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帰れなかった勇者の新・異世界生活  作者: 乙三
少年期編
43/79

41.春

「それじゃ、行ってきます!」

「ああ、気をつけてな」


 山に見えていた残雪も無くなり、厚手の上着が要らなくなる頃には、家から見える緩衝地帯にも緑色が広がっていた。

 今年になってからすでに何件かの依頼をこなしており、冒険者家業を中心とした生活にもだいぶ慣れてきたと思う。



「おはようございます、ミラさん」

「おたようございます、ルクシアール様。本日はどの様なご用件で?」

「この前に受けた依頼の納品ですよ」


 春になって素材が手に入る様になったので、調合の方も本格的に手を出し始め、今では商業組合と冒険者組合の両方から依頼を受けている。



「えっと、粉末の傷薬が五と、腹痛薬と解熱薬が三ずつです」

「はい、確かに。それでは鑑定してきますので、少々お待ち下さい」


 緩衝地帯で採れる物から出来る薬は限られているが、それでも需要はあるので結構な頻度で依頼がある。まあ、中間手数料などもあるから高額とは言えないけど、俺の練習にもなるしデメリットの方が少ないので受け続けている。



「お待たせいたしました。品質の方も問題はありませんでしたので、これが報酬となります。ご確認下さい」

「はい、確かに。他に何か急ぎの物はありますか?」

「お待ち下さい。…………急ぎではありませんが、頭痛薬が少なくなってきていますね」

「頭痛薬ですね、それじゃ頃合を見て持ってきますので」

「はい、よろしくお願いいたします」


 良くも悪くも、相変わらずのビジネスライク……さすがは商業組合だ。

 さて、次は冒険者組合だな……数軒隣だけど。



「おはようございます、カルエナさん」

「あら、ルクス君おはようー、依頼?」

「いえ、まだ見ていませんが、まずは薬の納品をお願いできます?」

「ああ、はいはい……ちょっと待ってねー」


 だいぶ対応は違うが、お世話になっている分、商業組合よりもこっちを優先させたい気持ちはあるからな……実は買取価格もこっちの方が高いし。



「お待たせー、傷薬が二十に……解毒薬が十五……で、あってる?」

「はい、それであってますよ。これが品物です」

「はい、それじゃちょっと待っててね」


 他の冒険者も活動的になってきたので、薬の消費も多い様だ。

 それにしても解毒薬か……近場に毒持ちの生き物でも居るんだろうか。



「――問題ないってさー。はい、これが報酬ね」

「はい、確かに。それじゃ依頼を見てきますね」

「採集の依頼も増えてきてるから頑張ってねー」


 さて、暖かくなってきたお陰で、六等級の俺が受けられる依頼も選り取りみどりだ。

 まあ、活動範囲は緩衝地帯の草原限定だけどね……と、一枚の依頼書が目に留まる。

 ユクシクスの採集か。殺菌・抗炎作用があるから色々な薬に使うんだけど、用途が幅広いせいで採集依頼も多く、境界の門周辺では採り尽くされてるんだよな。

 自生域も遠いから依頼としては人気無いけど、自分の分を採るついでにこれを受けるか。


 さっそく依頼書を剥がしてカウンターに持って行き、認証を受けてから緩衝地帯へとやってきたが……恐らく、未開拓地へと続く道沿いの物は採り尽くされているだろうから、前ではなく左方向に歩を進める。



「冬季以外は採集が多いんだから、横道を作ってくれても良いのに……」


 道なき道を歩くので、素材を踏まない様に『鑑定・改』で確認しながら進むが、これが意外と時間を取られる。

 とはいえ、十歳らしからぬ身体能力があるので、疲労は皆無だけど。

 神様の言っていた、魂がどうのこうのってやつだと思うけど、全力を出す機会が無いので良く分からないというのが現状だ。

 戦闘でもあれば実感できるんだろうけど、痛いのはあまり好きじゃないしな……。



「お、ユクシクス発見」


 足元を見て歩いていたので気付くのに遅れたが、ユクシクスの自生域に到着していたようだ。

 まずは周囲を確認して、ジャントラ達に教わった通りに、一箇所からではなく全体のバランスを見て間引く感じで……。

 依頼は七本一束が四束なので、七本取り終える毎に束にして、水で濡らした布を根に巻いていく。


 技能のお陰もあり、自分用の物も含めた五束をなんら苦も無く揃えたが、このまま帰るのも勿体無いので散策でもするか……と、適当にふらふらしていると、視界に黒曜石の様な一本角を生やしたウサギが見えた。


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