54.モルダイ3
「ルクス、こっちよ」
「早く来ないと置いてくよー」
荷物を置かせてもらう為に『紫の花』の拠点に来た訳だが、なぜか空き部屋に置かせてもらう事になった……。
背負っている物だけなんだから、玄関の片隅とかでも良かったんだけどな。
「そうだ、ユアンナさんに渡す物があるんですけど」
「……なに?」
「調合の道具ですよ。これからも必要でしょ?」
「必要だけど……でも、ルクスはどうするの?」
「僕は自分で作れますから。そもそも、いま使っている物だって自作品ですからね」
「……でも……」
「良いじゃない。くれるって言うのだから、素直に貰えば良いと思うわよ」
「…………分かった」
ヴェーラの助け舟もあって、ユアンナは受け取る事にしたようだ。
子供たちも居るんだし、薬のレベルを維持して収入を確保する事も必要だろう。
…………。
『なにこいつ、……少し優しくしたら贈り物って……勘違いとか超キモい……』
ぐっ、……ありえる可能性を想像してみたが、結構ダメージがくるな。
……ネガティブに考えるのはよそう。喜ぶかは別にしても、今後役に立つ事は間違いないんだから。
ともあれ、ユアンナの部屋に案内され、そこで旅の最中にも使用していた調合道具を取り出す。
舟形の器と車輪の様な物で薬草を細かくする、日本では薬研と呼ばれていた物に、天秤と分銅にも似た基準となる錘一式。
後は乳鉢と乳棒に、調理器具としても使われている、混ぜるのに便利な木製のボールに、耳掻きを大きくした様な匙……こんなもんかな。
「これ、……全部?」
「ええ、道中でも使っていたし、使い方は分かりますよね」
ここからは一人旅になるから、調合をしている暇なんて無いと思うし、必要になったら手持ちの物やそこら辺の材料で作れば良いだけだしな。
それに初めての調合仲間だし、多少は目を掛けたくなるのも仕方ないだろう。
「ルクス、ありがとう。……本当に……ありがとう」
と、ユアンナは抱きついてきた……役得役得。
まあ、旅をしてきたままの格好なので若干獣臭いが、それは俺も同じだろうから気にしないとしても、せめて革鎧は脱いでからにして欲しかったな……嬉しさ九割減だよ。
いつまで続くんだろうと思った抱擁も、ヴェーラの咳払いで終わりを迎え、俺はユアンナの部屋の隣にある空き部屋へと案内された。
「それじゃ、準備が終わったら玄関の所に集合ね」
「はい、わかりました」
「また後でねー」
準備と言っても、背負子を降ろして剣帯から鉈を外す位なんだよな。
ここで時間を潰していて集合に遅れるのも嫌だし、先に玄関に行って、そこで待たせてもらう事にするか。
平行に並んだ二棟の倉庫をくっつけた様な形状なので、玄関まではそれなりの距離があるけど、道順は覚えているから大丈夫だろう……と、玄関に到着すると、来客中なのか話し声が聞こえる。
「――ですから、期限は無いという事に……」
「契約した父が亡くなったのですから、早々に払って頂かないと、こちらとしてもですね――」
この声はスミィさんと……例の借金取りかな?
こういう場合はどうするのが正解なんだろうな。
創造神様が前の世界から引き継いでくれた金もそのまま残っているし、金額によっては肩代わりする事も吝かでは無いが、他人の俺が首を突っ込んで良い物かどうか……。
「そう言われましても、すぐに用意しろと言うのは無理ですし」
「ですから、払えないのであれば、出て行ってもらうしか無いと言っているのですよ」
まあ、ユアンナの調合もそうだけど、こういうのも何かしらの縁なんだろうな。
とりあえずは俺に出来る事をやるだけだ。




