43.次の一歩
「お父さん、お母さん、ただいまー」
「おかえり、ルクス」
「お帰りなさい。あら、今日はずいぶんと荷物が多いのね」
「ほら、なめしを頼んでおいた革とかを受け取ってきたんだよ」
そう言って、数年前の俺ならすっぽりと入るくらいの袋から数枚の革を取り出す。
冒険者になってから二年と少し、等級も五に上がり未開拓地で狩りもする様になった。
この毛皮もその副産物なのだが、自分で使う事があまり無い為、どんどん溜まる一方だ。
「まだこれだけの量を溜めていたのかい?」
「他にも作業途中の物もあったけど、作業費用の支払いと相殺してきたから、これで全部かな」
他の冒険者……最近良く一緒に行動しているホッゾ達は、そのまま組合に売ってしまうが、俺は革に加工している。
金に困ってないからというのもあるけど、なんか勿体無いという気持ちが大きいんだよな。日本に居た時も『いつか、使うかもしれない』と、取っておいた物が結構多かった……結局、あまり使わないんだけどね。
それでも、森の中を歩く為の膝下まであるロングブーツや、ミトン型ではない五指の分かれた手袋など、それなりに必要な分は消費している。
「僕の必要な分は取ってあるから、部屋とか倉庫にある物は、素材にしたり売ったり好きにして良いからね」
「……残しておかなくて良いのかい?」
「うーん、帰ってきて必要だったら、また狩って来れば良いだけだし」
あと数日したら、俺も貴族学校に入るため西都へと行かなきゃならない。卒業した後も一度は帰ってくる予定だけど、その後は旅に出ようと考えているから、この毛皮とかも不要な物となってしまう……それに『収納庫』にもいっぱい入っているし。
「準備の方はどうなの? 不足している物とかは無い?」
「大丈夫だよ、お母さん。薬は納品したし、毛皮も取ってきたし……」
冒険者組合と商業組合に関連した物は今日で片付いたし、……風呂や魔道具関連はリトナとノグマス、それに新しく入った使用人二人も鍛えたお陰で、維持をするだけなら問題ないレベルになっただろう。
革の扱いも話したし、俺が買った服とかも子孫達へリサイクルされるだろう。
「薬とか毛皮とかではなく、ルクス自身が使う物で不足している物は無いの?」
「……僕自身?」
「歩いていくなら、それ相応に必要な物もあるでしょうし、西都に着いたあとにも学校で必要な物もあるでしょう?」
「うーん……」
西都までは徒歩で行く予定なので、エルバ・ドラッツ親子とベルナールに必要な物の製作は頼んだが、それも先日取りに行って来たし……。
ついでに、祖父母や知り合いにも西都に行く事を伝えたので、問題は無い。
中敷を厚くした靴に、耐水のマント。その他、着替えや野営用の物も揃えたし、旅支度は問題ないはずだ。
学校の方も教材や制服一式は貸し出してくれる様だし、寮なので寝床も食事も問題ないだろう。送られてきた書状を見るに、身一つで行っても問題の無い待遇の様だしな。
「思い付いた物は一通り用意したし、特に無いかな?」
「何と言うか、本当にいつも通りだな、ルクスは」
「シーザーもディルも、もっとあたふたと慌てていたものだけれど」
「僕の場合は冒険者としての経験があるからね、それに資金も魔法もあるし」
俺が学校に入ると、使用人が居るとは言え両親だけになってしまうので、二人の暇潰しも兼ねて将棋を作ってみた。駒の名前に関しては騎士や魔法使い等、こちらの世界に馴染みのある物に変更はしてあるけど。
で、もちろん登録して、その利益が商業組合にある俺の口座に振り込まれている。
残高の証書があれば、他の土地に行ってもそこの支部から現金を引き出せるので、旅費には困らないだろう。
それに、物資にしろ資金にしろ、いざと言う時には『収納庫』の物を使えば良いだけだしな。
「心配事があるとしたら、あとは天気くらいかな。出立の時くらいは晴れて欲しいからね」
先日も酷い雷雨で、用水路が氾濫しかけたからな……さすがにあの中を歩いていくのはゴメンだ――。
◆
「はい、王手」
「…………はあ、また負けか」
「あなた、この騎士は動かさない方が良かったわね」
「そこは悩んだんだよ……でも、ルクスは何時も通りに歩兵を動かすと思ったんだ」
「僕の歩兵は優秀だからね、だから囮にもなるんだよ」
「ルクスが学校へと出立する前に、一度は勝ちたかったんだがな……」
あれから数日が経ち、俺が西都へと発つ日も明日となった。
不安だった天気も、夜空や空気の感じから問題無さそうに思える。
「さて、ルクス」
「ん? 何?」
「うん……なんだ、色々と言おうと思ってたんだが……な」
「別に今生の別れになる訳じゃないんだから、そう言うのは別の機会でも良いんじゃない?」
「……そうか、そうだな。ただ、これだけは言わせてくれ、ここまで育ってくれてありがとう」
「うん。こちらこそ、お父さんもお母さんも僕を産んでくれて、ここまで育ててくれてありがとう」
進学の為に実家を離れる時も、こんな感じだった……まあ、日本での親父はここまではっきりとは言わなかったが。
しかし、あれだ……どうもこういう空気は苦手だな――。
翌朝、ベルナールに作って貰った背負子に纏めた荷物を背負い、「それじゃ、行ってきます」と、西都へと続く道程の一歩目を踏み出した。




