62.ミミト
ミミト村に着いた翌日、宿で朝食を食べ終えてから、少し村を散策する事にした。
宿の主人の話では、この村にも規模は小さいが商業組合がある様なので、少し金を下ろしておこうと思う。
旅費は予め余裕を持たせてあったし、モルダイで卸した薬の代金もあったが、天幕などの装備品を買ったので多少心許なくなっている。
まあ、肉を買ったのが一番響いていると思うけど……。
そう言う訳で、通り沿いの店を見ながら、まずは村の中心部へと向かう。
村の中央には神殿があり、そこから四方に伸びる道によって大まかな区画分けがされている。トラル村と似た構造の村だが、何かを中心に配した開発じゃ同じ様な感じにもなるのも当然かもな。
まあ、そんな事はおいといて、とりあえずは神殿で祈らせてもらうか……トラル村以外の神殿って初めてだし、どんな感じなのかも気になるし。
それに『収納庫』に入っている神像に祈るのが日々の習慣になっているが、神殿があるならこちらを利用した方が良いだろうしね。
しかし、外観もだけど屋内もトラル村の神殿と同じ様な造りだな。
ただ、トラル村の神殿のように白い石造りではなく、村の建物と同じ様に全体的に茶色い材料で作っている感じだ。
「ようこそおいで下さいました、本日はどの様なご用件で?」
「神様にお祈りをしようと思いまして。……宜しいですか?」
「ええ、もちろんですとも。さあ、こちらに」
入ってすぐの所にいた職員に案内されるが、職員の服も茶色の占める割合が大きい。村と統一感でも出しているのか、それとも何かしらの理由があるのか……。
「あの、お聞きしたい事があるのですが」
「はい、なんでしょう」
「僕の村の神殿は全体的に真っ白だったのですが、こことの違いって何でしょうか」
「ああ、それは主として奉られている神様の違いですね。『白』は創造と万物の神アトエラ様の色ですから、奉られているのはアトエラ様という事になります。そして、ここは土と財貨の神テアル様を奉っておりますので、『茶』の色を使わせていただいているのですよ」
なるほど。
それなら、風と自由の神のベンク様をメインに置いた神殿なら緑なのかな……他にも黄色や黒もあるのか? なんか他の村に行く楽しみが一つ増えたな。
「他の神様の加護を持っていても、こちらで祈りを捧げて良いものなのでしょうか」
「ええ、問題ありませんよ。主としてテアル様を拝してはおりますが、元々どの神様も同列だと考えられておりますので」
同列と言うのは本で読んだ事はあるが、他の神殿は初めてだったので一応聞いてみたけど、知識通りに問題は無いようなので安心した。
ともあれ、何時も通りに寄付をした後に祈りを捧げて神殿を後にする。
最近は神界に呼ばれなくなったけど、『便りが無いのは良い便り』って事だよな。逆に、いつ呼ばれるかドキドキするけど、こればっかりは成る様にしか成らないから気にするだけ無駄なんだろう。
さて、次は商業組合か……と、神殿を出て周囲を見渡すが、それっぽい建物も看板も見当たらない。
大通り沿いにあるはずだと思うし、神殿の周囲を回りながら辺りを確認するがやはり見当たらないので、近場の屋台で聞いてみる事にした。
「すみません」
「はいよ、いらっしゃい」
「少し道をお尋ねしたいのですが、商業組合の場所って分かりますか?」
「なんだ、客じゃないのかい。それで組合だっけ? ほら、あそこの赤い屋根がそうだよ」
屋台のおばちゃんが指差した方向を見ると、確かに赤い屋根の建物が見える。
いちおう二階建てだが、いま泊まっている宿と大差ない大きさだ……。
「助かりました、ありがとうございます。お金を引き出したら、お礼がてらに買いに寄らせてもらいますので」
「はっはっは、期待しないで待ってるよ」
多少の所持金はあるが、もし引き出せなかったら困るから、買い物は後の方が良いだろう――。
「商業組合へようこそ、本日はどの様なご用件でしょうか」
「お金を引き出したいのですが、手続きをお願いできますか?」
「かしこまりました。それでは組合証と残高証明書、それと手数料の銅貨一枚をお願します」
残高証明書はトラル村で発行してもらった物で、他所の土地で金を引き出す為に必要な書類だ。
引き出せるのは預けてある金額の数割で、使用可能な期限と範囲が決められているから世界各国どこでもという訳にはいかないが、ネットやら通信網が整備されて無い世界じゃ仕方の無い事だよな。
「これでお願いします」
「お預かりします…………それではこちらに、引き出される額面と署名をお願いします」
俺の引き出せる限度額は銀貨四枚だけど、そんなには要らないよな……小銀貨三枚もあれば西都までなら十分事足りるだろう……でも、蜂蜜代も考えると四、いや五枚かな。
あ、二枚は銅貨でお願いしておこう。
「えーっと、これで大丈夫ですかね」
「はい、大丈夫ですよ。ただいまご用意させていただきますね」
いま口座登録しているのはトラル村の商業組合だけど、西都に着いたら、口座を移動させた方が良いかも知れないなあ。
三年だけとは言え拠点になるんだし、色々と手間も省けるんじゃないかな。
「お待たせしました、こちらが小銀貨三枚と銅貨二十枚です。ご確認下さい」
「はい、確かに」
「それでは新しく残高証明書を発行しますが、変更点はありますか?」
「いえ、特にありません」
有効期限は一年で、範囲はオロント領から西都までの街道沿いにある領となっているが、これは変更しなくても問題無いだろう。
「それでは、こちらが新しい残高証明書になりますので、間違いがなければこちらに著名をお願いします。それと限度額が下がっていますので、気を付けて下さいね」
「はい、ありがとうございます」
ふう、初めての事だったので少し緊張したけど、無事に引き出せたので良かった。
さて、次は蜂蜜屋か……。
「――それで律儀にまた来たのかい、馬鹿なのか真面目なのかどっちなのかねえ」
「いえ、それに元々買う予定だったので。これって、ここら辺で取れたものですか?」
「そうさ、あの山の中に集落があってね、そこで作っているのをこうして売りに来ているのさ」
あの山の合間にある村か……確かエスタが生まれた場所もあの辺りと言ってた様な。
それにしても拳大の壷で小銅貨三十枚、一回り大きい物でも銅貨一枚とは。
オロントよりもかなり安いし、養蜂でもやってるのか?
「そうでしたか。とりあえず小さいやつを一つ貰えますか?」
「はいよ」
自分用にも贈り物用にも使えるから少し多めに買っておきたいが、土地柄か文化的な物なのかは分からないけど味見用や試供品が無いから、とりあえず一個買って味見をしないと何とも言えないよな。と、蓋の代わりになっている紐と葉を外して、人差し指で……うん、美味い。
粘度は少し低めだけど、香りも甘さも十分だ。
「美味しいですね。そうだな……小さい方を十個と大きい方を四個下さい」
「そんなに買って大丈夫なのかい? そもそも、その鞄に入らないんじゃないかねえ?」
「革袋も持っているので大丈夫ですよ、それに買ったら宿に置いてきちゃいますから」
代金を支払って宿の部屋に戻ると、全てを『食料庫』に入れ、小さい壷十個を白パンとともに『神様ゲート(仮)』で神界へと送る。
確か甘い物が良いって言ってけど、蜂蜜だけ送るのもあれなので秘蔵の白パンも付けてみた。
送る際には、全ての神様に行渡る様に十個単位で送っているけど、何か問題があったら連絡してくるだろう。
さてと……、次はどうするかな。
資金の補充は済ませたし、ついでに買い物やお供え物も済ませたし。
各所で祖父の事を聞こうとも思ったけど、脈絡もなく領主の話を切り出すのもなあ。
と、部屋でじっとしていても進展は望めないだろうし、とりあえず下におりて早めの昼食を摘まみながら、宿の主人にそれとなく聞いてみるか……。
宿の一階は食事処も兼ねているので、すでに何組かの客が軽食を食べたり酒を飲んだりしており、俺もそこに混ざる事にした。
メッセージでの誤字報告を頂きました。ありがとうございます。




