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帰れなかった勇者の新・異世界生活  作者: 乙三
西都への旅編
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47.紫の花

「騒がしくしてごめんなさいね」


 三人組の一人と目が合い、軽い感じの謝罪を受けたが、そんなに目くじらを立てる様な事でも無いので謝意を受け入れる。

 こんな些事で争った所で詮無い事だからな。



「いえ、同じ宿に泊まるんですし、多少なら構いませんよ」

「あまり大声を出したりはしないよう様に言い聞かせるから、そこまでは迷惑を掛けないと――」

「あーっ! ヴェーラが珍しく男と話をしてる!」

「エスタ…………本当にごめんなさい」

「ねえ、何の話をしてたの? 口説いてたの?」

「……あなたが騒がしくてごめんなさいって謝っていたのよ」

「え? そんなにうるさかったかな」

「まあいいわ、とりあえずジールちゃんも待っているし……謝罪も後でね」


 と、こちらに目配せをした後に、荷物を持って宿になっている二階へと上がって行く。

 まあ、騒がしいのは嫌いじゃないし、今夜一晩の事なんだから我慢も出来るだろう。

 そもそも、そんなに関わる事も無いだろうからな。


 少し邪魔が入ったが、食事の続きを楽しんでいると上から先程の三人が降りてきた。

 当然と言えばそうなのだが、全員革鎧を脱いでラフな格好になっていた。

 ……少し目のやり場に困るな。



「さっきは慌ただしくしてごめんなさいね」

「ゴメンねー、どうも私はうるさいらしくてさー」

「いえ、本当に気にしてないので大丈夫ですよ」


 三人は俺の使っているテーブルの隣に腰を下ろし、注文の品が来るまでの時間をお互いの自己紹介に当てる事にした。



「私はヴェーラ、十九歳で『紫の花』のリーダーをやっているわ。四等級の冒険者よ」


 最初に謝ってきた人はヴェーラと言うらしい。

 焦げ茶の髪を後ろで一つに纏め、前髪を紫のヘアピンで留めている。

 女性にしては筋肉質でがっしりとした印象だ。


「私はエスーティア、エスタって呼んでね。十八歳で五等級の冒険者だよ、よろしくー」


 うるさいと評判の人だな。

 肩ほどまでの明るい茶髪で、ヴェーラと同じヘアピンで前髪を耳の上辺りで留めている。

 さっきから視界に入ってしまうが……胸があれだ。

 

「最後になったけど、ユアンナです。……十六歳で五等級の冒険者…………かな」


 オロント領では見なかったが、俺には馴染みのある黒髪だ。ショートカットって言うのもポイント高めだよな。

 そしてヘアピン。これは『紫の花』の隊章みたいな物なんだろう。

 先程の装備から弓使いらしいが、なんだか独特な間がある子だな。

 


「今は三人だけど、あと二人を合わせた五人で『紫の花』っていう隊を組んでいるわ。改めてよろしくね」


 本来は五人組なのか、今回はお留守番かな? ともあれ、俺も自己紹介しないと。



「ルクスです。十二歳で、僕も五等級の冒険者です。よろしくお願いします」

「え? ルクス君も冒険者なの? 普通の旅行者かと思ったよー」

「はい、十歳で組合に登録して、今は二年目になります」


 ポケットから階級章を取り出して一番近いヴェーラの前に差し出すが、未だに信じられないと言った感じで顔を覗き込まれる。

 階級章は常に付けていれば良いんだろうけど、なんか気恥ずかしいんだよな。

 子供の癖に、なんて思われるのも嫌だし――。



「――なるほどねー、それじゃ目的地はヨクシア?」

「そうですね、とりあえずそこまで行って考えようかと」


 三人の料理が運ばれてきた後も雑談を続け、今は俺がこの村に居る理由を話していたところだ。

 最終的な目的地は西都だが、ひとまずの目的地を祖父母のいるコトアナ領に設定している事は話した。

 貴族学校の件は伏せてあるが、嘘は吐いていないし、もしばれた時は素直に謝れば良いだろう。



「それにしても十二歳で五等級とはね、エスタやユアンナなんてすぐに抜かれちゃうんじゃない?」

「組合に貢献って言われてもさー、依頼こなす位しか無いじゃん!」

「……私は薬を卸して地道に点数を稼いでいるから、もうすぐヴェーラに追いつと思うよ……多分」


ユアンナは調合もするのか。弓での援護と回復を兼任は大変そうだな。

しかし、他人(ひと)の調合か……ちょっと興味がある。



「僕も薬を卸していたから昇級が早かったのかも」

「え? ……ルクスも調合するの?」

「はい、とは言っても簡単な常用薬しか作った事はありませんが」


 うちの近所で取れる薬草じゃ、簡単な薬しか作れなかったからな。

 未開拓地の森には珍しい素材もあったが、他の材料が足りなくて結局は常用薬しか作れなかった。



「あの……あとで部屋に行っても良い?」

「えー、じゃあ私も行こうかな」


 え? ユアンナとそんなフラグ建てたっけ?

 それにエスタも!? なんだ、モテ期到来か? ……俺、明日死ぬのかな。



「ちょ、ちょっと二人とも?」

「違う……そういうのじゃなくて、……調合の話がしたくて」

「なーんだ、それじゃ私はいいかなー」


 まあ、どうせこんな事だろうと分かっていたけどね。

 部屋の行き来だけで勘違いして……地球での経験が役に立ったな……うん。



「ええ、あまり遅いと困りますが、大丈夫ですよ」

「そう? ……良かった」


 料理も食べ終わり、ユアンナは一旦部屋に戻る様なので、俺も部屋に戻って必要そうな物を『収納庫』から取り出して置く。

 少し経ち、扉をノックする音がしたので「どうぞ」と返せば、勢い良くエスタが入って来た。



「おじゃましまーす」

「失礼するわね、大勢で押し掛けてごめんなさい」

「ごめん、……結局みんな来ちゃった」


 まあ、一対一よりかは気が楽か……部屋が凄く狭いけど。


「早速だけど……これ、私が作った薬なんだけど……品質が上がらなくて……」


 なるほど、アドバイスが欲しかったのか。と、葉に包まれた粉末薬を見るが、『鑑定』を使うまでも無く低品質の物だと一目で分かった。



「これの作り方はどこで?」

「村のおばばが作っていたのを、見様見真似で……やっぱり駄目?」

「えっと……はい、たぶん一から学ばないと駄目だと思います」

「…………そっか、例えばどこが駄目? ……すぐに治せる?」

「まずは乾燥のさせ方ですね、葉を乾かす時は広げて乾かさないと、塊になったり(むら)になっちゃうので」


 と、用意しておいた、乾燥させただけの薬草を見せる。

 ユアンナの薬は、粉とは言い難いほど粗い物ではあったが、何よりも乾燥の工程で問題があった。



「乾燥させると……くるって丸まらない?」

「網とか糸で固定して、丸まらない様にして乾燥させるんですよ」


 その後は粉末にする方法や割合を計る方法など、手持ちの本を見せながら本当に一から教える事となった。

 ユアンナは文字があまり読めないので俺が読み聞かせていたが、それでも一夜(ひとよ)で学べる量じゃなかった……。



「ねえ、お二人さん、そろそろ……」


 そう、区切りを見計らって言うヴェーラの目線の先には、俺のベッドで横になっているエスタが。最初の頃は、俺の剣帯に装備してある鉈などに興味を示していたんだがな。



「それじゃ終わりにしよっか」

「……うん、分かった。……今日はありがとう」


 寝てしまっているエスタをヴェーラが背負い、ヴェーラが持ち込んだ酒をユアンナが持って部屋を出て行く。

 なんとも騒がしい夜だったなと、蝋燭を消しベッドに横になる。

 と、何やら寝具とは異質な匂いが……思い当たる事といえばエスタの匂いか…………ふう。


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