た肉汁が染み込んで……塩は分かるが、他にも何種類かのスパイスを使っている様で、肉の旨味と共に舌を刺激する。
一緒に挟んである、甘辛く味付けされた棒状の物体も良いアクセントになっている。
それに美味いだけではく、暖かい食事は気持ちを落ち着かせてくれるし、本当に良い買い物だったな。
「いやー美味しかったね」
「本当ですね、びっくりしました」
「あの中に入っていた棒状のヤツの味付けが、肉ともパンとも合ってたよ」
「あれはギットですね。こう、棒の様な形で木に垂れ下がってなる実なんですよ」
そう、手振りを交えながら説明してくれる。
何だろうなあの味、どこか懐かしい……ああ、キンピラだ! ギットか、覚えておこう。
「美味しかったし、お腹も膨れたし、この幸せな気分のままベッドに入って眠りたい」
「ああ、分かります分かります」
「まあ、そう言う訳にはいかないので、二つ目の鍛冶屋さんまでお願いできる?」
「…………そうですよね」
という事で、二件目の鍛冶屋に案内してもらった訳だが……。
「閉まってるね」
「その様ですね」
「閉まっていると言うか、お店自体を畳んでいるよね、これ」
「……はい、その様です」
扉や窓には板が打ち付けられていて、とても営業している様には見えなかった。
誰が悪い訳でもないのだが、あの幸せなひと時の後のせいか、余計に残念な気持ちになる。こうなると、一軒目の鍛冶屋を頼らざるを得なくなるが……。
「時間的にはまだまだ大丈夫ですが、どうしますか?」
「うーん…………金物屋さんとかはどうかな」
「金物屋ですか?」
「家で使っている包丁とかお鍋とか金属食器って、どこで買ってるの?」
「食器類は分かりませんが、包丁や鍋はこの近くですね」
「ついでに、お父さんに頼まれたウルトお姉ちゃんへのお土産があれば良いけど」
「そういうお店では無いと思いますが……」
幸いにも近くらしいので、お土産云々は置いておいて、とりあえずその店に向う。
金物を扱っていれば、そう言う伝手もあるだろう。
「おお、なんか良いね、こういうお店」
「バーノンさんに頼まれて、包丁を砥いでもらいにここへ来るんですよ」
木戸を開けて中に入ると、大小様々な鍋や刃物、調理器具が雑多に並べられており、俺がすっぽりと入りそうな寸胴鍋もある。最悪、これを改造してドラム缶ストーブみたいな物にするのもありか。
この刃物も綺麗だな……砥ぎに出すのも分かる。
「いらっしゃいませ、今回はどの様な御用で?」
見え辛かったがカウンターがあり、主人らしき青年が座っていた。
「えっと、特注で作って貰いたい物があるのですが、尋ねた加治屋さんはお店を畳んだようでして……金物を扱っているなら、そういう伝手もあるかなって寄らせてもらいました」
使用人達が利用している様なので、少しだけ丁寧な物言いをしてみる。険悪な雰囲気になったら皆に迷惑が掛かるからな。
「そうでしたか……あれ? リトナさんですか? するとこちらは」
「こんにちは、エルバさん。こちらは御領主様の御子息でルクシアール様です」
「こ、これは失礼を……え、えっと、本日はお日柄もよろしく――」
と、慌てふためき、カウンターに置いてあった鍋や食器を床に撒き散らす。
金属製品が床に落ちた音もうるさいし、そういうドジっ子属性は、キリっとした女性でお願いします。
「――なんか、手伝ってもらって申し訳ありません」
落ち着きを取り戻した主人のエルバ氏と一緒に、散乱した商品を片付ける……ついでに鑑定してみたが、普通の物が多いものの、質の悪い物は一つも無かった。
片付けも終り、店と主人の双方が落ち着いたところで、再度、事情を説明する事にした。
「そう言う訳で、鍛冶屋さんを探していまして。ちなみに、ここの物はどちらで作っているんですか?」
「ここの商品は私と私の父が作っていまして……その畳んだ店も父の店だと思います」
「そうでしたか……」
エルバさんのお父さんは店を畳んだのか……体調でも崩したのかな。
「それで、どの様な物を作ろうとされているのですか?」
「え? ああ、えーっと……ちょっと説明が難しいので、何か書く物とかありますか?」
「あ、私持っていますよ。こういう時の為に持たされています」
リトナから紙と、炭を加工した鉛筆もどきを受け取り、簡単な三面図を書く。
「暖房器具なんですが……ここで火を焚いて、煙はここから外に」
「なるほど、小さくて移動可能な竃といった感じですね……ちょっと待ってて下さい」
そう言い残して、エルバさんは三面図を持ったまま店の奥に行ってしまう。
訳も分からず急に暇になったので、さきほどの刃物コーナーを眺めて待つ事に。
両刃の物が多く、峰はまっすぐで、見知った包丁と言うよりはナイフと言った感じだな。しかし、刃渡りが短い物でも小銀貨か……こりゃ手が出ない。
それから少し経ち、「お待たせしました」と店の奥から出てきたのは、無精髭を蓄えた筋肉だるまだった……この短時間で、エルバさんの身に何が起こったのか。
「父のドラッツです。こういう物は父の方が詳しいので……」
うん、分かってた。声が似ているから、もしかして……とも思ったけどね。店を畳んだという割には元気そうだな。
「ドラッツです。早速ですが、……こりゃだめだ」
「ちょっと父さん」
「いや、駄目な部分と理由を聞かせてください。そういう意見も欲しかったんです」
「まずは空気穴が無い。これじゃ最初は良いが、すぐに消えちまう」
「なるほど、どういう風に穴を開ければ良くなりますか?」
そんな風に、あーでもないこーでもないと、議論を重ねる。構造の事から始まり、材質や重量、加工方法や組み立てに関してなど、様々な指摘と改善策が飛び交う。
やばい、楽しい。
「ふう、こんな所か?」
「そうですね、これなら……」
ドラッツと心いくまで案を煮詰め、現状では最高の物が出来上がった。装飾などの外観はこれからだけど、構造と性能に関しては文句無い出来だろう。
「でも、これを作るとなると、凄い高価になりませんか?」
「「…………」」
エルバさんの言葉で、二人とも我に返る……そうだ、リトナの実家とか、広く普及させるなら価格の面も考えなきゃ駄目だった。最初は自分だけの為の物だったけど、凍死とかの話を聞いたらね……。
「ちなみにこれでどの位?」
「そうだな……もしこれを売るとしたら小金貨一枚、いや、装飾を入れて一枚半といった所か」
「ふえっ!?」
価格を聞いて、リトナが変な声を出す。
この国の最小通貨が小銅貨、それが五十枚で銅貨。あとは十枚毎に小銀貨、銀貨、小金貨、金貨と上がっていく。小銅貨が百円相当と考えても、単純計算で小金貨は五百万円相当という事になるし、実際にはもっと高い価値があるだろう。
そんな物を庶民が買える訳が無いよな……。
「最初から考え直さないとダメか……どの位だったら削れるかな」
「逆に聞くが、どの程度の価格にすれば良いんだ?」
「出来れば、普通の家に普及するくらい」
「そいつは厳しいな……構造を単純化して、材料も替えて……」
頭を抱えながらも、エルバさんとドラッツさんが三面図と睨めっこしている。
こういうのは専門職に任せるしかないのが歯痒い。
「あの、ルクシアール様、そろそろ帰りませんと……」
「え? もうそんなに経った?」
「もう少し余裕はありますが、ウルティアナ様へのお土産を見るのでは?」
「あ…………」
議論に夢中になってて忘れてた。
この店で何か……包丁とか鍋じゃ怒るかな……怒るだろうな。
「エルバさん、このお店で何か女の子が喜びそうな物ってありますかね」
「いや、さすがに無いかな……鍋とか包丁じゃあ……」
どうするかな……。
「リトナさんは、何か良さそうな物を売っる店知ってる?」
「そうですね、帰り道沿いに雑貨屋があるんですけど、ウルティアナ様が好きそうな物も置いてあると思いますよ」
とりあえず、その雑貨屋に寄って……駄目ならその時にまた考えればいいか。
「エルバさん、ドラッツさん、今日はもう帰らなくちゃいけなくて、暖房の件は……」
「ああ、ここまで乗り掛かったんだ。出来るにせよ出来ないにせよ、最後までやってやるよ」
「そうですね、なんだか楽しそうですし、僕も手伝いますよ」
「ありがとうございます。えっと、次は……」
「明後日になります」
「そう言う訳で、次に来れるのは明後日になりますので、それまでお願いします」
そう言い残して店を後にし、リトナの案内で雑貨屋へ。
想像以上に多種多彩な品揃えで、時間があればじっくりと見たいところだけど、そんな余裕は無いのでお土産選びに専念する。
◆◆◆
「はあ、なんだかバタバタしたね。でも、話が色々と進んで良かったよ」
帰り道の荷馬車で、ようやく一息吐く。
こうも目まぐるしいと、何かをし忘れている様な感覚に襲われるが……大丈夫だよな?
「確かに慌しかったですが、なんだか楽しそうでしたね」
「そう? ……そうだね、こう言うのは好きみたい」
「いつも本ばかり読んでいる印象だったので、今日は少し驚きました」
二足歩行が出来る様になってからは、文字を覚えるのに必死で、長男のシーザー同様に朝から晩まで書斎に篭もっていたからなあ。加護と恩恵を貰って数日だけど、確かに動きすぎだ……自重しよう。
「本を読むのも好きだよ。ただ、今回のは本格的な冬が来る前にやっておきたかったから」
「暖かくなってからでは駄目だったんですか?」
「暖かくなって来たら……僕のやる気が無くなる。もう暖かいから、急いで作らなくても良いかなって」
「それは大問題ですね」
「でしょ? まあ、これが終わったらまたゆっくりすると思うよ、冬だから外に出られなくなるし」
庭くらいなら出るだろうけど、雪とか降ったら出掛ける気にもならない。ストーブが出来たら尚更だろうな。
「あ、そうだ、宿題! 粘土の答え、分かりました?」
「すっかり忘れてた。けど、二個は思い浮かんでる」
「お聞かせ頂いても?」
「まず一つ目、可能性の低い方。粘土で器を作って、暖炉や竃で焼くって内職」
「ふふっ、残念、外れです。楽しそうですけど、暖炉とかで焼けるものなんですか?」
「最初の頃は焚き火だったり、畑で枯れ草を被せて焼いたりしたみたいだから、質の悪い物であれば焼けるんじゃないかな」
と、日本にいた頃に何かで見た気がする。
「次は本命の答えだけど、隙間風を防ぐ為に壁の隙間とかに粘土を刷り込む……どう?」
「残念でしたー。……と、言いたい所ですが正解です。何で分かったんですか?」
「何で分かったかは秘密かなー。残念だったね」
これも日本での知識です、ごめんなさい。
でも、エルバさんのお店の壁に塗ってあったのを見て思い出したから、こちらの知識も半々位か?
そうこうしている内に、家の門が見えてきた。
「何とか日没前に帰ってこれましたねー、怒られる心配が無くなって安心しました」
「次は明後日だっけ、……また、よろしくね」
「はい、多分また私だと思うので、その時はよろしくお願いします」
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