40.風呂にて
風呂を作ると決めた翌朝、少し雪が降っているけど作業には問題は無さそうだ。
まずは排水経路だけど、掛け湯や体を洗った排水は家で出る排泄物や生ごみと同じ様に、家に隣接している森にいるタッドムーテに処理を任せるとして、湯船に張った大量の水は川に流そうと思う。
とはいえ、お湯のまま流すのは良く無いだろうから、冷ます為の溜池も用意して……。
建物は土魔法で一気に……浴室と更衣室が男女別で、計四部屋に区切られていれば問題無いだろう。
シャワー用に、二階に当たる部分にお湯を入れる水槽を設置して……こんなもんか?
まあ、そもそも難しい物を作る事も出来ないし、湯気を逃す窓とかも後で良いから、まずは形を作ってしまおう。
ついでに渡り廊下の屋根も作って……なんか全部が土色だと気が滅入ってくるな。
色に関しては、後で川に行って色付きの石を集めて来るか――。
と、昼前には土色一色から様変わりした、清潔そうな風呂場が完成した。
浴室を広めに作ったので、うちにいる全員が一度に入っても問題は無いだろう。
その分、建物と渡り廊下に土を使いすぎたのか、溜池が結構は広さになってしまったが、……怒られたらその時に何とかすれば良いか。
ともあれ、後は実際にお湯を張って、使ってみながらの試行錯誤だな。
「――で、こんな感じの物が出来ました」
「……てっきり小さな、湯気を使った風呂かと思っていたんだが、随分と立派な物を作ったんだね……一日で」
父の言っているのは、たぶん蒸し風呂とかサウナの事だろうな。
あれはあれで気持ち良いんだけど、どうせなら肩までお湯に浸かりたいと思うのは元日本人だからなのだろうか。
「ルクス君、もう入れるの?」
「入れる事は入れるけど、替えの下着とか体を拭く布とか色々と必要な物があるから、まずはそれの確認と準備をしてからの方が良いと思うよ」
注意書きなども各所に書いたし、後は基本的にお任せだな。
使用頻度によってはお湯の入れ替えとかも頻繁にしなきゃならないけど、それは俺が魔法でやれば良いし……何はともあれ、俺も風呂に入る準備をするか。
「――はあ、気持ちいい……やっぱりこれだよな…………」
気が緩んだせいか迂闊な発言をしてしまったと気付いたが、周りに誰もいなくて助かった……でも、仕方ないよなこれは。
「ルクシアール様、ありがとうございます」
「急にどうしたの? ハストさん」
「いえ、この様な待遇に感謝を申し上げたく思いまして」
「それなら、お父さんに言ってあげたら? ここを作るのにも、誰彼と分け隔てなく使えるように許可を出したのもお父さんだし」
「はい、旦那様にも申し上げたところ、ルクシアール様へ、と……」
「そっか、それなら僕がこうやって好きに出来るのは、みんなが生活を支えていてくれているから……って事でどうかな?」
「…………かしこまりました。それでは、今後とも皆様を支える事で御恩返しとさせて頂きます」
「うん、新人教育の方もあるし、お風呂で疲れを取ってこれからも頑張って貰わないとね」
ハストも六十代半ばだから、後数年でこの国の平均寿命と言われている年齢を迎える。
子供の頃から、年齢ではなく一個人として俺を扱ってくれる人だったから、まだまだ元気でいて欲しいよな。
なんて感傷に浸ってると、隣の……女湯からの話し声が聞こえてくる。
「――やっぱり胸の大きい方が……奥様が羨ましいです」
「そうかしら、これでも結構大変なのよ? 重いし肩は凝るし、跳ねたりすると反動で痛むし……」
「でも、男性って大きい方が好きですよね?」
「そうねえ、……他の方は分からないけど、ドリアルは大きい方が好きみたいね」
そんな会話に聞き耳を立ててか男湯は急に静かになり、会話の流れから父ドリアルへと視線が集まる。
……母さん、やめてあげて。
「サリスの旦那様はどうなの?」
「うちもそうかな……この間の収穫祭の時も、すれ違う人の大きな胸には目が釘付けになってたし」
「……ルクス君もそうなのかな?」
「ルクスはどうかしらね……まだそう言うのは早い気もするけど、でも――」
申し訳ないが、この流れは不味いので断ち切らせてもらおう。
「あのー、女湯の皆様、会話が筒抜けなんですけどー」
と、伝えると途端に静かになる。
ふう、壁一枚で仕切っているだけだからな……こういう事も考慮していなかった俺も迂闊だったけどさ。
ともあれ、俺に関しての事故は未然に防げたので良しとしよう。
結局、後日の会議で時間による男女交代制が導入される事となった。
せっかく全員では入れるように大きく作ったんだけどな。
そうして作った風呂は再改修し、リトナとノグマスの魔力訓練を続けながらも退屈な冬は過ぎ、季節は春になった――。




