65.ミミト4
家族の事を一通り話し終えると、今度は俺の話題になった。
とは言っても幼少期からの話ではなく、十歳以降の冒険者としての話がメインだ。
緩衝地帯での薬草採集から始まり、調合をしながら未開拓地で動物を狩る。そんな生活を送っていた事を話したら、祖父母を含めた四人は酷く驚いていたな。
もちろん俺が一方的に話すのではなく、祖父母の事も色々と聞いた。
それによれば、すでに当主の座と共にコトアナ領も長男に譲り、今は悠々自適な生活を送っているらしい。
それなら娘に会いにオロントに……とも考えたが、往復一月以上の旅は厳しいと思い改めて口にはしなかった。
それと、シュラード卿達の正体も判明した。
どうやらシュラード卿はラエト、つまりは伯爵でコトアナ領に隣接するダルギア領の元領主らしい。こちらも引退して、祖父母と同じ様に好き勝手しているらしいが、その爵位ゆえに護衛のヘスティが同行している様だ。
祖父の様に子爵ならまだいいが、伯爵となると不敬罪もきっちり適応されるから、当人よりも周囲への配慮が必要になるからな――。
「ルクシアールはこの後どうするんだ?」
「この後、ですか? 今日という事なら特に用事はありませんよ。ここに来た目的の祖父母に会うと言う願いは叶いましたし、宿もこちらに部屋を取っていますので性急に何かをというのはありません。明日以降という事であれば、今まで通りに寄り道しながら西都へ向かおうと思っています」
「ふむ、…………それなら今夜はうちに泊まらんか?」
「あら、それは良いわね。どうかしら、ルクシアール」
うーん、どうしよう。単に厚意で気遣ってくれているのか、社交辞令と捕らえるべきだろうか……。
とりあえず一回は遠慮しておくかな。
「嬉しい申し出ですけど、急な事でご迷惑になるんじゃありませんか?」
「何を言うか、孫が遊びにきたんだ、迷惑だと思うわけが無いだろう」
「そうじゃよ、こう言うのも孝行じゃぞ? まあ、わしも厄介になっておるし、『しょうぎ』の借りもあるからのう……どうじゃ?」
これ以上固辞するのも失礼か……。
「わかりました、ご厚意に甘えさせていただきます」
「まあ、良かったわ。それじゃ、さっそくみんなで帰りましょうか」
「そうだな、それではルクシアールは荷物を纏めてきなさい」
言われるがままに部屋に戻ろうとすると、宿の主人が近付いてきた。
部屋の事で何かあるのかな?
「なあ、坊主。ちょっといいか?」
「はい、どうしました?」
「お、俺は大丈夫なのか?」
「何がです?」
「あの爺さん、じゃなくて伯爵様に無礼な事を言っちまったし、呼び方も『爺さん』だったし……その、無礼討ちとか不敬罪とかがよ」
適当にあしらっていた客が伯爵だったら、そりゃ焦るか。
いちおう俺も貴族の息子なんだが『坊主』なんだね……あえていう事でもないけど。
「大丈夫ですよ。シュラード卿は身分を明かしていませんでしたし、別に侮蔑したわけでもないので不敬罪は適応されませんよ」
「そうなのか? 難しい事はわからねえが、坊主がそう言うなら信じてみるか」
「はい。それと聴こえていたと思いますが宿を移る事になりまして」
「ああ、前領主様の孫だったんだな、会えて良かったじゃねえか」
「ありがとうございます。それで前払いしてある宿代ですけど、こちらの都合ですので返金は不要ですから。あとこれは、みんなが注文した物の代金と、お店をお騒がせした分などを含めてですので……」
と、少し多めに渡しておく。
子供の俺が出すと伯爵や祖父母の面子を潰す事になるかもしれないが、俺が泊まっていた宿だしこれ位は大丈夫だろう。
その後、部屋に戻って荷物を纏めて一階へと降りる……忘れ物は無いよな。
「ほう、こうやって装備が整うと見間違うなあ、さすがは一端の旅人……いや、冒険者じゃな」
「うむ、……しかし帯剣はせんのか?」
「装備を整えた時は十歳で、身体に合う剣も、振るう筋力も無かったので。それに、これがありますし」
と、左腰に提げた鉈の柄を叩く。
西都に着いたら武器類も見てみようとは思っているけど、亜人が大量に出るわけでもないし今はまだこれで十分だろう。
「さあさあ、いつまでもここに居てはご迷惑ですし、お話の続きはうちに着いてからにしませんか?」
「それもそうだな。ルクシアールよ、逸れるなよ?」
と、歩き出す祖父母について行く。
祖母に気遣っているのだろうか、歩く速度は俺のそれよりもかなり遅いが、手を繋いで歩く祖父母はなんとも微笑ましく俺の目に映る。
俺も歳をとったら、こういう余生を過ごしたいものだな。




