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帰れなかった勇者の新・異世界生活  作者: 乙三
西都への旅編
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45.ルッキラ

 スエイ村を後にして少し、日もだいぶ傾いてきた頃にはルッキラが見えてきた。

 国が管理する街道沿いにあるから『街』なだけと聞いていたが、ざっと見た感じでは宿屋がメインの宿場町で規模的にはスエイ村と大差ないんだな。

 とりあえず、今夜の寝床を確保するために適当な所に入ってみたが……。



「あの、一人なんですけど泊まれますか?」

「いらっしゃい…………ああー、すまねえが、満室なんだ。悪いな」

「いえ、お手数を掛けました」


 と、何軒か回ってみたが、理由は分からないが宿泊拒否が相次ぐ。……いや、本当に満室と言う可能性も否定は出来ないけど。

 なんだろう、前世がぼっちの勇者だった影響か? 子供だから駄目なのか?

 仕方ないので食事が出来そうな所を探して、少し早めの晩飯を取る事に。



「――すみません、食事って出来ますか?」

「空いてる所に座わんな」


 はあ、食事は何とか取れるようだ。

 いざとなったら『食料庫』に入ってる食材を使って自炊し、土魔法で小屋を作れば良いんだけど、宿屋のある場所でそれは寂しすぎるよな。



「またせたな、注文は決まったかい?」

「あー、茶パンと肉炒めと……お茶をお願いします」

「はいよ、銅貨一枚だ」


 支払いを済ませて、後は料理が出てくるのを待つだけだ……。

 そうだよ、まずは食事をして食欲を満たそう。暖かい物でも食べれば、嫌な気分も晴れるだろう。

 ……しかし、初日からこれか――。



「おまたせ、茶パンと肉炒めとお茶な」

「はい、ありがとうございます」

「……なんだ、坊主。元気が無いな、一人か?」


 一人で悩んでても仕方ないので、この人に聞いてみるか。


「ええ、西都まで行く予定なんですけど…………あの、僕が宿を取れない理由って分かりますか?」

「あ? 宿なんてそこら中にあるだろう……ああ、そうか、時間が悪いな」

「時間ですか?」

「ああ、これから商隊とか大口の客が来る時間だから、できるだけ部屋を空けときたいんだよ。せっかく大口の客が来たのに、一部屋足りなくて逃したらって考えてるんだろうさ」

「……そうなんですかね」

「なんだよ、そんな事でしょぼくれてたのかよ。ちなみに、(うち)の二階は宿になってて、一人客も歓迎だがどうする?」

「え? ぜひお願いします」

「もしかして旅の初心者か? 飯屋の二階はたいてい宿になってるから覚えときな。まあ、普通の宿屋よりは割高になっちまうが、部屋数が少ない分、少人数でも受け入れてくれるからよ」

「はい、ちなみにお値段の方は……」

「一泊銅貨二枚で朝飯付だ。足りそうか?」

「はい、大丈夫です。それじゃあ、いま支払いしちゃいますね」


 ふう、なんとか宿が確保できたが、まさか時間とはね。

 俺個人への攻撃じゃなくて安心したよ。

 確証は無いけど今はそれを信じよう……というか信じたい。



 食事を終えて部屋に荷物を置き、軽装になった所でルッキラを散策してみる。部屋に居てもネガティブな考えしか出てこないし、楽しい事の一つでもあればこの街も好きになるだろうさ。


 外に出てみると、すでに日は落ちているが道は人で溢れ屋台も数箇所に建ち、俺がここに来た時よりも賑わっている様に見える。



「おう、さっきの坊主じゃないか、部屋に空きが出来たけど良かったら泊まるか?」

「すみません、もう決めちゃったんで」


 全てとはいかないが、数軒の宿屋で同じ様な事を言われた……どうやら宿の主人の時間説は合っていた様だな。

 しかし、時間か……まだまだ知らない事ばかりだが、旅は始まったばかりなんだから、こういう事も少しずつ覚えていけば良いか。


 特に目新しい物も無いし、何より夕食を食べたばかりだったので何も買わずに宿へと帰ってきた。



「ご主人、蝋燭と体を拭く水ってあります?」

「おう、蝋燭は小銅貨三枚、水は(おけ)一杯で小銅貨二枚だがどうする? もちろん部屋まで持っていってやるぞ」

「それじゃ、両方お願いします」


 カウンターに小銅貨五枚を置いて部屋に戻ると、すぐに蝋燭と桶を持ってきてくれた。


「蝋燭は買い取りで、水は使い終わったら廊下に出しておいてくれりゃ良いからな」

「はい、ありがとうございます」


 扉の鍵を掛け、部屋の空気を入れ替えるために窓を開けると、喧騒とともに心地良い風が入ってくる……そして蝋燭の火が消えた。

 …………頭悪すぎだろう、俺。


 面倒なので蝋燭はそのままに、まずは体を拭く事にする。疲労感は無いものの、水のひんやりとした温度が気持ち良いな。

 着替えも済ませたので、明日からの計画でも立てるかな。と、蝋燭には魔法で火を点けなおし、机の上で地図を広げた。


 ここ、ルッキラからは道が四方に伸びている。一つは北西、今日通ってきたオロント領へ向う道。もう一つは北東、これはリトナの故郷のヒキト村や迷宮都市の方へと続いている。

 今回は北に行っている余裕は無いので除外するが、迷宮都市……甘美な響きだよな。


 残りは南東と南西の道だが、貴族が西都や王都に行く場合は南西の道が順当なようで、父にもこちらの道を進められた。

 ルッキラから南下し、ムスクラという街まで行けば、そこからは主街道と呼ばれる道があり比較的安全な旅路が整えられているからだ。

 主街道は王都を中心とした十文字の道で、この国の東西南北を結んでいる。石畳で舗装され道幅も広く、三十キロごとに宿場が置かれ王軍が巡回している。


 普通ならばその道を使えばいいんだけど、今回は母方の祖父母のいるコトアナ領にも寄りたいので、南東の道を行く事にする。

 主街道に比べたら、宿場もだいたい三日に一箇所といった具合で治安的にも不安だが、……まあ、何とかなるだろう。

 それに実距離ではこっちの方が近いし、そのぶん寄り道する余裕も増えるからな――。

 


「……おはようございます」

「おう坊主、随分とゆっくりだなあ」

「ははは、良く眠れました。顔とかを洗いたいんですが水場とかってあります?」

「ああ、便所を通り過ぎた奥に井戸があるから、そこでやってくれ」


 トイレで用をたしてから言われた通りに進むと、外に出た所で小さな井戸があった。

 井戸の使用料も小銅貨二枚か……。

 

 顔を洗って中に入ると、朝食が用意されていたのでそのまま食べ、部屋に戻って身支度を整える。



「あ、これ、井戸の使用料です」

「おう、律儀なこって。たいていは誤魔化して出て行くんだがな」

「さすがにそれは……」


 こっそり出て行けばバレないだろうけど、こういうのって心に引っ掛かるからな……俺の場合。

 ともあれ、「お世話になりました」と伝え、宿を後にした。

 

 さて、どうするか……特に珍しい物は無いが、昼用に何か買っていくか?

 ここから南東の道へ進む事になるが、次の宿場までは二日の距離だから、昼もだけど今夜と翌朝の分も買っておいた方が良いかも知れないな。

 と、少し多めの食料を買い込んで、次の宿場『カルベイ』へと向う。


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