04.恩恵の確認
書くのは初めてですので、不備がありましたらお願いします。
三歳になった翌日、何時も通りに起き、何時も通りに朝食をとる。何時も通りなら書斎に向かい本を読むのだが、今日は外出の準備をする。
晴れているとは言え、初冬という季節なので、少し厚手の上着を……無いな。
あれ? 何処にやったのか……。
「リトナさん、おはよう」
「ルクシアール様、おはようございます。今日はどうしました?」
「僕の上着知らない? あの厚手の青いヤツ。外に行くのに着ようと思ったんだけど、いつもの場所に無くてさ」
服が見付からないので洗濯場に行き、担当のリトナさんに聞いてみる事にした。
基本的に洋服は兄達のお下がりとなっている。
たまに父さんのお下がりも含まれているが、その位に仕立ての良い厚手の物だったり、刺繍などの装飾が施されていた服は高い。
こういう文化に文句は無いし理解も出来るが、そんなお下がりの服でもお気に入りの服はある……今回の青い上着もそれだ。
代用の服はあるけれど、何となくあの上着の気分なのだ。
「いえ、見ていませんね……うーん、今日の分の中にも無かったと思いますよ」
「そっか、……分かった、ありがとう」
リトナが知らないとなると、誰かが気を利かせて洗濯に出したという可能性は無くなったが……そうなると、早くもお手上げですよ。
仕方ないので、同性能の緑色の上着を羽織って玄関の外に出る。
今までは一人で家から出る事は禁じられていたが、三歳になったという事で、敷地内であれば自由行動が認められた……あ、まずい。
急いで家の中に入り、両親がいるであろう大広間へと向う。
「お父さん、お母さん。庭で遊んできます」
「うん、分かった。ちゃんと温かい格好をしていくんだよ」
「はい、いってらっしゃい。気を付けてね」
一人で外に出ても良いが、両親に報告してからという注意事項を忘れていた。
ふらっとコンビニに行く様な生活をしていたし、勇者時代は一人行動ばかりだったから、こういう感覚が鈍くなっている様だな。
改めて、俺は三歳で庇護下に置かれるのが当然の年齢なのだ。と、再認識しておかないと……でも、三歳ならうっかり言いつけを破る方が自然か?
まあどちらでも良いか、とりあえずこれで外出する障害は無くなった。
「お、ルクスも外に行くのか」
「うん、敷地内での自由が認められたからね。ディル兄ちゃんは何時もの通り、素振り?」
「まあな、寒い時は体を動かさないと。ルクスも一緒にやるか?」
「僕にはまだ早いよ。兄ちゃんみたいに体が大きくならないと」
「確かに……たまに忘れるが、まだ三歳だもんな。まあ、剣を振れとは言わないけど、多少は体を動かしておいた方が良いぞ。それじゃあな」
そう言って、兄のディルは木剣を片手に外に出て行く。
ディルは剣術の恩恵を貰っているから、ゆくゆくはそういう職業に就くのかな。そう考えれば、今の内からの鍛錬も後々役に立つだろう。
俺も冒険者志望だけど、さすがにこの年齢からの鍛錬は……子供の頃に筋肉を付けすぎると、背が伸びなくなるってネットで見たし! 俺の体感で十年以上も前の情報だけど。
まあ、体を鍛えるとしてもまだまだ先の事だし、今は子供と言う事を楽しもう。
しかし、改めて考えると、正面の門までの道は馬車で通った事はあるけど、それ以外の場所は初めてだ。
うーん、とりあえず玄関を出て右手に行ってみるか。
さて、今日の外出の目的は散策もあるけど、昨日貰った恩恵を試す為だ。
風と自由の神ベンク様から賜った恩恵の『風魔法』と『回避』。
風魔法の方は昨日実践したので問題ないし、回避の方は……あとで兄のディルに手伝ってもらうとして……。
今回試したいのは、創造せし万物の神アトエラ様……創造神様から賜った恩恵『創造』『収納庫』『鑑定』の三種類。
『収納庫』と『鑑定』、この二つに関しては、この世界にも普通に存在している物らしいし、チート物では有名なスキルなので、日本での知識から大まかな能力は容易に想像出来る。
一応、神様にも説明は聞いたし、あとで実際に使って確かめてみるけど……まずは『創造』から試そうと思う。
実は、昨日家族に見せた加護や恩恵を誤魔化した方法も、『創造』を使用した物だったりする。
……正確には新しい表示ページを製作して、それを見せたのだが。
この能力は、対象にスキルを介した魔力を流す事によって、対象を変革させる能力だ。
これによって、表示ページを複製し表示名を変える事で、任意の情報しか載せていないページを呼び出し、それを家族にみせた訳だな。
これだけだと『創造』に対して名前負けしている感じだけど、……例えば鉄とゴムを合わせて、伸び縮みする鉄を作る事も可能らしい。
植物と黄金を合わせ、黄金の実のなる木も作れる。
要は概念と結果さえ理解し、それをしっかりとイメージすれば何でも作り出せる。
命だろうと世界だろうと何でも。
それが『創造』の本当の能力らしい……まさに神の力だけど、概念を理解したとしても率先しては作りたくは無い。
命や世界を作って、その結果がどうなるか……そこから生じる責任は背負えないよ。
まあ、その責任を背負い、ただ見守る事が出来るからこその神様なのだろうけど。
試しに、落ちている石を拾ってスキルを介した魔力を流すと、石は粘土の様に柔らかくなる。平たく延ばしたままで魔力を止めれば、そのままの形状で固い石に戻る。
こういう使い方は物作りに便利だから多用しそうだけど、有機物、特に生物に対して使うのはやっぱりまだ怖い。
というか、使いたくはないよな……。
さて、気持ちを切り替えて……次は『収納庫』。
生き物は収納できないが、内部は時間が停止しているので、熱い物は熱いまま保管できる。そして繋がっているのは亜空間なので、収納力はほぼ無限。
まあ、あるある設定だね。
でだ、ギアニカでも下位互換の鞄を使っていたけど、実は前々から疑問だった事がいくつかある。
地面に手を置いてこの恩恵を使用したら? うっかりこの星を丸ごと収納って事にならないのか? とか……。
生き物は不可だけど、その線引きとか……そう言う訳で、この『収納庫』も色々と試してみようと思う。
と、その前に、『創造』を使い、リミッターを設けて置く……やっぱり怖いし。
テスト運用だし、一回に収納できるのは最大で……十キロにしておくか。
これで『星をうっかり』は無くなるだろう。
まずは、さきほど変形させた石を収納する…………あれ、手元から石は消えたが、どこに行ったか確認出来ない。
石を思い浮かべながら取り出すイメージをすれば手元に戻るが、これでは収納品を全て覚えていなくちゃいけない。
このままでは不便なので、一覧表示出来るように『創造』で……表示方法は、加護とかと同じ様なウインドウ表示でいいかな……自分だけ見える様に……これで大丈夫だろう。
「収納品、表示」
その言葉と共に収納物の一覧がウインドウ表示される。成功だ。
しかし、先程収納した石の他にも、膨大な量の品々がウインドウには表示されてた。
何だろう、これ…………ああ、ギアニカで使っていた魔法の鞄の中身が引き継がれているのか。と言うか、神様が引き継いでくれたんだな。
とは言っても、全てがそのまま引き継がれている訳ではなく、通貨などはこちらの物になっているし、魔物の素材などは無くなっていた。それでも、あの九年間がまったくの無駄に終わらなかったと実感でき、胸が熱くなる……神様には改めて感謝しないと。
さて、少し脇に逸れてしまったが、実験の準備も整ったので、さっそく地面に手を置き収納するイメージをする。
瞬間、地面が半球状に抉れ、穴の底には小さな虫が数匹……なるほど、生物は自動で除外して収納してくれるのか。
次に、すぐ脇に生えている枯葉混じりの雑草は……収納不可か。落ち葉は可。ドングリの様な木の実は不可……なるほどね。
しかし、そうなると…………最初に収納した土を元の場所に戻し、今度は『鑑定』でその土を見てみると、予想通り、表示は『死んだ土』となっていた。
恐らく、収納する際にフィルターの様な物に掛けて、昆虫や微生物などはこそぎ落としているのだろう。
粒状の土とかなら生物を分離出来るので収納できるが、枯れ葉交じりの雑草みたいな物は、生きた細胞と死んだ細胞が一体になっているので収納出来ない。
で、土の場合は有益な微生物なども排除するので、生物の住んでいない『死んだ土』になる。病原菌や害虫の卵などを除外出来るのは良いが、これじゃあな。
そんな土を放置しておくのは心苦しいので、土魔法で周囲の土と混ぜ合わせて馴染ませておく。これで微生物が住み着くのも早くなるだろう。
その後も実験と検証を重ねた結果……細胞が死滅している干し肉とかなら大丈夫だと思うが、生鮮食品は当然無理だろうし、発酵食品全般も収納自体は可能だろうけど、取り出した後に熟成とかは無理そうだ。酵母とかを取り除いたら風味とかも変わるんだろうか……。
そう言う訳なので、クエストで良くありそうな薬草採取とか狩猟系には使えない……荷物の持ち運びには便利だし、除菌という利点は良いが、新鮮な野菜や肉とかが入れられないとなると微妙な能力だな。
『収納庫』のついでに『鑑定』と色々も実験してみたが、こちらは予想のままといった無難な能力だった。
両能力とも利点と欠点が混在しているので、その内に『創造』でカスタマイズしていく方向で……と言う結論に達し、一先ずの成果としておこう。
はあ、どっと疲れた……やっぱり考察とか頭脳系労働は性に合わない。でも、自身や保有スキルのスペックは把握しておかないと、いざと言う時に困るってのはギアニカで経験済みだからな。
完璧とまではいかなくとも。ある程度は知っておかないと。
そんな事を考えながらも、地面から少しだけ顔を出していた白い石を拾い、創造スキルを使用してグネグネと捏ね、脳の疲労を癒す。
はあ、落ち着く……。日本では自作フィギュアにも手を出していたし、手で何かの形を作ると言う作業自体が好きな部類だ。
「……久しぶりに何か作ろうかな」
ギアニカではそんな余裕は無かったし、久々に創作願望が湧いてきたので、ちらっと表示したままの収納品に目をやる。
造形用の小さなヘラとか刃物とか……作業用の道具が欲しいけど持っていない。でも、幸いな事に材料は沢山ある。手持ちの不用品を『創造』で加工すれば良いか。
現状では鋼の鎧とか要らないし、鉄の剣なんて二百本近くあるし材料には困らないだろう。
あれ? これはミスリル製の鎧だと思ったけど、名前表示が真銀の鎧になっているな……ここではミスリルの事を真銀と呼ぶのか、覚えておこう。
そんな事もあり、ひとまずは所有物の確認をしてみる……様々な武器に防具、合計すると八百人分位はある。商売でも始めるか?
あとは貴金属のインゴット……日本に帰った後で換金しようと、通貨を砂金とかに替えていたっけ。金銀銅に鉄と真銀、小さい塊や鉱石のままだった物もあったけど、神様が纏めてインゴットにしてくれたのだろう。
どれも数トン単位で入っている……元々はギアニカの資源だけど大丈夫なのか?
それに各種の宝石にその原石、これは宝箱から入手した物が殆どだけど、興味がなかったのでほったらかしにしていた。
「リソトープ、品質は優、家具などの装飾に用いられる。粉末にすれば顔料にもなるし、用途は多岐にわたる……か」
捏ねて遊んでいた白い石を収納し、代わりに適当な物を一個取り出して鑑定してみた。日に透かせば綺麗な青色の石だが、そこまで高価な物じゃない様だな。
原石のままだからこの程度で、研磨したらもっと価値が上がるのか?
「それなあに?」
急に声を掛けられて、体がビクッと跳ねる……集中していたこっちもアレだけど、もっと気配を出して近付いてきて下さい。
「お姉ちゃん、こんな所でどうしたの?」
「え? ルクス君が家の中にいないからー。それなに?」
「これ? 庭で拾った石だよ。青くて綺麗でしょ」
「ほんとだねー、でも、ルクス君だけずるい! 私もさがす!」
「いや、僕を探してたんでしょ? 何か用事があったんじゃないの?」
「ううん、ないよー。なにもする事がないから、あそんでもらおうと思って」
退屈だから遊び相手を探していただけか。それにしても……。
「そっか、……もう一つ良いかな」
「なにー? きれいな石をはやく探さないとダメなんだけどー」
「いやさ、その着ている青い上着、僕のだよね」
「そうだよ? 自分の服なのに、わすれちゃった?」
「…………うん、いや、…………まあ良いか」
「もう探しに行ってもいい?」
「うん、いってらっしゃい」
庭を走り回る姉を眺める弟……これはこれで平和だな。でも、残念だけどこの石は見つからないと思うよ。
初の探索だったが、玄関を出て右手には木が数本植えられているだけで、他には何も無かった。
たまに石ころは落ちているが、そこそこ管理はされている様だったな。
家の側面に行けるかと思ったが、柵があり仕切られていたので基本的に通ってはいけない場所なのだろう。
位置的にはトイレとか水場側だし、し尿や汚水処理施設でもあるのかな?
焚き木などを拾う為の森へと続く扉もあったけど、そこへ一人で入ったらさすがに怒られそうだから止めておこう。
「特に面白い物は無かったけど、色々と実験できたから良いか」
「そうなの?」
今度は気配を感じていたので大丈夫だった。
「そうだよ。……ああ、お姉ちゃん、目と口を閉じて」
「ん? んー」
さきほどまで走り回っていた姉は、上気し汗をびっしょりと掻いている。この季節にそんな状態のままでは確実に風邪を引くだろう。
「はい、もう良いよ」
「すごい! からっとした!」
湿度の低い風を纏わせて衣類などの湿気を急速に取り除く、言うなれば乾燥魔法だ。
ギアニカで水浴びをした時に多用していたが、目と口を開けていると、そこからも水分をごっそりと持っていかれるので酷い事になる。
「それでも一応は着替えた方が良いよ。いったん中に入ろうか」
「えー、でも石が見つかってない!」
「それじゃ、中に入って着替えるなら、この石をあげるよ」
「ほんとー? じゃあ、はやく行こうー」
もうすぐ昼になるし、リソトープを姉に渡していったん家に戻る事にする。
ああ、兄のディルにも手伝って貰いたい事があったが、昼には兄も戻ってくるし、話はその時で良いか。
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