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帰れなかった勇者の新・異世界生活  作者: 乙三
西都への旅編
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61.ヤトウ

 ヤトウ村に着いて早々に雑貨屋へ入ってみたけど、その店内の奥には食器や家具などが置かれており、その中の一角で目が止まる。



「これって何ですか?」


 この世界では初めて見るが、漆器(しっき)じゃないか? これ。


「ああ、他所から来た人には珍しいかもしれないが、それは樹液を塗ってあるのさ。材料は木だけど、そう言う加工をすると、水も染み込まなくなるし頑丈にもなるし、……まあ、ここら辺じゃ良くある普段使いの食器だな」


 (うるし)かどうかは分からないが、似たような物だろうな。

 よく見知っている、黒や赤で磨き上げられた漆器ではないが、どこか懐かしくも思える……というか、これをお土産にしろよ。



「これの一式ってどの位になります?」

「一式? ああ、皿とか椀とかまとめてって事か……えーっと、大中小の皿と椀に――」


 店主は店内を行ったり来たりしながら漆器を集めていき、俺もそれに付いて店内を見て回る。箪笥とか大型の物もあるが、今は買っても仕方ないから諦めよう……買って『収納庫』に入れておいても良いけど、道具は使ってこそだから、なんか無駄な気がするし。

 と、店内の漆器が粗方集まった様だ。



「こんなもんかな。えーっと……これが四十で、こっちが二十で――」


 そう言って足し算のみの計算を始める店主だが、二十点近くあるのに書かないで大丈夫なのか?


「よし、銅貨十一枚と四十だな」

「いえ、銅貨十三枚と小銅貨が三十五枚ですよ」


 案の定、間違えていた。


「え? あんた算術持ちか? なんだよ、早く言ってくれよ。そうしたら俺も計算しなくて済んだのに」


 算術? ああ、恩恵とか技能の事か。実は最近見て無いんだよな……いつかは確認して整理とかしたいけど、結構な種類があって見るだけでも疲れるんだよ。

 まあ、この程度の計算なら技能とか無くても出来るけど。


 それにしても、客に計算させるのは楽なんだろうけど、それはそれで不味いとは思うが……とりあえず代金の小銀貨一枚と銅貨四枚をカウンターに置く。



「あー、小銀貨か…………銅貨や小銅貨で無いか?」

「ああ、すみません。…………じゃあこれで」


 これは失念していた。小銀貨で支払われても、小さな村では使い辛いよな。街道沿いの街での買い物が多かったから忘れていた。

 が、手持ちでは足りなかったので、不足分の銅貨を財布経由で『収納庫』から取り出し、それで支払いを済ませる。



「悪いな、……ほい、お釣りだ」

「はい、確かに。……そうだ、ミミト村まで行きたいんですけど、今から行っても大丈夫ですかね」

「ミミト? 今って、どの位だ?」


 そう言って、天井……空を指差す。

 

「『風』の終わりくらいですかね」


 日の出から日没までを火、水、風、土、雷の五等分したのが日中の時間で、今は昼過ぎだから『風』の終わり頃となる時間帯だ。太陽の位置を当てはめれば良いだけだから簡単だけど、大らかと言うか適当と言うか……もう慣れたけどさ。



「それならギリギリだな。ミミトまで普通に歩いたら二時間半くらいは掛かるから、多少急げば今からでも日没までには着けるだろ」


 今の時期だと『一時間』は二時間と少し位のはずだから、『二時間半』だと五時間半って所かな。それなら少し走れば問題なく着くだろう――。



 と、そんな予想通りに日没前にはミミト村に到着し、今は村の入り口付近にある宿の一室で寛いでいる。

 しかし、これで目的の大半は果たした訳だ。

 両親も結婚の挨拶以来会ってないって言うし、単純計算でも長男のシーザーが生まれる前、つまりは二十年以上も会っていない事になる。

 そんな所に『僕だよ僕、孫のルクシアールだよ』なんて言っても、『おおそうか、よく来たな』ってなる訳が無い。

 家紋入りの短剣は持っているが、先程の台詞同様に祖父側からしたら詐欺の可能性も考えるだろうしな。


 そう言う訳で面会は望み薄だけど、遠目から見たり存命なのかの確認をしたりする事が出来れば、それだけでも上々の成果と言えるだろう。

 まあ、そう言う面倒な事は忘れて、晩御飯を楽しむとしよう。

 一応、今日と明日の宿は取ったし、観光も含めて明日から動けば良いよな。


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