41.春
「それじゃ、行ってきます!」
「ああ、気をつけてな」
山に見えていた残雪も無くなり、厚手の上着が要らなくなる頃には、家から見える緩衝地帯にも緑色が広がっていた。
今年になってからすでに何件かの依頼をこなしており、冒険者家業を中心とした生活にもだいぶ慣れてきたと思う。
「おはようございます、ミラさん」
「おたようございます、ルクシアール様。本日はどの様なご用件で?」
「この前に受けた依頼の納品ですよ」
春になって素材が手に入る様になったので、調合の方も本格的に手を出し始め、今では商業組合と冒険者組合の両方から依頼を受けている。
「えっと、粉末の傷薬が五と、腹痛薬と解熱薬が三ずつです」
「はい、確かに。それでは鑑定してきますので、少々お待ち下さい」
緩衝地帯で採れる物から出来る薬は限られているが、それでも需要はあるので結構な頻度で依頼がある。まあ、中間手数料などもあるから高額とは言えないけど、俺の練習にもなるしデメリットの方が少ないので受け続けている。
「お待たせいたしました。品質の方も問題はありませんでしたので、これが報酬となります。ご確認下さい」
「はい、確かに。他に何か急ぎの物はありますか?」
「お待ち下さい。…………急ぎではありませんが、頭痛薬が少なくなってきていますね」
「頭痛薬ですね、それじゃ頃合を見て持ってきますので」
「はい、よろしくお願いいたします」
良くも悪くも、相変わらずのビジネスライク……さすがは商業組合だ。
さて、次は冒険者組合だな……数軒隣だけど。
「おはようございます、カルエナさん」
「あら、ルクス君おはようー、依頼?」
「いえ、まだ見ていませんが、まずは薬の納品をお願いできます?」
「ああ、はいはい……ちょっと待ってねー」
だいぶ対応は違うが、お世話になっている分、商業組合よりもこっちを優先させたい気持ちはあるからな……実は買取価格もこっちの方が高いし。
「お待たせー、傷薬が二十に……解毒薬が十五……で、あってる?」
「はい、それであってますよ。これが品物です」
「はい、それじゃちょっと待っててね」
他の冒険者も活動的になってきたので、薬の消費も多い様だ。
それにしても解毒薬か……近場に毒持ちの生き物でも居るんだろうか。
「――問題ないってさー。はい、これが報酬ね」
「はい、確かに。それじゃ依頼を見てきますね」
「採集の依頼も増えてきてるから頑張ってねー」
さて、暖かくなってきたお陰で、六等級の俺が受けられる依頼も選り取りみどりだ。
まあ、活動範囲は緩衝地帯の草原限定だけどね……と、一枚の依頼書が目に留まる。
ユクシクスの採集か。殺菌・抗炎作用があるから色々な薬に使うんだけど、用途が幅広いせいで採集依頼も多く、境界の門周辺では採り尽くされてるんだよな。
自生域も遠いから依頼としては人気無いけど、自分の分を採るついでにこれを受けるか。
さっそく依頼書を剥がしてカウンターに持って行き、認証を受けてから緩衝地帯へとやってきたが……恐らく、未開拓地へと続く道沿いの物は採り尽くされているだろうから、前ではなく左方向に歩を進める。
「冬季以外は採集が多いんだから、横道を作ってくれても良いのに……」
道なき道を歩くので、素材を踏まない様に『鑑定・改』で確認しながら進むが、これが意外と時間を取られる。
とはいえ、十歳らしからぬ身体能力があるので、疲労は皆無だけど。
神様の言っていた、魂がどうのこうのってやつだと思うけど、全力を出す機会が無いので良く分からないというのが現状だ。
戦闘でもあれば実感できるんだろうけど、痛いのはあまり好きじゃないしな……。
「お、ユクシクス発見」
足元を見て歩いていたので気付くのに遅れたが、ユクシクスの自生域に到着していたようだ。
まずは周囲を確認して、ジャントラ達に教わった通りに、一箇所からではなく全体のバランスを見て間引く感じで……。
依頼は七本一束が四束なので、七本取り終える毎に束にして、水で濡らした布を根に巻いていく。
技能のお陰もあり、自分用の物も含めた五束をなんら苦も無く揃えたが、このまま帰るのも勿体無いので散策でもするか……と、適当にふらふらしていると、視界に黒曜石の様な一本角を生やしたウサギが見えた。




