38.訓練開始
「――と、言う訳で、二人には魔力量を増やす訓練をしてもらいます」
翌日、リトナとノグマスの二人の都合を見計らって、俺の部屋に集まってもらった。
いちおう扉や窓の戸板は開けっ放しにして、誤解の生じる隙を減らし、空気も快適な温度に暖めてあるので少しは警戒心も和らぐだろう。
「あの、ルクシアール様。わたし、魔法の事とか魔力の事とか良く分かりません。それに痛いのや苦しい事もあまり……」
「……えっと、なんて言われてここに?」
「ルクシアール様が魔法の実験をするので、その実験台になる様にとリトナさんに」
リトナに目をやると、露骨に逸らしやがった。
ここにも敵がいたか……これは何かお仕置きを。
まあ、人に教えるのなんて初めてだから、ある意味では実験だろうけど。
「たぶん想像している様な事は無いと思うよ。それにリトナさんにも同じ事をするんだし……それじゃまずはノグマスさんから――」
と、まずは背中を向けてもらい、そこに俺の手を当てる。
要は体内の魔力を動かす感覚を覚えさせれば良いんだから、俺の魔力で掴んで動かしても問題は無いはずだ……多分。
「それじゃ始めるよ…………どう? 身体の中で、何かが動いている感覚は分かる?」
「左胸の下あたりですか? ぐるぐると回っている感じがします」
「そうそう、それが魔力だよ。今は僕が動かしているけど、今度はノグマスさんが自分で動かしてみようか」
「はい…………動いていませんよね」
「うん、少しは補助もするから、まずは左右に動かす所からやってみようか。……はい、右ー、はい、左ー、はい、右ー」
「くっ……んっ…………このっ……」
別に身体を左右に振らなくても良いんだけどな……なんか、テレビゲームをしている母親の事を思い出すな。
とはいえ、それが良かったのか、徐々にではあるが自力で動かせる様になってきた。
「どうですか? 動かせていますよね?」
「うん、ちゃんと動かせてるよ。次は上下とか前後にも動かしてみようか」
俺が勇者の時はここまで出来るのに凄い時間が掛かったけど、補助があるとこんなにも早く出来る様になるもんなんだな……。
ともあれ、ノグマスは自力で動かせる様になったので、後は自主練で反復を繰り返せばいいだろう。別に、今すぐ全部を任せられる様になって欲しい訳じゃないからな。
さて――。
「おまたせ、リトナさん……えーっと、実験台になりたいんだっけ?」
「ちょっとルクシアール様、冗談ですってば冗談」
と、冗談はさておき、リトナにもノグマスと同様に魔力を掴んで動かしてみる。
「ルクシアール様、左胸には何も感じないんですけど……」
「人によって場所が違ったりもするからね。さて、どこにあるでしょう」
「それなら右腰ですかね。回ってはいませんが、上下左右に動いている感じがします」
「うん、正解。それじゃ今度は自分で動かしてみようか」
これも同様に、左右に動かす事から教えたが……今日一日で、教える事のほとんどを消化してしまったな。
なんだか、魔力の動かし方を覚えるのに苦労した勇者時代の自分が、酷く無能な存在に思えてくる。
「ノグマスさんは……うん、今度は円じゃなくて球体になる様に動かしてみようか」
掌の上に光球を出して、それを円から球状になるように動かし、ノグマスがイメージしやすいように実演してみた。
別に、負けた気分のまま終わるのが嫌だから少し難易度を上げた訳じゃない……そう、これはノグマスの為だから仕方の無い事なんだ。
あとはリトナへのお仕置きか……火は洒落にならないし、水や風や土は微妙だよな……静電気の様に雷でピリッとさせるか?
……と、ふいに思いついた事があるので、まずは自分の肩に手を置いて試してみる事に。
さすがに試さないで他人にやるのは怖いからな……うん、問題ない様だ。
「――さて、リトナさん。さっきの実験台の事についてですが」
「なんですか、ルクシアール様……私の両肩に置かれた手が怖いのですが」
「まあまあ、お気になさらずにー」
と、微弱な雷魔法を、両肩に置いた左右の手から、交互に出したり止めたりを繰り返す。
ルクス式、低周波マッサージ器と言った所だろうか。
「ちょっと、ルクシアール様? 肩が勝手に動くんですけど……」
「痛いとか、そういうのは無い?」
「はい、特に嫌な感じはしませんが……これは罰なのですか?」
「まあ、罰といえば罰かな……初めてやるから、どうなるか分からないし、上手くいく保証も無いから……言葉の通り実験台だね」
俺の手から電気を出して、それをリトナに流すと、通電の際に皮膚に痛みが出ると思うので、直接リトナに流しているが問題は無い様だな。
そのまま少しの間、試してみた結果は……。
「肩が軽くなりましたよー! なんですかこれ?」
筋肉を動かして血流を促進させて老廃物を……なんて説明しても無駄だろうし。
「肩叩きとか肩揉みとか、あれと同じ様なものだよ」
「……あの、腰もやっていただけませんか?」
これでも領主の息子と使用人と言う間柄なんだけどなあ。
まあ、生活の面倒を見てもらっているので、やる事は吝かでは無いが……。
「そうだな……魔力量が上がったら、またやってあげるって言うのはどう?」
リトナの後にマッサージしたノグマスも、こくこくと頷いている。
ノグマスは背中だったが、かなり凝っていたからな……まだ十三歳と言う年齢なのに、こんなに身体を酷使させてゴメンよ。
とりあえず、魔力の動かし方は教えたので、あとは自主練を重ねてもらってどこまで伸びるかだ。




