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帰れなかった勇者の新・異世界生活  作者: 乙三
西都への旅編
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63.ミミト2


「――ほう、それじゃ祖父母に会いにオロント領から歩いて……ご苦労なこった」

「はい、ずっと馬車に乗っているのも退屈だと思ったので。それに会えるかも分かりませんけどね」

「ふむ、理由や結果はどうであれ、旅をして様々な事を学ぶのは若いうちに限るのう。わしの様に足腰立たなくなってからでは出来んからの」


 宿の主人は忙しそうで話し掛けるタイミングは無かったが、代わりに客として居た老人と世間話をしている。

 かすかに酒の匂いがするけど、恐らくは蜂蜜酒に薬草や香草を漬けた物を薄めた物だろうな。そこまでアルコール度数も高くなく、父や母もお茶代わりに飲んでいた記憶がある。

 健康に良いらしいが、当然子供の俺は口にする事を許されなかった……半成人した今ならもしかして大丈夫なんじゃ……。



「ええ、本当に知らない事ばかりで、行く先々で色々と教えてもらいながらの旅ですよ」

「そういう出会いも縁だろうし、いつかどこかしらでその縁が活きる事もある。……この老いぼれとの縁も、何かあるかも知れんぞ?」


 そう言って、手に持った木製のジョッキを軽く持ち上げて、笑みを浮かべる。

 『情けは人の為ならず』だっけか? ……まあ、どうでもいいか。

 と、老人から空になったジョッキを預かり、カウンター内で作業をしている主人のもとに。



「すみません、これのお代わりをお願いします」

「はいよ。……そんな爺さんに付き合わなくたって良いんだぞ?」

「いえいえ、人生の先達たる方のお言葉ですからね」


 やれやれと言った感じで少し呆れ顔の主人だが、慣れた手つきで樽から蜂蜜酒をジョッキへ注ぎ、青々とした生の葉を一枚、ぱんと両手で叩いてからその上に浮かべる。

 


「あの、僕もそれを注文しても?」

「ん? お前いくつだ?」

「十二です」

「じゃあ、駄目だな。他所をあたんな」


 その言い方だと、他所なら出してくれる処もあるのかな? 

 そう言えば、飲酒に年齢制限があるなんて法律は覚えが無い……でも、ここの主人がそう言うなら従うべきだろうな。

 まあ、少し気になった程度で、そこまでアルコールは好きじゃないしね。



「それじゃ、僕でも頼める物で、先程のお茶とは違う物をお願いします」

「そうだな、……クッスラウの果汁でどうだ?」

「はい、それでお願いします」


 クッスラウが何かは分からないが、果汁と言うくらいだから果実を搾った物なんだろうけど……甘くて美味しい物だと良いな。

 

 

「合わせてお幾らですか?」

「小銅貨十五枚だが、本当に爺さんの分も良いのか?」

「ええ、それじゃここに置いておきますね」


 飲み物を持って席まで戻ると、老人の前に蜂蜜酒を置いてから俺も席へとつく。



「どうぞ、同じ物でよかったですか?」

「半分冗談のつもりだったんだが、すまんなあ」

「いえ、これも縁ですからね」


 半分は本気だったんだ。

 まあ、先程から徐々に増えている客全員に奢れとかじゃないし、これ位の出費なら大して痛くも無いし、気にする事も無いだろう。

 ともあれ、まずはクッスラウの果汁を一口…………んーーーっ、美味い!

 匂いで柑橘系なのは分かっていたのでオレンジジュースを期待していたけど、まさかレモネードとはね。

 蜂蜜に漬けたレモン(クッスラウ)を水で割った物だろうけど、この世界でも飲めるとは。

 まあ、色は赤に近いから俺の知っているレモンでは無いんだろうけど、問題は味の方だからな。

 後は炭酸水でもあれば最高なんだけど、炭酸水の作り方なんて知らないしなあ。

 とりあえず蜂蜜はあるから、レモン(クッスラウ)を手に入れたら自作しよう。それを魔法で冷やせば夏場も快適になるな。



「黙ったまま器を覗き込んで、どうかしたのか? 虫でも入っておったか?」

「いえ、クッスラウという物を初めて飲んだんですが、美味しさにびっくりしてました」

「そいつは良かった。まあ、クッスラウがこの領に入ってきたのもここ数年の事で、まだまだ珍しい部類ではあるがの」


 やっぱもっと温暖な土地の物なのかな? 王都や、そこから南下した交易都市に行けばもっと色々な物がありそうだ。



「――さてさて、ただで酒を奢ってもらう訳にはいかんし、どうするかのう……ふむ、これは(じじい)の『とっておき』を見せるとするかの」


 そう言ってポケットからサイコロを取り出し、テーブルの上に置く。



「こいつを一回振ってくれるかのう」

「はあ、……」


 言われた通りにサイコロを振ると四が出た。


「なるほどのう、……もう一回振っとくれんか?」


 再度振ると、今度は二だ。

 これで何かが起きるのか、何かが分かるのか。それは分からないが、まあ暇潰しの一種と考えれば良いだろう。

 飲み屋の姉ちゃん達を喜ばせる技かも……楽しみではあるな。



「ふむふむ、お前さんの探し人。もしくはその情報や手掛かりを持つ者が、昼頃に現れるようじゃな」

「えーっと、占いとかですか?」

「まあ、そんなもんじゃ。要はあまりふらふらしないで、ここで(じじい)の相手をしとるのが良いという事じゃよ」


 なんとも胡散臭い占いだなあ。それは爺さんが構って欲しいだけなんじゃ?

まあ、窓の外に見える影の感じではあと少しで真昼のようだけど……。



「それなら、昼過ぎ位までここで待ってみる事にします」

「賢明な判断じゃな。さて、次に問題となるのは暇の潰し方じゃが……何かないかの」


 俺に聞くのかよ……『何か面白い話ない?』みたいな無茶振りはやめて欲しいよな。そこは年の功で話題を提供する所だろうに。


 

「……『りばーし』か『しょうぎ』位ですかね」


 どちらも『収納庫』に入っているが、爺さんとの暇潰しなんてこれ位しか思いつかなかったよ。



「おお、『しょうぎ』か。あれは時間潰しにもってこいじゃな」

「それじゃ、ちょっと取りに行ってきますね」


 部屋に戻って『収納庫』から将棋セットを取り出して、また一階に戻る。

 しかし、何をやってるんだろうな、俺は。

 変な爺さんに付き合って酒を奢って、今度は将棋を……テンプレだと、あの爺さんが祖父ってのが落ちになるんだがそれは無いか。


 現役の領主がこんな所で暇を持て余しているわけが無いし、仮に引退していたとしても宿の主人が、領主や前領主を『爺さん』呼ばわりする事は無いだろう。

 他にも色々な可能性が考えられるけど……まあ、あれこれと考えても仕方ないし、サイコロ占いの結果も気になるし。

 今日一日くらい潰れても、西都までの期日には余裕があるから、今は流れに身を任せてみようかな。


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