56.モルダイ5
「――え? それじゃさっきので支払いが終わったって事なの?」
買い物の為、店舗の集まっている街道付近まで移動している最中、先程の事についてざっくりと説明をしているがヴェーラの驚きも仕方ないよな。
あんな三文芝居で金貨三枚の支払いが銅貨三枚になったんだから。
「はい、今頃はスミィさんにも男爵様が説明していると思いますよ」
「ルクス君が何かしたの? トリオを脅したとかー」
「僕は何もして無いですよ、気になった点を話し合っていたら解決への糸口がなんとなく見えて……最後はユアンナさんのお陰ですね」
「ルクスの言った通りに……動いただけ」
本当に何もしてないし、放置しててもあの男爵なら途中で折れてたんじゃないかな。
商業組合のハスリィも気付いていたから、時間が解決してくれたと思う。
「それよりも最初はどこに向うー? 御飯?」
「まだ日も出ているし、晩御飯には早くないかしら」
「あの、まずは僕の宿を決めたいんですけど」
「あのまま家に……泊まれば良いのに」
「そうだよー、わざわざ宿なんか取んなくたって良いのにー」
「さすがにそこまで甘えるわけには。それに一人で宿に泊まるのも色々と経験になりますし」
野営や宿に泊まると、今までどれだけ恵まれた環境にいたかが実感できるからな。
「あまり邪魔しちゃ駄目よ? こういうのは自分で経験しないと分からない物なんだから」
「本当にその通りで……天幕や飲み水の重要性とか、今まで気にしていなかった事が多かったですし」
魔法や『収納庫』とかの技能があるからか、ちょっと常識的な知識が掛けている気がするんだよな。
そう言う能力を活用して生きるのも良いけど、出来れは普通の知識を得た上で使っていきたい。
「そっかー、それじゃ仕方ないね」
「そのお心遣いだけ受け取っておきます」
「それじゃ……宿からだね」
「はい、よろしくお願いします」
宿探しには少し早い時間帯だけど、街の住人の紹介と言う事もあってか以前の様な宿泊拒否はされず、三人に案内された宿で無事に部屋を確保できた。
その後は天幕や水時計、革袋に水を入れ易くする漏斗など、旅の中で必要性を感じた物を、三人の助言も踏まえつつ揃えて行く――。
「うーん、こんなもんですかね」
「私が気付いた部分に関しては大丈夫かなー」
「うん、……私も」
「最初は、天幕は持ってないのに肌掛けは持っているって変な旅人だったから、これでその違和感も解消されるでしょうね」
これでも、頭の中では何度もシミュレーションして、出立前は完璧だと思っていたんだけどね。
買い物も終わったので一旦宿に戻り、買い集めた物を置き終える頃には日も落ちていた。
「さーて、あとは御飯だねー」
「どこにしましょうか……穴熊亭? 緑蝶亭?」
「屋台や……露店と言う手も」
出来れば土地の物が良いんだけど、こういうのは地元の人に任せよう。
「でも、ルクスは荷物を取りに戻るから、あまり遠くじゃない方が良いかしら」
「それならさー、材料を買って家で食べない?」
「うん……賛成」
俺のせいで外食が……。
「あの、僕の事は気にしなくても大丈夫ですよ?」
「いいのいいの、食事なんて物はどこで食べるのかよりも、誰と食べるかなんだから」
「それじゃ私は先に戻って、家で食べるって伝えておくからー。……あ、お肉をよろしくー」
と、エスタは走って先に帰ってしまった……なんと言うか、行動が早い。
俺達は俺達で子供十二人分、大人五人分の食材を買い込んで持ち帰り、そのまま調理を。子供達の喰いっぷりを見るに、少し多めに用意したつもりだったが、まったく問題無さそうだな。
「――それじゃ、ジユガリナ山の中にも村が?」
「そうだよ、ロクトって所なんだけどねー。コトアナ領の北端から歩いて十日位かなー」
話の流れからエスタの出身地の話になったが、山間部にも地図に載っていない村が何箇所かある様だ。
エスタはその中のロクト村の出身だが、七歳の時に両親が流行り病で亡くなったので、ここに引きとたれたらしい。
ユアンナも同じ様な境遇で、十歳の時にここに来た様だ。ヴェーラに至っては物心が付いた時にはここに居たらしいので、両親も出身も分からない様だ。
……皆それぞれだが、なかなかハードな人生を送っているんだな。
◆
「それじゃ、ご馳走様でした。それと道中でも色々と教えて頂いて、ありがとうございました」
食事も終えたので宿に帰る際、これまでの感謝を改めて告げる。
最初は乗り気ではなかったが、経験してみると楽しい部分もたくさんあったし、自分の未熟さも痛感し学ぶ事も多かったからな。
「明日はどの位に発つの? せめて見送り位はしたいのだけど」
「宿で朝食を食べてからなので、いつもと同じ位ですよ」
さっきの買出しの際に野営用の材料も買ったので、明日は買い物をしないでそのまま発つ予定だ。
「分かった……間に合うように行くよ」
「はあー、ルクス君ともお別れかー」
楽しかった反面、寂しくもあるが、ここにずっと居る訳にはいかないからな。
まあ、今生の別れと言うわけでもないんだから、学校を出たら一度寄ってみるのも良いかも知れない。
宿に着いてから体を拭き、買った荷物を背負子に括っていく。
見た目は悪くないが……と、一度背負って前後左右のバランスを確認するも問題はない様だ。
これで旅支度は整ったので、あとはエスタとヴェーラへの贈り物か……。
晩飯の最中、ユアンナにだけ調合の道具をあげた事が少し話題になり、『ユアンナだけ良いなあー』なんて言葉が俺に刺さったままになっている。
もちろん、そこまで本気で言っている事では無いと分かってはいるが、どうも心持が良くないんだよな。
とりあえず手持ちの物で、何が用意できるか考えないと――。




