46.カルベイ
ルッキラから少し離れると、周囲は見渡す限りの麦畑となり一気に穀倉地帯といった風景になった。道の両側には、区分けする為の簡易的な木の柵があるだけで、牧歌的という言葉がぴったりだ。
しかし、長閑だなあ…………なんて思っていたのも最初の方だけで、太陽が頭上に来る程度は歩いたのに、風景がまったく変わらないのは精神的に結構くるな。
いや、退屈だと駄々を捏ねるガキじゃないんだから、こういう風景を楽しむくらいの余裕は持たないと。
…………。
…………そうだな、最近は運動不足気味だし、少しランニングでもしながら景観を楽しむとしよう。
なんて言い訳を自分にしつつも、二日の距離、およそ六十キロを走破して、日没頃にはルッキラの次の宿場であるカルベイに到着していた。
休憩すらしなかったので、ルッキラで買った食料は手付かずだが、『食料庫』に入れておいたので無駄にはならないだろう。
しかし、こうも堪え性が無かったとは自分でも驚きだ。確かに、早く他の土地に行って、色々な物を見聞きしたいという思いはあるが、ここまでとはね。
と、今日の宿の一階にある飲食屋で揚げチポリを摘まみながら、一人反省会をしている。
そうだな……、ここから目的地であるコトアナ領までは宿場の間隔が三日になるので、一日で走破する事は禁止にしよう。
三日って事はおよそ九十キロだから、どれだけ退屈だったとしても、せめて一日の移動距離は半分の四十五キロに抑えるかな。
そんな事を考えている内に、手元の皿が空になったので追加注文をする事に。
「女将さん、パンとスープと……ギットの漬物って言うのをお願いします」
「はいよ、パンは黒と茶があるけど、どうする? 黒が小銅貨一枚で茶が二枚だけど」
「それなら茶パンでお願いします」
ギットは確かキンピラみたいな味の物を食べた事があったと思うが……リトナも居たから村の屋台か?
冒険者組合の本にも載ってなかったから、採集対象じゃ無いのかもしれないが……まあいいか、そういう足りない知識も西都に行けば埋まるだろう。
「お、おまたせしました、小銅貨六枚になります」
「うん、ありがとう。はいこれ、一枚は手間賃に取っておいてね」
チップ一枚を加えた計七枚の小銅貨を、料理を持ってきてくれた女主人の娘さんに渡すが、手付きを見るにあまり慣れていない様だ。
まだ十歳くらいだから、手伝いを始めたばかりなのかもな。
さて、それよりも今は飯だ、暖かい内に食べないと勿体無い。
壁に掛かったメニューには『スープ』としか書かれてなかったが、干し肉とネギを煮込んだ物のようだ。香辛料が効いていて美味いのだが、もうちょっと他の野菜入れてくれれば良いのにな。
それと、前に食べた物とは違う味だが、ギットの漬物も甘じょっぱい味付けで良い感じだ。きっと御飯にも合うだろう……くそっ、御飯と味噌汁が食べたくなる味だ。
米はこの国の東部で作られていると言う情報は得ているが、味噌はまだ見付けてないんだよな。
ギットの漬物は塩漬けっぽいけど、酒類やパン、チーズとかもあるから発酵という概念自体はあるので、味噌や醤油もどこかにあっても良いはずなんだが。
材料は分かっていても製造工程までは知らないし……やっぱり、どこかで売っているのを見付けるしか無いか。
パンに漬物を乗っけて食べてきたが、やっぱり違うよな……。
「あれ、珍しくお客さんが居るー」
「こら、エスタ。失礼なこと言わないの……女将さん、またお世話になりたいんですけど部屋は空いてますか?」
なんとも失礼な第一声で入ってきたのは、三人組の冒険者の様だ。襟にある階級章を見るに、一人は四等級で二人は俺と同じ五等級らしい。
「また二人部屋で良いのかい?」
「はい、お願いできますか? 食事もここで取りますので」
「はいよ、ジール、案内してあげな」
そう言って、娘のジールに鍵を投げる。
二人部屋に三人か、……節制しているんだろう。
しかし、戦士風が二人に弓兵が一人か、あと一人中衛か後衛が欲しい所だな。などと、考えているとその内の一人、四等級の人と目が合う。




