42.春2
角の生えたウサギを見つけたが、緩衝地帯にいる動物は捕獲・駆除の対象なので、放って置く事は出来ない……とりあえず魔力探査で数を確認すると、三匹だけのようだ。
前の亜人みたいに数百じゃなくて良かったが……とはいえ油断はせず、逃げられない様に魔力で動きを封じてから鉈で首を落としていく。
小動物とは言え、この角で飛び掛られたら普通の人には脅威だろうから、領内に入る前に対処できて良かった……。
もうちょっと散策したかったが、これの報告もあるので境界の門へと踵を返す。
ウサギは足にも切込みを入れて、血抜きしながら行くとして、頭は勿体無いけど布袋に入れた。洗濯で血とか生臭さが、綺麗に落ちてくれるといいけど……。
「ディトロエが三匹ですか。ルクシアール様、お手数をお掛けしました……発見した場所はどの辺りか分かりますか?」
「地図とかあります? ここの隣の物見櫓が近くに見えていたんで、そこから大体の場所は割り出せると思いますよ」
どうやって川を渡ったのかの調査も必要あるだろうし、何より緩衝地帯は領兵の管轄でもあるから、一応こちらにも報告しておかないとな。
「そうだ、このディトロエって、どこかで売れたりするんですかね」
「それなら冒険者組合で買い取ってくれると思いますよ。それに、お屋敷に持って帰れば料理してくれるのではないでしょうか」
「そっか、ありがとう」
まあ、角を除けば普通のウサギっぽいけど、持って帰ったらバーノンは調理してくれるだろうか。
……あ、帰りに家に寄って聞けば良いか。
「――という事なんだけど、バーノンさん調理できる?」
「ええ、調理はもちろん、皮を剥ぐのも問題無いですよ……頭は煮込む位にしか使えませんが、体の方なら任せて下さい」
「それじゃ、組合に報告をして、持って帰っても良さそうなら、その時はお願いね」
こういうルールは聞いてなかったので、後で揉めない様に確認を取ってからだよな、やっぱり。
権利的には俺にあるだろうけど、いちおう依頼中の事だし……身体は食べるとしても、頭と角だけって引き取ってくれるのだろうか。
ともあれ、冒険者組合に着いて早々に、俺の担当であるカルエナに聞いてみた。
「え? 特に問題無いんじゃない? もちろん買い取りも出来るし、売らないで持ち帰っても大丈夫だよー。頭だけだと、安くなっちゃうけどね」
「それじゃ、頭だけ買い取りでお願いします」
「頭だけねー、袋はどうする? 買い取りも出来るけど、持って帰る?」
「あー、なら袋も一緒でお願いします」
「はーい、それじゃ今の値段を調べるから待ってねー、えっと……角は小銅貨二枚でー、耳は両方で小銅貨一枚。あと、頭と袋で……小銅貨十三枚だね」
安い気もするが、頭だけだしこんなもんだろうな。
ついでに依頼の方も清算してもらい、肉の鮮度が落ちない内に帰る事にする。
運良く鮮度の良い肉が手に入ったので、その日の夕食は当然ウサギ料理だった。
たまに出てくる肉と同じ味だったが、これだったのか……。
「――それで今日のご飯は豪華なんだね」
肉好きの姉もご満悦の様だな。
内臓を取り出さなかったので、多少は臭みが出るかもと思ったが、バーノンは上手く処理してくれた様だ。
「報告は受けてはいたが……領民を守ってくれてありがとう、ルクス」
「守ったって、大袈裟だよ」
「あら、そんな事無いわよ? ディトロエの角は怖いのだから……ねえ、ウルト?」
「そうよ、黄昏の花騎士だって最初は苦戦していたのよ?」
誰だよ、黄昏の花騎士って。
「まあ、偶然だから、そんなに気にしなくても良いよ」
「ルクスはいつもそれだな、……まあ、それもルクスらしいが」
「それで、あの毛皮はどうするの?」
「お母さん欲しい? 僕は別に要らないから、欲しい人が使えば良いと思うよ」
「ドリアル……お父さんの帽子を作ろうかと思うのだけれど、それに使わせてもらっても良いかしら?」
「うん、冬に被ってた帽子もボロボロだったし、ちょうど良かったね」
父は馬に乗って視察に行ったりしているが、その時も耳が赤くなっていたし、耳当ての付いた帽子を作って貰うと良いさ。
これから暑くなるから今すぐ使う物じゃないけど、毛皮は三匹分あるから余裕だろう。
「えー、私も欲しいー!」
姉よ、そこは我慢しようよ……両親も困っているじゃないか。
それに、もうすぐ貴族学校に入るんだから、いま作っても無駄になるだろうに。
「お姉ちゃんはもうすぐ学校でしょ? いま作っても、被る機会が無いまま大きさが合わなくなっちゃうけど、それでも良い?」
「…………それもそっか」
「お姉ちゃんが卒業するまでには他の毛皮が手に入るかもしれないし、帰ってきてから作った方が良いんじゃない?」
「ルクス君の言う通りね、今回は我慢するわ」
姉も十二歳だから、ちょろさと理性が良い感じに混ざってるな。
誤魔化せはしないけど、説得はし易くて助かるよ。
そんな姉も一月と経たずに貴族学校のある西都へと旅立った。
そして、さらに月日は流れて俺も十二歳となっていた――。




