49.野営
荷物を纏めて宿から出ると、すでにヴェーラが待っていた。
他の二人は準備に梃子摺っているのかな?
「早いですね、ヴェーラさん」
「私は宿でもあまり私物を広げないからね、二人は……特にユアンナは調合関係の物を出していたから、まとめるのに手間取っていたわ」
そう言ってヴェーラは笑みを溢すが、それは意地悪ではなく、不出来な妹を見守る姉のような心境なのだろうと表情から見て取れる。
確か十九歳だったか……この歳で下の子を纏めるのも大変だろうが、この気負わない姿勢は見習うべき所があるな。
「あの、ルクス。いい機会だし少し良いかしら?」
「はい、なんですか?」
「そのね、そう言う年頃だというのは理解しているけど、もしうちの子に手を出す時は一言いってくれると助かるの……」
「…………はい?」
「いえ、もしもの話よ? いちおう私もあの子達の隊長だから監督責任もあるし、急に子供とか言われたりしても隊の運営に支障があるかもしれないし」
なんだ? ヴェーラってポンコツ設定だったのか?
でも、十歳で半成人、十五歳で成人の世界ではありえない事でもないのか……な。
「そんな気はまったくありませんが……もしもの時はそうしますよ」
「…………まったく無いの?」
「そうですね……、このあと西都に行かなきゃいけないし、成人して自立している訳でもないので、そんな半端な事は出来ないですよ」
というか、この世界の常識としてはどうなんだろうな……遊びとか一夜限りとかも問題ないのか? 同年代の知り合いがいなかったので、そう言う知識がさっぱりだ。
学校出たら冒険者として色々な所に行ってみたいが、もし所帯を持ったらどうすれば良いんだろう…………ふむ、分からない事がどんどん増えていくな。
誰かに聞けば良いんだろうが、さすがに女性に聞く事でも無いし――。
「おまたせー」
「なんか……一気に疲れた」
「よし、揃ったわね。それじゃ行きましょうか」
エスタとユアンナが来たので話は打ち切られたが、不足している知識があると分かっただけでも良しとするか。
その後は、水や食料など必要な物だけを買い、早々に次の宿場のヘイダムへと発った。
この即席パーティのリーダーはヴェーラが務め、彼女の計画では野営を二回挟んで、三日目の昼過ぎにはヘイダムに到着する予定だ。
どうもヘイダムは宿屋が少ない様で、早い時間に到着しないと部屋が取れないらしい……そんな場所もあるんだな――。
「――じゃあ、未開拓地で?」
「はい、薬草の他にも小さい動物とかを――」
退屈な道中の暇潰しなのかは分からないが、歩きながらも結構な頻度で会話をしている。
俺への質問が多いのは、新しい話題提供者として仕方の無い事なのかもな。
「でも、未開拓地って危ないんでしょー? 何年か前にも亜人がたくさん出てきたって話がなかったっけ?」
「私、それ知ってる……亜人の氾濫を食い止めようとした村の少年の話でしょ」
「そうそれー、ルクス君は何か知らない?」
ええ、それは僕です。とは言えないので適当にはぐらかしたが、祖先の英霊とかのお陰って事になっていたはずじゃ?
まあ、こういうのは尾ひれがついたり、勝手にドラマ性が追加されたりする物だからな。
その内、うちの祖先は実は不遇の騎士だったとか、亜人たちの侵攻も裏では魔王がとか、どんどん着色されていくのかもね。
そんな他愛の無い会話をしながらも、数度の休憩を挟み、日が暮れる頃には本日の野営地へと辿り着いた。
ここに付くまでにも何箇所かあったが、道の両側に馬車数台なら止められる位の広さが確保されていて、その場を借りて野営をする様だ。
すでに数人が野営の準備をしており、俺達もそれに習って荷を降ろす。
「他にも人が居るんですね」
「そうね、こういう野営地では良くある事なのよ」
「ほらあれだよー、一人一人がばらばらで居るよりも、まとまっていた方が安心でしょ?」
なるほど……でも、俺が襲う側だったら、獲物が集まっててラッキーだと思うだろうけどね。そもそも何に襲われるんだ? 野生の動物とか盗賊の類か?
「動物や魔物もだけど……人攫いとか強盗とか……単独の野営は結構危ない」
俺が考え込んでいたのに気付いたのか、エスタの話にユアンナが補足説明をしてくれた。あれだけ文明が発達した地球でも、誘拐や強盗事件は日常茶飯事だったから備えるに越した事は無いか……。
念の為、魔力探査で周囲警戒だけはしておくかな。




